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第96章 どうしたの?わざわざここに来て

この夜、椿はあまりよく眠れなかった。

彼は夢を見た。その夢の中では、彼は奈央と婚姻届を出した日にタイムスリップした。

ただ違ったのは、今回はお爺さんにお任せしたのではなく、彼が自分で奈央と共に市役所に婚姻届を出しに行った。

現実での顔を合わせていなかった二年間の婚姻生活とは違って、彼はその時に、奈央に会った。その後の展開もまるで異なった。

けど、目が覚めたら、彼はこれを夢だと気付いた。

病院でのは奈央は、午前中の手術を終えて、息抜きのできる午後を効率よく利用して、自分のオフィスでカルテを整理していた。

彼女が大旦那様からの電話を出たのはちょうどその時だった。電話の内容はもちろん、彼女を誕生会に誘うことだった。

「奈央よ、十年でこの一度から、きっとお爺さんの誕生会に来てくれるよね」

大旦那様はそうやって言葉で粘った。

「お爺様、時間通り行きますよ」

奈央は丁寧に答えた。

「それならよかったのう」

大旦那様は満足そうに電話をきて、我が孫と奈央の初対面を楽しみにしていた。

この時の大旦那様は、まだ椿が離婚した次の日にすでに奈央に会ったことや、椿が奈央が自分の元妻だとも知らずに好意を抱いてしまったことをも知らなかった。

電話を切って、もう一度作業に潜ろうとしたところを、誰かがオフィスのドアにノックした。

顔を上げると、あそこに尭之が立っていた。

「どうしたの?わざわざここに来て」

奈央は困惑の表情をしていた。

「昨日の礼服、気に入ったかな確かめに来たのよ」

というのは笑顔で奈央に返事した彼の建前で、内心では昨晩の椿の電話で不快を覚えたから、先手を打つために急いできたのだ。

奈央は尭之の選んだ礼服をもう一度思い出した。実にオシャレで凝ったデザインだったが、彼女の好きなスタイルではなかった。

ただ贈り物だったので、好き嫌いをいうのは行儀が悪いと思い、彼女はお世辞をも兼ねてこう言った。

「なかなか上品な礼服だ。いくらしたのでしょうか。お金を渡さないと」

「金だなんて他人行儀をするとは、水臭いよ」

尭之は気を悪くした。自分が何をどうしても、奈央の心を許す人にはならなくて虚しい気がした。

「いや、ただ......」

「俺のパートナーになってくれる報酬だと思えば、気持ちよく受け取れるよね?」

尭之は仕方なくこんなふうに言った。

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