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第13章 もうこれで......顔がバレることになったの?

桐嶋家と宇野グループとの連携はずっといい感じだったので、海斗は連携が急に中止された理由が理解できなかった。

「うん」

椿は頷いて、海斗に書類を一式投げ渡した。

「これからは、関谷家と連携を取る事になった」

関谷家?

海斗は驚いて、種類を手に取り、読んですぐ何があったかが分かってきた。

関谷家がこの連携を要求したから、桐嶋家はその犠牲になっただけだ。

「では、一階のほうは......」

「帰らせてもらおう、会ってる暇はない」

「御意」

もうすっかり暗くなってきて、宇野グループの社員もほぼ会社を出ていたが、なかなか椿のことは見当たらなかった。

「ねえ奈央、椿は父さんの会社を潰すことを決心したのかな」

天音は不安に落ちて、取り乱していた。

「きっと何とかなるから」

奈央も心配していたが、ここはいったん落ち着かないと。

二人が話し合っていたうちに、奈央はちょうど海斗がエレベーターから出てきたところを見たから、すぐ駆けつけた。

「道上さん」

これは奈央の声だった。海斗が一度病院にきていたから、奈央は彼が椿の助手だとすぐ分かった。

自分が呼ばれたのを聞いて、海斗は奈央のほうを見た。そして、彼女が何かを言い出す前に、頭をあげた。

「Dr.霧島、どうか桐嶋さんとお戻りください。宇野様はDr.霧島たちとは会いませんので」

「どうして?」

ピンとこなくて、奈央は問い詰めた。

「いくら天音が無礼を働いたと言っても、誤りくらいは聞いてあげるべきだと思う」

「桐嶋天音さんの原因ではありません」

海斗は本当のことを教えた。

「それなら理由は?」

事態は思ったよりも複雑だと感づいた奈央は、再び海斗を問い詰めた。

海斗は沈黙を選んだ。彼にも助手としての矜持があった。言っていい事と悪いことの区別くらい、ちゃんとつけるつもりだった。

「分かった」

海斗から何も聞き出せないと悟り、奈央は話題を変更した。

「では、宇野さんのこれからの予定については、話してくれても大丈夫でしょう?」

海斗は沈黙で通すつもりだった。奈央は海斗のそぶりでイラッときて、ギスギスした声で言った。

「関谷さんはもう退院したとはいえ、再発しないという保証はない。宇野さんがいつかまた私のところに尋ねてこないことを言い切れるか」

「宇野様はあと三十分で、会社を出て、お得意先を会いにいきます。遅くなりそうなので、今日は当分会えませんかと」

いくらしょうがないと思っても、海斗は奈央の言うことが事実だとはっきり分かっていた。

額に皺を寄せた奈央は、心の中での焦りに誘い、もう一度聞いてしまった。

「そのお得意先とは、どこで会う予定か」

事前に待ち伏せをすれば、きっと会えるだろう。

「Dr.霧島、お言葉ですが、やめることをお勧めします」

海斗は耐えずに、世話を焼こうとした。

「宇野様にあっても、もう何も変わりません。すでに決まったことですから」

奈央は固まってしまった。

宇野椿は......

本気で桐嶋家を潰すつもりか?

天音は自分を庇ったから、椿の恨みを買った。ことの発端は彼女だったから、何とかして、解決しなかれば。けど、今は椿に会えないところか、海斗の話だと、あったとしても、椿には桐嶋家を許すつもりはなかった。

しばらく考慮して、奈央は心の中で、ある決断をした。

彼女は振り向いて、天音のそばに戻った。

「もう帰ろうか。いい方法を思いついたの」

「本当か」

天音は問い確かめた。

「うん」

二人は間もなく宇野グループを離れた。自分からの連絡を待ってと言って天音を帰らせた奈央は、宇野邸の執事渡辺さんに電話した。

椿が桐嶋家を許さなかった以上、彼女は宇野家の大旦那様に助けを求めるしかなかった。何としても、彼女は絶対桐嶋家を守り抜くことにした。

「霧島様?」

執事の渡辺さんは、奈央がこんな夜中に自分に電話したことで驚いた。

「渡辺さん、お祖父様は元気でしょうか。お見舞いにいきたいのですが」

彼女は不安な気持ちを抱いて言った。椿と離婚した後、大旦那様が以前のように自分の肩を持ってくるという自信がなっかたからだ。

彼女の言葉を聞いた渡辺さんは、座っていた大旦那様に視線を向けて、訊ねた。

「霧島様です。大旦那様のお見舞いにここに来たいと」

「良いことじゃ、いいよって言っといて」

宇野大旦那様も多少以外を感じたが、笑いながら頷いた。

渡辺さんは奈央に伝言を伝えて電話を切ったあと、疑惑を抱えながら聞いた。

「大旦那様、今夜は坊ちゃまが晩餐会のためにお戻りになられますはずだが、霧島さんまでお越しになれらたら、お二人が......」

「離婚したぐらいじゃ、大したことではあるまい。あの二人には友たちでいて欲しいのう」

大旦那様は笑いながらそう言った。そういえば、あの二人と一緒食卓を囲むのは今度が初めてだった。

奈央は大旦那様の心のうちを知らなかった。電話を切った後、彼女はタクシーを拾って、宇野邸へと駆けつけた。

ちょうど同じ時間帯、椿も仕事を終えた。

「彼女たち、もう行ったのか」

海斗にそう聞いた彼の口振りは淡々としていて、感情などは鮮明ではなかった。

「はい、もうお戻りになられました」

返事した隙に、海斗はちらりとボスの顔を見た。どうやら、Dr.霧島たちが帰ったと聞いて、いささか不機嫌だったようだけど?

椿はこれ以上何も言わなかった。海斗はこの隙を狙って聞いた。

「椿様は何時ごろ着くかって宇野邸から催促の電話が先ほど。先にお得意先のところへ行くのをなさいますかそれとも、宇野邸にお戻りするのを先回りにしますか」

「分かった、まずはお祖父様のところに行こう」

言ったそば、椿はもう立ち上がって、オフィスを出た。

奈央が宇野邸についた時、渡辺さんはすでに、門のところで彼女を待ち構えていた。

「お久しぶりです、霧島様」

「こちらこそ、お祖父様は?」

奈央は笑いながら聞いた。

「大旦那様なら、中で霧島様が来るのを楽しみにしています」

そう言いながら、渡辺さんは奈央を中へ案内した。

リビングで、彼女を見ると、大旦那様は笑顔を見せた。

「奈央ったら心が冷たいのう。ワシの見舞いをここまで先延ばしにするんだもの」

「申し訳ございません、お祖父様。奈央には合わせる顔がございません」

大旦那様に親切にしてもらっていたこそ、椿と離婚してから、彼女は中々顔を出すことができなかった。

「何馬鹿のことをいう。離婚したもワシは奈央のお爺さんじゃから」

大旦那様は少し空白を作って、また言った。

「これからはしょっちゅうこの老いぼれに会いに来てね」

「はい、そうさせていただきます」

奈央は頷いたけど、目を逸らしてしまった。どうやってさりげなく桐嶋家の件に触れるか困っていた。

散々悩んで挙げ句、彼女は勇気を出して言った。

「お祖父様、実は私今日は相談があって、来ましたが......」

奈央の話の続きは、外から聞こえてきた絹を裂くようなブレーキの音で断ち切った。奈央は猛然と表を上げて、音の着た方向を見た。彼女の目には、慌ただしさがあった。

そこまでついなかったのか。

「あの青二才だっただろう」

大旦那様は渡辺さんに聞いた。椿のことに触れると、老人はカッとなった。こんないいお嫁さんを手放したとは、愚か者め。

「坊ちゃまだと思いますが、向いに参ります」

そう言って、渡辺さんはリビングを出た。

「椿もちょうど晩餐会に来るって、事前に言えなくて悪かったよ。奈央はお爺さんに怒ったりはいないよね」

大旦那様はニコニコしなら奈央を見た。この老人は、三人で食卓を囲むのを楽しみにしていた。なにしろ何年も経ったが、これが初めてだった。

作り笑いをした奈央は、重たい気分だった。

「いいえ......そんなことはありません」

彼女は何となくめまいがした。椿はお得意先とあうと言ったじゃなかったか。どうして宇野邸にきたの?

いきなりにこられたら、彼女は無防備じゃなかったか?!

門の方向をじと見ていた奈央の手は汗まみれになった。彼女は何度も深呼吸をしたが、全然落ち着けなかった。

もうこれで......顔がバレることになったの?

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