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第18章 僕の知っている宇野椿......

泉ヶ原市立病院。

仕事を終えたばかりの奈央は、翔からの電話を貰った。彼が病院の前に来ていたのを分かって、急いで着替えて走ってきた。

「翔兄」

すぐ手前にあった車に腰をかけていた男を見た瞬間、彼女は笑いながら、手を振って挨拶した。

彼女は素早く翔の前に来た。

「翔兄、いきなりどうしたの?」

「奈央に頼まれたじゃないか。情報が入ってすぐ来たわけ」

男は奈央に笑顔を見せた。彼の目には彼女を甘やかす気持ちでいっぱいだった。

翔のいうことを聞いて、奈央は驚いた。

「もうなの?」

「うん」

言ったそば、男は事前に準備しておいた資料を奈央に私た。

「この会社なら桐嶋家の例の貨物を買い取ってくれるそうだ。連絡したあげてって桐嶋家に言っておいて」

「これって......」

種類を手に取っていた奈央は、未だにそのことが信じられなかった。

順調しすぎた!

「翔兄、なんて効率の高いこと。」

奈央は思わず声を高めた。翔の仕事に速さは想像を超えた。

翔は手を伸ばして、彼女の頭を撫でた。

「奈央のお願いだから、気に留めていたのだ」

実は奈央から電話を貰ってから、翔は片時でも休んでいなかった。それはいち早く、奈央の難題を解決してあげるためだった。

何しろ、彼女からのおねだりは、ここ数年で初めてだった。

「それもそうか、翔兄はずっと私に甘いから」

彼女は甘えた調子で言った。

「行こう、翔兄。ご馳走してあげる」

「うん、じゃお言葉に甘えて、たっぷり奢らせてもらうわ」

翔は頷いた。二人とも笑いながら車に乗って病院を離れた。

レストランで、奈央は資料を全部天音に送って、早く連絡しろと念を押してから、やっとホッとした。

「宇野椿が天音が自分の悪口を言ってたのを聞いたから、連携を中止したって?」

翔は天音におかずを渡したついでに聞いた。

奈央は頷いて、突っ込んだ。

「悪口を言われた次の日に連携を中止にするなんて、この男はとんでもない小皿だ」

翔はその話に頷けなかった。次のことを奈央に言った。

「僕の知っている宇野椿は、そんな我がままのお子ちゃまではない。連携を中止した理由は他にあったはず」

あれは宇野椿だった。宇野グループをここまで発展させた人物に限って、そんな軽率な真似はしないはずだった。

実は奈央もなんとなく感じていたが、こともことで、偶然しすぎたから、彼女はそう思わざるをえなかった。

「翔兄はなんだと思う?」

ビジネスについて詳しくなかったから、奈央は翔に質問した。

翔は少し考えて、口を開いた。

「連携を断ち切ったのは、サプライヤーを変えたいじゃないの?最後に得するのはどの会社かを調べれば、理由が分かってきるはず」

奈央は一瞬何にかを悟ったかのように言った。

「お兄に頼んで、調べてもらう」

「うん」

翔は頷いて、反対しなかった。

二人は食べながら話していて、盛り上がっていたところに、耳障りの声が聞こえた。奈央は思わず八の字を寄せた。

「Dr.霧島?ここで会うなんて奇遇です」

悦子は笑顔いっぱいで、嬉しそうだった。

彼女の引き換えに、そばに立っていた椿は嬉しいところか、不機嫌だった。まるで人が彼になん億の貸しでもあったかのようなポーカーフェスだった。

奈央は自分の不愉快を忍ばせて、振り向いて悦子に言った。

「そうだね、奇遇だね」

「ご一緒してもいいですか。食事は人が多い分、美味しいのですから」

悦子は提案した。

奈央は眉を顰めていて、嫌がっていた表情だった。

「それはどうとかと思う、宇野さんとご一緒するなんて恐縮です」

悦子は行間が読めていなかったかのように、隣にいた男の意見を聞いた。

「椿さん、どう思う?」

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