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第11章 やっぱり、お会いしないほうが

病院を出た車に乗っていても、先悦子に聞かされたことが頭の中で響いていた。

なんでだろう?

椿には、返答することができなかった。

多分、彼はただ女の態度が新鮮で気になったから、とことんまで調べて明白にしたかったのだ。それだけのかも知れなかった。

急に鳴ったスマホの着信音は、椿を我に戻せた。気を揉んでいた彼は、眉間をもみほぐして、電話に出た。

「で?」

「宇野様、この五年間の宇野様の行程記録を調べましたが、Dr.霧島の行程と重ねた記録は一つもございませんでした」

「一つだけ気になる点がございまして、Dr.霧島は二年前一時引退していました。彼女がこの二年間どこに行ったかは誰も知らなかったから、この二年間の行程を調べるのは骨が折れます」

「折木様に知れべてもらうのはいかがでしょうか、宇野様?」

折木遊馬は裏世界の王とも言われた人物で、表社会で調べようのなかったものについて、あの人なら何かできるかと思って、海斗はそう提案した。

気が遠くなるような沈黙が続いて、海斗は椿がきっと頷いてくれると思っていたところに、彼はこの提案を却下した。

「その必要はない。たかが医者一人に、そんなのは資源の無駄使いだ。過度に関心することはない」

ここでやめるなんて、海斗はいぶかった。

海斗が口をきいて、調べるのをここで打ち消しにすることでよろしかと確かめるのにも間に合えなくて、電話はもう切られた。海斗はいくら気が詰まっていても、余計な口を出してはいけないことくらい分かっていた。

数日後、関谷悦子は無事退院できた。奈央が直々に退院手続に手伝ってあげた。

「病相は綺麗に摘出してもらいなしたが、再発するも十分にありますので、定期定期に再診を受けること。普段の日常生活のほうは羽をねばし過ぎないように健康的に過ごしてください」

病院の前で、奈央はもう一度念を押した。

「かしこまります」

悦子は頷いて返事をした。

「ありがとうございます、Dr.霧島」

「帰りはどうしますの?タクシーを拾いますか」

迎えが来てなかったので、奈央は少し意外だった。

もう何日も椿を見ていなかった。奈央はてっきり椿が悦子を迎えに来ると踏んでいたが、まさか来なかったなんて。向こうが悦子のことを大事に思っているかなんてもないと思っているか、奈央は疑問に思った。

言ったそば、悦子は近くに走ってきた車を指で指しながら答えてくれた。

「椿さんが迎えに来ていますので」

奈央も悦子の話を聞いて、車のほうへ振り向いた。

椿は、ちょうど二人の側に止まった車から降りてきた。数日ぶりにあった彼は、相変わらずの仏頂面で、機嫌がいいか悪いかは読み取れなかった。

「もう済んだか」

椿は悦子のほうを見て、口を開いた。

「うん、Dr.霧島のお陰で。色々世話を焼いてくれたから」

椿に返事をしていた悦子の視線は、椿とDr.霧島の間で行き来していた。

何でだかわからなかったけど、彼女はふと数日前に、自分が椿に投げた質問を思い出した。椿は即答してくれなかったが、彼女は薄々そう感じた。

けど、今になって改めて二人を観察してみたら、椿はDr.霧島のことを特別に気にしているわけではなかったようだったが、まさか自分の気のせいだったか?

自分のために車のドアを開けてくれた椿は話しかけてくれた。

「行こうか」

「うん」

悦子は椿に頷いてから、奈央に別れの挨拶をした。

「Dr.霧島、また別の機会で、お会いしましょう」

「やっぱり、お会いしないほうが」

奈央は笑って手を振った。何と言っても彼女は医者なので、また会うことは縁起が悪かった。

残念なのは、椿は彼女の話の真意を理解できなかったことだ。椿はこれが奈央がわざと自分に言い聞かせた言葉だと思い込んで、顔色が即座に暗くなった。

悦子は車に乗った。椿も留まらずに運転席に上がった。椿は目もくれずに、奈央に話しかけないことを終始一貫した。

奈央は全然気にしていなかった。これこそが椿のとるべき態度だった。宇野様だと祀られった彼はお高く止まる存在だった。彼女のような小物を、眼中におくべきではなかった。

帰りの車で悦子は何度も、前で運転していた椿を見た。彼女の気のせいだったかも知れなかったが、椿は機嫌が悪そうだった?

「椿さん、この前あたしが言ったことを忘れてくれ。本気じゃなかったの」

我慢できずに、彼女は説明した。

椿は「うん」と返事して、ひたすら運転に集中していた。

間もなく、椿は悦子を家まで送った。

「ちゃんと休め。具合でも悪くなったら俺に電話して」

「椿さん、もう行くの?」

悦子はがっかりにした。椿は一緒にいてくれると思っていたからだった。

「あ、会社のことで色々忙しいから」

男はおろそかに頷いて、これ以上何も言わずに、体の向きを変えて車に乗った。椿の車はすぐ見えなくなった。

車の消えた方向を見て、悦子は悔しさのあまりに唇を噛んだ。彼女の目も悔しい気持ちに染まり、赤くなった。

でもすぐに、彼女は自分のその気持ちをきれいに片付けた。

彼女の今の一大事は、回復することだった。機会なんて、これからいくらでもあるので、焦るのは禁物だった。

名臣レジデンスで。

スーツケースを引っ張っていて、自分の目の前に現れた桐嶋天音を見て、奈央はキレそうになった。

「また家出か」

「ピンポン、ご名答だ」

天音はニコニコ笑って、スーツケースを引っ張りながらリビングに入った。

「今度はどんな理由で?」

ドアを閉めたのついでに、奈央は天音に聞いた。

「家のお父さん、最新のバッグを買ってくれない上に、家の会社に通わせたりしたのよ。そんなのありえなくない?」

そう言っていながら、彼女は自分のスーツケースを引っ張って、遠慮というもの知らなかったかのように、勝手に部屋を選んだ。

おでこに手を当てて、奈央の内心から無力感が湧いてきた。

「海外旅行をしているんじゃない?いつ戻ってきたの?」

奈央の話し声が止んですぐ、天音は彼女の前にきて、真面目そうな顔で言った。

「奈央が離婚したの聞いたから、駆けつけてきたのよ」

「歩きながら話そう、もう腹ぺこなんだ」

言ったそば、天音は奈央の手を取って、外でご飯を食べるよう出かけた。

奈央が事情を簡単に話したあと、天音は馬鹿を見ていたかのような目で、彼女を見た。

「何も請求しないで、簡単に宇野椿のやろうを手放したとは、奈央甘過ぎたよ!」

「私なら、絶対パンイチになるまで、ぼったくりしまくったのよ。奈央は優しんだ」

「もうずっと前から、あの野郎のことが気に食わなかったのだ。あいつが宇野椿じゃなかったら、遠の昔にボコボコしてやったのよ」

二人がエレベーターを待っていた隙に、天音は一気に自分の不平をこぼした。

彼女は話せば話すほど、感情的になり、声も次第に高まり、後ろに誰かが近つけてきたことすら気づいてなかった。

「宇野椿のクズ野郎!ぶん殴りたい気分だ」

彼女は奈央の遭遇を気の毒に思った。特に奈央が何ももらえずに離婚したことが頭にきた。

「そうか。それじゃ、かかってこい!お手並み拝見させてくれ」

背後から聞こえてきた、冷徹な声で、二人は驚いて、心臓が破裂しそうになって、信じがたく振り向いた。

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