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第16章 宇野さん、話に付き合えないか

大旦那様はなんと言っても宇野家の人間だった。椿の肩を持つのはいうまでもないことだった。自分はもう椿と離婚したのはともかく、たとえ離婚していなかったとしても、あの老人は全力で手伝ってくれるとは言い切れなかった。

このことくらい、奈央はちゃんと分かっていた。

けど、天音にいい夢を見せたかっていたので、言わなかったことにしておいた。

天音は部屋に戻って寝たけど、奈央はなかなか眠気がしなかった。何もしないで破滅を待つのは彼女のやり方ではなかった。彼女は最悪の終焉を迎える準備をしたない。

奈央は一晩中、解決法について考えていた。翌日の朝、起きた彼女を迎えたのは何によりも目立つクマだったのもそのためだった。

「昨日の夜何してたの?」

彼女を見た天音はついに大声を出した。

奈央は鏡に映っていた自分を見て、コンシーラーでクマを隠しながら言った。

「大丈夫よ、眠れなかっただけよ」

「奈央」

天音は突然彼女を呼んだ。

「ごめんね、うちの事に巻き込んじゃって」

彼女の言葉を耳にして、奈央は振り向いて、真剣そうな顔で答えた。

「謝るべきのは私だ。椿に恨みを買ったのも、私を庇ったからだ」

「器の小さい男だとは思わなかった」

天音は文句をこぼした。

「謝る機会すらくれないもん」

「まずは朝食だ、解決方法はきっとあるはず」

笑顔で天音を励んだ奈央は、朝食を手に取って、キッチンから出てきた。

朝食の後、天音は父のことが心配で、また荷物をまとめて実家に帰った。これによって、彼女の二、三日も続かなかった家出は終焉を迎えた。

キッチンを片付けた奈央は、シンプルな服装に着替えて、通勤のたびに出た。

ドアを開けて、外に出た瞬間、向かいの近所さんもちょうど出てきた。そして、彼女は驚いて気が抜けた。

彼女の取り乱しに比べられたら、椿のほうはずっと冷静にしていた。

「奇遇だな、Dr.霧島」

「......」

奈央は言葉も出なかった。

椿が向かいの部屋に住んでいたとは、これはなんの腐れ縁だった!

「確かに」

我に返った奈央は、心の中での驚きを抑えた。

ちょっとした会話を交わしていたら、二人はもうエレベーター乗り場にきていた。奈央は、大旦那様が椿に桐嶋家のことを話したかどうかやら、椿が大旦那様に耳を貸すかどうかで、躊躇っていた。

散々悩んだ後、彼女は積極的に攻めることにした。

「宇野さん、話に付き合ってくれないか」

椿は頭だけ彼女のいた方向に向いて、彼女を見た。顔にはなんの表情も出ていなかった。

「話ってなんだ?」

「桐嶋家のことだ」

そう言って、奈央は顔を上げて彼のことを見た。

「この前は天音が悪かった。悪口を言って本当に申し訳なかった。彼女の代わりにお詫びをさせてください。このことで、桐嶋家との連携を中止しないでください」

チンという音で、エレベーターが一階についた。椿はエレベーターを出て、返事をしなかった。

奈央はその状況の対処として、急いで椿の後を追った。彼女は諦めの悪いことに、勝手に話を進めた。

「宇野さんは器の大きい人だから、きっと悪口の一つや二つで連携を中止にすることなんてしないはず」

ずっと黙っていた椿は急にこのタイミングで笑い出してしまった。彼のその漆黒な瞳は、じと奈央を見つめた。

「俺は器が大きいって誰からきた?」

「宇野さん......」

「Dr.霧島は機転のいい人だな。この前かなり俺のことが嫌だったのに、お友達のためなら、頭を下げてくれるね。感心した」

椿は容赦無く皮肉った。

内心では椿のことを何回も罵ったが、表では笑っていた。

「私は宇野さんのことを嫌っていない」

私はただ関わりたくないだけだと奈央は心の中で言った。

「そうか」

椿は聞き返した。彼はその言葉を信用しなかった。

「Dr.霧島はお友達の心配をしなくても大丈夫。その友達はただものじゃないよ、直接お爺さんにあってきたし。こんな人の心配は、力の無駄使いだ」

椿はそういった。

天音は椿のお爺さんにあってきた?

奈央は椿の言葉がきら出来なく、固まっていた。

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