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第17章 キリシマ

「残念だけど、ことは彼女の思惑通りには行かないでしょう。あの女はどうしてお爺さんが彼女の言うことに耳を貸すって思ったか」

状況が分かってきた奈央は少し驚いた。椿は昨日大旦那様にあってきた人物を桐嶋天音だと勘違いした?

渡辺さんが自分に対する呼び方を思い出した。霧島様......

道理で椿が思い違いをするわけだった。

霧島と桐嶋は別人だった。けど彼は知らなかった。

内心ではこのことが滑稽で、笑いたい気分だったが、椿の言ったことで笑い出せなくなった。椿の話を訳したら、桐嶋家を許すつもりはないということになった。

「本当に話し合う余地がないの?そのまま桐嶋家との連携を断ち切るのは、いささかわがままなのでは?」

椿がここまで公私混同だなんて、彼女には理解できなかった。

「俺はわがままを志で生きてきた。これが俺のやり方だ。文句でもあるのか、Dr.霧島?」

椿はにやつて、奈央のいうことを全然気にしていなかった。

男のそぶりを見て、奈央はこの事にはもう相談できる余地がないと悟った。彼女の顔も次第に暗くなってきた。

彼女が沈黙に落ちたのを見て、椿の口元が上がってきた。

「なんだ?Dr.霧島はもう親友のために弁解するのをやめたか」

「宇野さんが決めたので、私のいうことで何が変わることがないでしょう。もう既成事実のなった以上、それを受け入れるしかない。私の話はここまでだ」

椿に一瞥をして、彼女はいつもの冷徹な自分に戻った。

彼女がいつも通りになったことで、椿は癪に障った気分になった。

「俺に桐嶋家を見逃す気がないのを悟ったから、一層のこと猫を被るのをやめたってこと?」

「宇野さん、関谷さんの病気はいつ再発しても、おかしくないのをご存じか」

彼女は目線を上に向けて、椿の目を見た。

口元に微笑みが浮かんできた彼女は、暫くしてエレベーターをでた。

一方で、椿の顔は完全に暗くなった。

この女、自分を脅かしたとは!

椿が奈央の後を追ってきた頃には、彼女はもうタクシーに乗っていた。窓ガラス越しに、椿の暗かったを見て、朝からの憂鬱は少々、吹き飛ばせた気がした。

スマホの着信音が鳴って、天音からの着信だった。こんのことになったのを、奈央はその瞬間で確信した。

「奈央は、桐嶋家が倒産するよ」

その話に続きがあった。

「あの日のことを父さんに言ったが、怒らなかったの。私のせいじゃないってさ」

「奈央、うちの父さん、頭がおかしくなったじゃない。全然怒らないもん」

天音はてっきりこの事で、処罰されると思っていたが、処罰されるとことか、責め文句の一つもなかったことで、やけに気持ちを悪くした。

奈央が何かを言ったのは、じっくりと考えた後だった。

「落ち着いて、お得意先の宇野グループを失っても、桐嶋家は必ずしも倒産するとは限らない」

「泉ヶ原はそこなりに産業の盛んでいる町だし、連携が望める会社は宇野グループだけじゃない」

奈央は続けた。

天音は完全に諦めた。

「単純に連携が中止にされたのなら、桐嶋家にとってもクライアントが一つ失っただけで、それなりに影響があっても、倒産にはならないでしょう、けど......」

「ずっと宇野グループとうまくいっていたから、父さんは宇野グループが必要の貨物を常備していて、今、この貨物は桐嶋家の資金に直結しているの」

天音の話を聞いて、奈央はやっとその要が分かってきた。

「その貨物の詳細を送ってくれ。こっちの手を使って、買い取ってくれる会社を探ってみる」

「本当に買い取ってくれる会社なんてあるのか」

天音はあまり自信がなかった。

「あってもなくても、試してみるの。ほんの僅かでも、希望があれ以上、諦めてはいかない」

奈央は天音を励んだ。

奈央の前向きな考えに動かされたのかもしれなく、天音も萎れた自分をしまって、気を引き締めた。

「奈央のいう通りだ」

電話を切った後、奈央はもう一通電話をした。

「翔兄、お願いがあるの」

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