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第100章 宇野さん、あなたまさか私のことが好きなんじゃない?

向かいの席に座っていた男はただひたすら酒を飲んでいて、いくら待っても理由を教えてくれなかった。そのまま彼を眺めていた奈央の頭には、急に何らかの予想が入り込んだ。

この予想は滑稽だったのにもかからず、この時この場では、椿の全ての行動に噛み合うほど合理的に感じる。

「宇野さん、あなたまさか私のことが好きなんじゃない?」

奈央は椿のことを見つめて、笑いながら聞いた。

彼女は男が仏頂面で否定するのだと思っていたが、いつまで待っても、男は何も言ってくれなかった。

奈央は動揺した。そして、彼女自身はしっかりと心の揺らぎを感じた。

「宇野椿、頭がいかれてたか」

椿は酒グラスをおいて、視線を奈央に向けた。

「お前が好きイコール頭がイカれてる?これはどんな理屈だ?」

「他の人なら話が別だが、あなたなら絶対そうに違いない」

奈央はそうと答えた。

状況を分かっているのか?私はあなたの元妻なんだよ!というのは奈央の心の声だった。離婚したら、元妻のことが好きだと?これを頭がいかれてるというのだ!

椿はため息を漏らして、悠々と言った。

「時には、そう思うのだ。もし結婚していた間に、一度だけでも会いに行けたら、多分......俺たちはいまだに夫婦なんだろうなって」

「ってことは、あなたが私に一目惚れしたって言いたいか」

奈央はとんでもない戯れが耳に入ったような気がした。

椿はそれを認めず、そして否認もせずにいた。

この時の奈央の心情は複雑だった。椿の話そうという誘いに乗ってしまったことを些か後悔していた。

焼肉の串刺しを噛みながら、彼女は自分の人生を嘆いた。

ここで手綱を緩めるつもりはなかったので、椿は彼女に聞いた。

「で、一度チャンスはくれないか」

そう言われて、奈央は唇をしめた。手に取っていた牛肉の串刺しは、その瞬間でそのうまみを無くしてしまった。

「ね、奈央ちゃん......」

「やめて」

奈央はすぐ椿をやめさせた。

「そこまで親しくはないのだから」

奈央ちゃんだとは、どこまでも厚かましいのだ!この宇野椿という男は!

「戦場ヶ原のやろうなら大丈夫そうだけど、俺ときたらダメだってどうして?」

男は少々怒っていた。彼は自分ならどう見ても戦場ヶ原のやろうより奈央とはずっと親しい関係にあったつもりだった。

しかし、奈央はそうは思っていなかっ
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