共有

第93章 将来のことをも含めて考えなくてはなあ

一気に胸の内を吐いた後、奈央は店の外へと出ていった。

伊野百恵は、彼女が恥ずかしさで人に合わせる顔がないから、逃げたと勘違いをして、内心で喜んでいた。

これから椿に何かを言おうとしていたところに、椿は小舟の前に行って、礼儀正しく相手のことを「小舟おじさん」と呼んだ光景を目にした。

「おや、宇野家の小僧か」

小舟は椿のことを冷たい目でちらっと見て、淡々と返事した。

「二日後はお爺さんの誕生会です。お時間が大丈夫そうだったら、ぜひ」

椿は自分のお爺さんが小舟に招待状を出したかどうか把握していなかったので、念のためだと思って、直々本人の前で誘った。

椅子に座っていた小舟は、目を細くして、答えた。

「ワシは忙しいゆえ、時間など空いておらん」

「小舟おじさん......」

「宇野家の小僧、もうお帰りだ。商売の邪魔だ」

小舟は客の椿を追い出そうとした。以前なら、椿に対していい印象があったが、今なら......

小舟は視線を伊野百恵におけた。このような女子が彼女とは、見る目がないのがはっきりと分かった。

「このジジイ......」

椿があっさりと断られたのを見て、伊野百恵は怒り出して、攻めようとした。

しかし、彼女がこれ以上何かを言い出す前に、椿は先に警告の冷たい目つきで彼女を黙らせた。

「黙れ!」

「椿、私はただ......」

「では、これで失礼いたします。小舟おじさん。商売の邪魔をするつもりは決してありません」

これ以上無理を言ってはならないと察して、椿は代わりにそういった。

後ろに座っていた小舟が悠長な口振りで声をかけてくれたのは、椿がもう店の門のところに来た時だった。

「宇野家の小僧、彼女を選ぶ際には将来のことをも含めて考えなくてはなあ。相手を間違えれば、この一生に響くから」

「ご忠告ありがたくいただきます。小舟おじさん」

椿は礼を申した。

二人は間もなく店を出た。小舟は目を細くしたまま、居眠りをし始めた。

一方で、店を出た伊野百恵は気を悪くしていた。あの小舟というジジイの最後の遠回しの言葉は、自分のことを言っていたくらい、彼女は分かっているつもりだった。

「椿、先の小舟さんというのは何者なんだ?」

少し戸惑ったが、伊野百恵は耐えずに聞いてしまった。

椿にあんなふうに、慎ましやかな態度を取らせた人物は、きっと並みのも
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status