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第92章 これは伊野さんのご心配には及ばないと思うが

「奈央嬢は、この中には全部このジジイの宝物だぞ。お気に入りのものを安くしてあげるよ」

自分が長年をかけて集まってきたお箱入りを見て、小舟は心がいっぱいで、満足したいた。

ここに入れるのは、奈央だけの特権だ。他のものなら、小舟は決して入れさせたりはしないだろう。

蔵品を一通り見て回ったが、なかなか決められなくて、奈央は小舟に相談することにした。

「小舟おじさん、私も宇野大旦那様の誕生会プレゼントを買いにきたが、どんなものが似合うと思うか」

「奈央もあのジジイを知っているのか」

小舟は奈央が一度結婚していたことを知らなかったから、驚いていた。

「うん、知っている」

奈央は頷いて、また続けた。

「親切にしてもらってたので、何か特別で気に入ってもらえるようなものをプレゼントしたい」

「あのジジイが好きなのは、お前さんの先生の絵だと聞いたが、先生のところに行って、絵を譲ってくれと頼んだほうが良いのでは?」

小舟はそんなふうに返事した。

奈央も実にどうしようもなかった。確かに、以前の彼女の手元では先生の絵を一枚預かっていたが、オークションで売られた。あの時は、全然大旦那様の誕生会のことなど、考えていなかった。

「先生はとっくにインスピレーションを探すために旅に出た。どこにいるのか私も」

大旦那様の誕生会は二日後、今から人探しなんてとても間に合えないのだ。

小舟は何かを考えていながら、一理ありと思って、奈央のいうことに頷いた。

たっぷり時間をたらせて、悩んだ後、彼は右側にあった箪笥の扉を開けて、中から奇貨を一点取り出して、奈央に渡した。

「ジジイなりに考えた。誕生会のお祝いときたら、やっぱりこのものが一番、縁起がいい」

「福寿の硯?」

奈央は驚きで、声を高めた。

「よく分かったな、奈央嬢。これはまことの清の時代の硯だ」

小舟は笑いながらドヤ顔で言った。

奈央はなんとなくその硯を受け取り辛く感じた。このような古の硯は一つ一つは奇貨だった。小舟はこれらの蔵品を手に入れるためには、さぞ骨を折っただろう。

「そんな受け取り辛そうな顔をするな。僕も高く売るために、これらのガラクタを集めてきたのだ。今こうやってお前の手によって買われたのも何かの縁だ」

小舟はそう言った。そして、少し間をとってまた続けた。

「お前の先生が持っている、その透かし彫
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