発行たての離婚届受理証明書を手に取り、霧島奈央は市役所から出てきた。「若......霧島様」と彼女に丁寧に声をかけた執事の渡辺さんは気まずそうな顔をしていた。「霧島様に渡してくれと大旦那様が」話の続きに、彼女の目の前に一枚のキャッシュカードが差し出された。この行動の意味は、いわずもがなだった。この状況に戸惑った奈央は、一瞬うっそりしてやっと返事をした。「受け取りません。渡辺さん、私の代わりに、大旦那様に礼を申し上げてください。この二年間は大変おせわになりましたと」言い終えると、彼女は、真っすぐ道端のほうへ向かい、長く待たされていた黒いマイバッハに乗った。車に乗ってきた奈央は、車内に乗っていた二人の様子を見て、呆れ笑いをしながらこう言った。「翔兄、お兄、バツ一つつけたくらいで、ここまで緊張しちゃってて、大袈裟じゃない?」「奈央、離婚したって本当か」運転係の柊和紀は振り向いて、話のついでに彼女のほうを見た。彼の目には未だに隠しきれない疑いがあった。奈央は頷きながら、笑った声で相槌を打ってあげた。「さっき離婚届受理証明書をもらったばかり、発行たてだよ」そう言った側、彼女はバッグから白い受理証明書を取り出して、二人の目の前で揺らした。「よくぞやった!」と和紀は豪快に笑った。「もっと早く離婚したらいいのによ」「違う!最初からあんな結婚するべきじゃなかった!」前言を撤回した彼の口からこの言葉が出てきた。彼に一瞥して、奈央は何かに急かされたかのように口を利いた。「お兄、運転に集中して、婚姻の墓場から解放されて間もなく、本格的な墓場に眠らされるのはごめんだわ」「それに、離婚ってめでたいことじゃないし、何もそこまでウキウキしなくても......」彼女は遠慮なく胸の内を吐いた。寺を一軒壊しても、人の結婚を壊してはいけないって、みんながいつも言っているでしょうというのは彼女の心の声だった。彼女の感覚では、なんと二人のお兄さんは自分の離婚をずっと前から期待していたようだった。「そりゃ、ウキウキするよ」思い切り頷いた和紀は、後ろの席でずっと無口な男に目線を配った。「だってオレだけじゃなく、兄貴も相当嬉しいようだぜ」奈央からの目線を感じた大賀翔は反論せずに、首を縦に振って、話に入った。「カズの言った通りだ。最初から結婚しなかっ
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