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第15章 金さえあれば、見くびられることはない

「椿くん......」

悦子の父は何かを言おうとしたが、椿に話を切られた。

「剛志も悦子も、金を稼ぐ道具として、孤児院から引き取ったのだ。違うか。幼いごろから、金のために働かせ。剛志が俺の用心棒になったのは、あいつが十八になったばかりの頃だっただろう?悦子も十六の幼さで飲食でバイトをし始めたんじゃなっかたか」

仏頂面の椿は、その男のメンツを立たせるつもりはまるでなかった。

「あの二人は自分が引き取られた孤児だって知らないと思ってた?どうして剛志は死ぬ際に、両親と妹の三人じゃなくて、妹の悦子だけを俺に託したのはなんだと思う?」

この夫婦二人が欲の皮を突っ張らせてなかったら、椿もそんな人聞きの悪いことは言わなかった。

この二人は度がすぎた。いかにも悦子の実の親きどりとは。

夫婦二人は顔色が真っ青になって、信じがたく目を大きくした。

「あ......あいつら知っていたの?」

悦子の父親はどうしてめ諦めがつかなかった。

椿は彼をふらりと見て、また二階にあった悦子の部屋のほうを見た。

「悦子はそれを知らないんだ。剛志は彼女を傷つけたくなかったから、言わなかった」

父親のほうはホッとした。悦子が知らなければそれでよかった。この男にとって、悦子はドル箱だった。

「そんなことを言ったのは、俺はいつだって悦子に真相を告げて、縁を切らせることができるって分からせるつもりだ。いい気にならないよに大人しくしろ」

はっきり言えば、これは二人に調子を乗るなという脅しだった。

二人は餌を食べているひよこみたいに、ひたすら頭を振った。何にも言い返せなかった。

椿はこの状況に満足した。

「分かってるなら、ちゃんと悦子の世話を」

言いたかったことを言えて、椿は出ようとした。

「じゃ、連携のことは?」

悦子の父親は、腹をくくって、諦めが悪そうに聞いた。

椿は外へと歩きながら言った。

「契約書は明日、送られてくる」

「ありがとうございます。どんどん期待してくれ、椿くん」

話を聞いて、お父さんは嬉しそうに笑った。側にいたお母さんもそうだった。

唯一顔色が曇っていたのは、部屋から出てきた悦子だった。彼女は責めた目つきで両親を見た。

「どうしてまた椿さんに連携の話を?椿さんからはもう十分もらえてるじゃないか」

「お前に何がわかる?一度きりの商売より、長続きする連行のほうが得だ。宇野グループと連携が出来た以上、金が勝手に来てくるから」

悦子に気づかないように、こともはいつも通りの態度を取って、彼女を見た。

悦子は怒りのあまりで、泣きそうだった。

「こんなことをして、私は椿さんの前では頭が上がらないわ」

「金さえあれば、見くびられることはない、そうと思わないか」

男は娘に聞き返したすぐ、口調を柔らかくした。

「えっちゃん、お前が椿くんが好きなの、父さんも母さんもちゃんと知っている。けど口で言っているだけでは何もならないよ、積極的に攻めないと」

「攻めるってどうしろと言うんだ?」

悦子の目が赤くなった。攻めることが出来ないから、彼女が悲しんでいた。

「男というのは、攻めてくる女に弱いのよ」

父親の言葉の意味は言わずもがなだった。

悦子の顔は咄嗟に赤くなり、父親を睨みついた。

「あたしはそういう軽いものじゃない!」

言って、彼女は怒りで体の向きを変えて、ポンと部屋のドアを閉じた。

椿が宇野邸に戻った時、奈央はもう帰った。誰もいなかったリビングを目にして、椿は何となく皺を額に寄せた。

「お爺さんは?」

椿は渡辺さんを見て訊ねた。

「大旦那様は書斎です」

渡辺さんは答えた。

執事さんの話を聞いてすぐ、書斎に行こうとしていた椿だったが、一歩を踏み出した瞬間、何かを思い出したようで、聞き出した。

「お爺さんに客人がきたか。さっきリビングの外で話し声を聞いたが」

しかも聞き覚えのあった声だった。自分はその声の持ち主とどこかであった気がした。悦子の母親は急に電話をかけてきて、彼の思考を中止させていなかったら、彼はもう声の持ち主が誰かを思い出したのかもしれなかった。

「はい、霧島様でした」

「?彼女は何しにきた?」

椿の顔色はあの一瞬で暗くなった。まさかお爺さんのところまできたとは。

頭を振った渡辺さんは、自分の言った霧島様は、椿の思っていた桐嶋とは別人だったのを知らなかった。

「そこまでは詳しくないのです」

椿はこれ以上なにも聞かずに、うえに上がって書斎のへに行った。

椿と大旦那は何についてはなしたかを分からなかったが、渡辺さんは書斎から聞こえてきた議論の声は確かなものだったので、些か心配だった。

二人の口説がやんでまもなく、椿は書斎から出てきた。顔色が暗くて、誰もが彼はいま機嫌が悪かったのを読み取れた。

「坊ちゃま」

渡辺さんは急いで声をかけた。

「もう行きますか」

「あ」

椿は頷きながら、振り向いて書斎のほうを見た。強情を張っていたが、心の中ではやはりお爺さんのことが心配だったので、次のことを言った。

「渡辺さんは上に上がって、お爺さんのそばについてあげて」

「御意」

頷いた後、渡辺さんは書斎のほうへ歩き出した。

「今後は変な害虫が紛れ込まないように、お爺さんにあう客人はしっかりと選べ!とくに桐嶋家の人間を入れないこと「

椿は渡辺さんに念を押した。

お爺さんが桐嶋家のために、自分を説得したことは、椿の想像を超えてしまった。お爺さんもしょうがないひとで、一体あの桐嶋という女になにを吹き込まれたのやら。

渡辺さんは気が抜けた。椿様は霧島様のことをいっていたのかな?

霧島様に大旦那様をあわせないなんて?

椿様は心から霧島様のことをきらっていたようだった。離婚した前は、無のように扱ったし、今更離婚したら、大旦那様にあわせないことまでした。

宇野邸を出た椿は、帰り道に海斗に電話した。

「すべての連携を中止するって明日桐嶋家に伝えろ。こんれから、桐嶋家とは一切連携しない」

今回、桐嶋家の人間が直接お爺さんに会いに来たというやり方は、椿を本当に怒らせてしまった。

本来の椿の考えなら、いったん停止して、これからまた別の機会で連携するということだったが、今の状況からみて......

今の奈央は自分が大旦那様に会いに行ったことは、桐嶋家を助けたところか、完全に逆効果だったということを知らなかった。

家に着いた彼女は、天音がソファーで寝ていたことに気づいて、毛布をかけようとしたが、毛布の重さを感じた瞬間、向こうは起きてしまった。

「奈央、帰ったのか」

目を擦った天音はぼうやりとしていた。

「晩御飯は食べたか。とっておいたけど」

「ちゃんと食べてきた。さあ部屋で寝なさい」

奈央は天音にすすめた。

「うん」

ソファーから起きた天音は自分の部屋の方向に行った。

「そうだ、宇野椿のほうは......」

天音は何かを思い出したかのように奈央に聞いた。

奈央は彼女のそばに行って、肩を軽く叩いた。

「宇野家の大旦那様が手伝ってくれるから、すぐ連絡が来るはず」

「本当?よかった!」

天音は笑い出した。彼女の印象だったと、宇野椿のお爺さんが応じてくれたことは、きっと問題ないということだった。

けど、奈央はそう思わなかった。

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