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第9章 そうですね、宇野姓の人が嫌いかしら

海斗はその質問で、猫水になった。返答したのは暫く考えてからだった。

「それは.....多分ないかと、Dr.霧島はただ単純に宇野様に会いたくないのかも......」

話の続きはまだまだだけど、海斗はぞっとしてきた。なんとなく室温が下がったような気がしたが......

再び顔をあげようと思えば、自分のボスが暗い顔で自分のことを見ていた。自分が言葉を間違えたことを察した海斗は、大いに驚いてどうしようかわからなくなって......

「そんなの断じてありません!」

海斗はいかにもそういうことだという顔で嘯いた。

「宇野様はイケメンで魅力的ですし、宇野様が嫌いな女性などいません。Dr.霧島のこれは、焦らし作戦に違いありません」

嘯いたと言っても、海斗の話には偽りはなかった。何しろ泉ヶ原では、椿が全ての女性の理想中の彼氏だというのは事実だった。奈央のところでの仕打ちは初めてだったので、椿が相手がわざと特別な方法で、自分の気を引こうとしていたと誤解したのも、無理がなかった。

焦らし作戦......

そうなのか?

一週間後、関谷悦子は無事ICUを卒業して、一般病室に戻った。奈央が他の医者たちと回診に来た時、彼女は座ったままスマホを弄っていた。前にくれべたら、顔色はかなり良くなってきた。

「今日の体調はどうですか。不調はありませんか」

奈央はいつも通りの決めセリフを言った。

奈央が来たことで気が晴れたのようで、彼女は笑いながら頭を振った。

「ううん、全然大丈夫です」

その答えに奈央を何の以外もなく、頷いた。

「それならよかったです。もう暫くして退院できそうです。後は、家でゆっくりと休めばいいのです」

話を終えて、これから出ようとしたところに、悦子は彼女を呼んで引き止めた。

「Dr.霧島、少し時間をいただいても大丈夫そうですか」

奈央は眉を顰めて、聞き返した。

「何かご用?」

「大したことはありませんが、ちょっとDr.霧島と話したいだけです」

口振りをやんわりとしていた彼女のその仕草には、人を可愛がる気持ちにさせる威力があった。

当然、奈央はものはずれだった。奈央にとって、関谷悦子も他の患者と同じ病人であったことは変わらなかった。

「すみません。急いでいますので」

奈央は遠い回しせずに断った。

「少しだけで大丈夫ですから」

彼女は期待に満ちた顔で奈央を見つめて粘った。

奈央の口から、拒絶の言葉が出てくる前に、一緒に回診していた医者が先に何かを言った。

「Dr.霧島、関谷さんの話に付き合ってあげなさい。回診は私たちに任せて」

この関谷悦子さんは、あの宇野椿の恋人なのだったから、気に触るようなことは当然できなかった。同時に、Dr.霧島が宇野椿の手段を知らなかったのも心配していたので、ここに残って悦子の話し相手になるのを彼女にすすめた。

その医者たちは瞬く間に、悦子の病室を出た。奈央だけが話し相手として残された。彼女はこのことで、イラッときた。

強制的にノリノリにさせた彼女は、ベッドで寝込んでいた悦子を観察した。この女は何かの目的があるって、女としてのかんが教えてくれた。

彼女は近くに寄って、ベッドのそばに置いてあった椅子に座った。

「で、話というのは?」

「難しい話ではありません。Dr.霧島にお礼をしようと思っています。Dr.霧島じゃなかったら、私はもう死んでいましたのかも知れません」

か弱い悦子は、人畜無害な笑顔をしていた。

奈央は相変わらず無表情で、この話に動じなかった。

「お礼をされるような覚えはありませんでしたが。宇野さんが治療代を出しましたので、私は報償に値する分の働きをしただけです」

しかも、相当な大金だった。

「椿さんがあたしのために色々と手を回してくれたのは分かっています。けど、なんとしても、Dr.霧島があたしの命の恩人です」

素直に至情を吐露したいた彼女のそぶりは、自分が人を悪く思うすぎたじゃないかと奈央に自分を疑わせたとことだった。

けど、関谷悦子の話の続きを聞いて、奈央はすぐ自分の直感が正しかったことを確信した。

「Dr.霧島、お若いのですが、彼氏さんっていますか」

関谷悦子は、悪役お約束のセリフを言った。

奈央は頭を軽く振って、何も言えずに、この女がしようとしていたことを見届くつもりだった。

「Dr.霧島はどんな人がタイプでしょうか。私の知人で、Dr.霧島とお似合いそうな年頃ないい男が何人かいます。Dr.霧島に紹介しようよ思っていますが」

というのは彼女の話の続きだった。

奈央は引き続き沈黙を選んだ。それだけではなく、関谷悦子に向けた目線も幾分冷たくなった。

関谷悦子は慌てて説明し始めた。

「誤解をされそうなことを言ったのなら謝ります。なんでお礼すればわからなくて、それしか方法を思いつきませんでした」

「椿さんのこと、どう思いますか」

いきなりこの愚問で沈黙を切り出した悦子は、じっと奈央のことを見つめていた。まるで彼女の顔から何かを探し出すつもりだったかのようだった。

奈央は我慢できずに、笑い出してしまった。なるほどこういうことが心配かと思った。

「探りを入れなくても、関谷さん、ご心配なく。私は宇野椿さんに興味はありません」

この状況から見て、この関谷さんは椿の所業で不安がっていたから、損得勘定にこだわっていた。

この罪の男は、まさにクズだった!

「Dr.霧島、そ......そういうんじゃありません」

悦子はしけた顔をしていて、まるでとんでもない勘違いをされたかのようだった。

病室の門が開かれたのは、ちょうど奈央が口を開こうとしたところだった。椿は自分の言葉と一緒に入ってきた。

「お二人さん、なんのお話ですか」

「椿さん、来てくれたんだ」

椿は入ってきたのを見た瞬間、悦子の顔には笑顔を浮かんだ。

「Dr.霧島はどんな人はタイプだなって。ちょうどあたしたちの周りには、Dr.霧島にお似合いそうな方が何人もいるし、Dr.霧島に紹介しようと思って」

悦子の言葉で、椿の顔色が暗くなった。なんだか知らなかったけど、彼の気分が悪くなった。

「Dr.霧島はすできな女性です。余計なことをするのは失礼です」

「ですよね」

悦子は椿の言葉に頷いたが、往生際の悪いことに、再び奈央のほうを見た。

「Dr.霧島、タイプな人がわからなくても、タイプじゃない人なら、分かっていますよね?」

「教えてくれませんか。もし将来、本当に紹介することになったら、好みじゃない人を事前に避けることができますし」

悦子の言葉を聞いて、奈央は椿のことをちらりと見て、淡々と言った。

「そうですね、宇野姓の人が嫌いかしら」

病室の室温は、その瞬間何度か下がった。

男は人を殺しそうな目つきで、じろじろと奈央のことを睨みつけた。

「理由は?苗字が宇野の人になんの悪事をされたというですか」

「いいえ、ただ苗字が宇野の人と相性が悪いって占い師に言われましたから」

実際相性が悪かっただろう。そうでもないと、結婚して二年、顔すら合わせずに、離婚したことにはならなかった。

奈央の返答で、病室内では気まずい空気が漂っていた。悦子はとうとうこの空気を耐えることが限界になった。

「Dr.霧島は、椿さんのことを誤解してるようですが」

いくら馬鹿だとはいえ、流石の悦子も奈央が椿を敵視していたのを感じ取った。けど、その理由は?

「思い過ごしです。ただ単純に宇野姓の人が嫌いです」

奈央は涼しい顔で答えった。

「Dr.霧島、変な噂でも吹き込まれたのかしら?」

椿をフォロするために、悦子はもう一度口を開いた。

「椿さんは確かに一度ん結婚していましたが、椿さんのせいじゃありませんでした」

「椿さんの元妻は田舎者で、物腰の荒い不躾ものでした。似合わない二人だったから、離婚したのも仕方ないことです。Dr.霧島、このことで椿さんを悪く思わないでください」

悦子はぶつぶつ言い続けていた。彼女の言葉遣いには、椿の元妻への軽蔑が明明白白だった。けど、彼女の想像を遥に上回ったのは、彼女に馬鹿にされたいたその元妻は現在、彼女の目の前に立っていて、しかもこの間彼女の命を救ったばかりという事実だった。

奈央は心の中でにやついて、視線をあげて椿のほうを見た。

「宇野さんも、こんなふうに元妻さんのことを思っていましたのかしら?」

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