元夫の心を燃え立たせた のすべてのチャプター: チャプター 91 - チャプター 100

100 チャプター

第91章 金で計るのもではない、縁で計るもんだ

奈央と小舟の二人の雑談に入る余地がなくても、皐月は全然頭に来なかった。彼女はただひたすら側で二人の話を聞いていた。暫くして、店員は小舟に言われた通り、あるものをとってきて、奈央の渡した。「これは入荷したばかりの極品の筆だ。宇野家のジジイはそういうのが一番気に入っている」小舟は笑いながら言った。奈央も頷いた。彼女の知る限り、あらゆるものの中では、文房四宝が一番のお気に入りなのだ。以前たまに大旦那様に一緒にご飯を食べようかと声をかけれて、宇野邸に行ったたび、彼女はきっとこの店をよって、何か手土産を買って行ったのだ。大旦那様は毎回毎回喜んでくれた。奈央は筆を皐月に渡したついでに言った。「これにしようか、大旦那様はきっと喜んでくれるはず」「はい」奈央の決まったことには、皐月はなんの疑いもしなかった。「おいくらですか」皐月は反射的に聞いた。小舟はニコニコしながら皐月のことを見つめていた。やがてに彼女を揶揄った。「うちのものは従来金銭でその価値を計るものじゃない。縁で計るものだ」「はっ?縁とおっしゃると?」皐月は完全にちんぷんかんぷんだった。「二百三十万円だよ」小舟は意地悪そうにそう答えた。皐月はさらにピンと来なくなった。彼女の顔には疑問マークが出ていた。奈央はついに我慢できなくて笑い出してしまった。何かと小舟をせめていたかのように言った。「小舟おじさん、変にからかうなよ」「嬢さんの反応はあんまりにも面白いから、つい」小舟まで我慢できずに笑った。皐月のほうだが、彼女は未だに状況に追いつけなくて、ですから......いくらなんだよと気を揉んでいた。彼女の悩みことを読み取ったかのように、奈央は声をかけた。「ほら、持っていくといい。勘定のことは私がなんとかする。私を免じて、小舟おじさんはきっと割引をしてくれる」「いいえ......」皐月はすぐ遠慮しようとした。「私もちょうどここで買い物をするつもりだし。それはおまけってわけよ」一足早く口を開いた奈央は、そう言って小舟のほうを見た。「どう、小舟おじさん、これでいいよね?」「それは、奈央嬢の買い物の金額次第だが」今日はきっと大儲けすると分かって、小舟の笑顔はさらに明るくなった。「ここで待っててね、皐月」奈
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第92章 これは伊野さんのご心配には及ばないと思うが

「奈央嬢は、この中には全部このジジイの宝物だぞ。お気に入りのものを安くしてあげるよ」自分が長年をかけて集まってきたお箱入りを見て、小舟は心がいっぱいで、満足したいた。ここに入れるのは、奈央だけの特権だ。他のものなら、小舟は決して入れさせたりはしないだろう。蔵品を一通り見て回ったが、なかなか決められなくて、奈央は小舟に相談することにした。「小舟おじさん、私も宇野大旦那様の誕生会プレゼントを買いにきたが、どんなものが似合うと思うか」「奈央もあのジジイを知っているのか」小舟は奈央が一度結婚していたことを知らなかったから、驚いていた。「うん、知っている」奈央は頷いて、また続けた。「親切にしてもらってたので、何か特別で気に入ってもらえるようなものをプレゼントしたい」「あのジジイが好きなのは、お前さんの先生の絵だと聞いたが、先生のところに行って、絵を譲ってくれと頼んだほうが良いのでは?」小舟はそんなふうに返事した。奈央も実にどうしようもなかった。確かに、以前の彼女の手元では先生の絵を一枚預かっていたが、オークションで売られた。あの時は、全然大旦那様の誕生会のことなど、考えていなかった。「先生はとっくにインスピレーションを探すために旅に出た。どこにいるのか私も」大旦那様の誕生会は二日後、今から人探しなんてとても間に合えないのだ。小舟は何かを考えていながら、一理ありと思って、奈央のいうことに頷いた。たっぷり時間をたらせて、悩んだ後、彼は右側にあった箪笥の扉を開けて、中から奇貨を一点取り出して、奈央に渡した。「ジジイなりに考えた。誕生会のお祝いときたら、やっぱりこのものが一番、縁起がいい」「福寿の硯?」奈央は驚きで、声を高めた。「よく分かったな、奈央嬢。これはまことの清の時代の硯だ」小舟は笑いながらドヤ顔で言った。奈央はなんとなくその硯を受け取り辛く感じた。このような古の硯は一つ一つは奇貨だった。小舟はこれらの蔵品を手に入れるためには、さぞ骨を折っただろう。「そんな受け取り辛そうな顔をするな。僕も高く売るために、これらのガラクタを集めてきたのだ。今こうやってお前の手によって買われたのも何かの縁だ」小舟はそう言った。そして、少し間をとってまた続けた。「お前の先生が持っている、その透かし彫
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第93章 将来のことをも含めて考えなくてはなあ

一気に胸の内を吐いた後、奈央は店の外へと出ていった。伊野百恵は、彼女が恥ずかしさで人に合わせる顔がないから、逃げたと勘違いをして、内心で喜んでいた。これから椿に何かを言おうとしていたところに、椿は小舟の前に行って、礼儀正しく相手のことを「小舟おじさん」と呼んだ光景を目にした。「おや、宇野家の小僧か」小舟は椿のことを冷たい目でちらっと見て、淡々と返事した。「二日後はお爺さんの誕生会です。お時間が大丈夫そうだったら、ぜひ」椿は自分のお爺さんが小舟に招待状を出したかどうか把握していなかったので、念のためだと思って、直々本人の前で誘った。椅子に座っていた小舟は、目を細くして、答えた。「ワシは忙しいゆえ、時間など空いておらん」「小舟おじさん......」「宇野家の小僧、もうお帰りだ。商売の邪魔だ」小舟は客の椿を追い出そうとした。以前なら、椿に対していい印象があったが、今なら......小舟は視線を伊野百恵におけた。このような女子が彼女とは、見る目がないのがはっきりと分かった。「このジジイ......」椿があっさりと断られたのを見て、伊野百恵は怒り出して、攻めようとした。しかし、彼女がこれ以上何かを言い出す前に、椿は先に警告の冷たい目つきで彼女を黙らせた。「黙れ!」「椿、私はただ......」「では、これで失礼いたします。小舟おじさん。商売の邪魔をするつもりは決してありません」これ以上無理を言ってはならないと察して、椿は代わりにそういった。後ろに座っていた小舟が悠長な口振りで声をかけてくれたのは、椿がもう店の門のところに来た時だった。「宇野家の小僧、彼女を選ぶ際には将来のことをも含めて考えなくてはなあ。相手を間違えれば、この一生に響くから」「ご忠告ありがたくいただきます。小舟おじさん」椿は礼を申した。二人は間もなく店を出た。小舟は目を細くしたまま、居眠りをし始めた。一方で、店を出た伊野百恵は気を悪くしていた。あの小舟というジジイの最後の遠回しの言葉は、自分のことを言っていたくらい、彼女は分かっているつもりだった。「椿、先の小舟さんというのは何者なんだ?」少し戸惑ったが、伊野百恵は耐えずに聞いてしまった。椿にあんなふうに、慎ましやかな態度を取らせた人物は、きっと並みのも
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第94章 余計なお世話だよ

これを運の良いものか悪いものかのどちかを決めようがなかった。椿が奈央を誘うかどうかで迷っていた時には、奈央とバッタリ会うという展開にはならなかった。彼はなんとなく心に穴が空いたかのような寂しい雰囲気で、歩き出してエレベーターに入った。エレベーターのドアがもう少しで閉まってしまうところに、「待ってください」という掛け声と共に、誰かが手を伸ばして、閉まりかけのドアに当てた。「霧......」椿はその人の顔を見た突端に、口に出ていなかったその名前の残り半分を呑んでしまった。自分の後ろを追ってきたのは奈央ではなく、正装姿の女性だった。「宇野様のご自宅もこのマンションですか」彼女は明らかに椿のことを知っているから、そこまでびっくりしてしまったのだ。あの有名な宇野椿が、この名臣レジデンスに住んでいるとは!?あまり印象に残っていなかった女性だったので、椿は聞き返した。「そうですが、どちらさんでしょうか」「礼服ブランドDRのものです。この前、宇野様は関谷様と一緒にご来店して、礼服を一着注文しました」女性はそんなふうに答えた。そのことに対する印象はすっかり薄くなったが、椿は礼儀よく頷き返した。その後は、無言のまま沈黙が続いた。椿は口を開こうとしなかったので、その女性も次第に沈黙を選んだ。間もなくエレベーターはある階層で止まったが、二人は同時に外に出た。椿は眉を顰めて、聞いた。「お住まいもここでしょうか」「いいえ、違います。ここに住んでいる客に礼服を届けに来ましたの」というのは女性の答えだった。椿はある嫌な予感がした。彼が今までに、この階で会ってきたお隣さんといえば、奈央の一人だった。「客とは?」「これは......」女性は答えに戸惑った。客の個人情報を漏らすなんてことはできない。「言えませんか」椿の口振りは一変した。彼の言葉には脅し文句はなかったが、彼の出していたそのオーラが凄まじくて、断れようがなかった。「霧島様という女性の方です」状況も状況だったので、その女性はやむをえず、話してしまった。何せ椿の恨みを買っても、良いことは何一つもないのから。これで、椿は奈央が礼服を注文したことが確定できた。けど、彼女が礼服を注文してどうする?まさかお爺さんから招待状でも貰ったか。
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第95章 かなり大変な日々が続いているだろう

再び喧嘩別れになって、二度と椿に顔を合わせないように、奈央は真剣に引っ越しのことを検討した。向かいの部屋では、椿は直接戦場ヶ原尭之に電話をした。「宇野様、この時間に電話とは、昔話でもするつもりじゃないでしょうね?」この二人の間では、落ち着いて話し合えるような昔話なんてないのだ。椿は力強く、手でスマホを握りしめていた。「霧島奈央に近つけてるなって言ったはずだ!俺の言ったことを聞き流したようだな?」「宇野椿、何様のつもりなんだ?どうして俺はお前なんかのいうことに従えなければならないんだ?」電話の向こうの尭之は、椿の大人気なさで呆れて、鼻で笑った。「ここんとこ、かなり大変な日々が続いているだろう」椿は急に話題を変えた。わざと会話の中に空白を作ってから、話を続けた。「戦場ヶ原家の連中はずっとお前がへまをするのを待っているようだが、今のそれはまさに相手に隙を見せるのもう同様だ。そんなことして、絶対連中に攻められてしまうと思うが、しかも容易には抜けないだろう」尭之は無言になった。悔しいけど、言葉が出なかった。宇野家は流石に泉ヶ原での一流名門だけあって、なかなかの手技量だった。戦場ヶ原家は宇野家とは大層な差がないとお見込んで、彼はこの前椿の言った戦場ヶ原家に手を出すという言葉を真面にしていなかった。けど向こうがいざ本気を見せたら、両家の間での実力の差は実在していると、尭之はやっと理解できた。例えば、今の尭之が連続に連携を打ち切られて、戦場ヶ原家の他の人間の不満に囚われているのも、椿は裏で手を回したことが原因だった。そして加えに、実家のものどもは、戦場ヶ原家がこんな目に遭ったのは自分が椿に目の敵にされていたからだということを知っていた。そのため、連中は即座にも、彼を引き攣り下ろそうと企んでいた。「霧島奈央のそばを離れると約束すれば、戦場ヶ原家を納めることに力添えをしましょう」椿からそんな条件を出すなんて珍しいことなんだ。これもきっと、彼は尭之のことを尊敬すべきライバルだと認識していたからだ。他の人が相手だったら、彼はきっと話す余地も与えずに、容赦無く手をかけただろう。椿は孝之には自分を断る理由がないと踏んでいた。何しろ、この男は本心で奈央のことが好きじゃなかった。戦場ヶ原家と比べられたら、奈央はそれほど重要
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第96章 どうしたの?わざわざここに来て

この夜、椿はあまりよく眠れなかった。彼は夢を見た。その夢の中では、彼は奈央と婚姻届を出した日にタイムスリップした。ただ違ったのは、今回はお爺さんにお任せしたのではなく、彼が自分で奈央と共に市役所に婚姻届を出しに行った。現実での顔を合わせていなかった二年間の婚姻生活とは違って、彼はその時に、奈央に会った。その後の展開もまるで異なった。けど、目が覚めたら、彼はこれを夢だと気付いた。病院でのは奈央は、午前中の手術を終えて、息抜きのできる午後を効率よく利用して、自分のオフィスでカルテを整理していた。彼女が大旦那様からの電話を出たのはちょうどその時だった。電話の内容はもちろん、彼女を誕生会に誘うことだった。「奈央よ、十年でこの一度から、きっとお爺さんの誕生会に来てくれるよね」大旦那様はそうやって言葉で粘った。「お爺様、時間通り行きますよ」奈央は丁寧に答えた。「それならよかったのう」大旦那様は満足そうに電話をきて、我が孫と奈央の初対面を楽しみにしていた。この時の大旦那様は、まだ椿が離婚した次の日にすでに奈央に会ったことや、椿が奈央が自分の元妻だとも知らずに好意を抱いてしまったことをも知らなかった。電話を切って、もう一度作業に潜ろうとしたところを、誰かがオフィスのドアにノックした。顔を上げると、あそこに尭之が立っていた。「どうしたの?わざわざここに来て」奈央は困惑の表情をしていた。「昨日の礼服、気に入ったかな確かめに来たのよ」というのは笑顔で奈央に返事した彼の建前で、内心では昨晩の椿の電話で不快を覚えたから、先手を打つために急いできたのだ。奈央は尭之の選んだ礼服をもう一度思い出した。実にオシャレで凝ったデザインだったが、彼女の好きなスタイルではなかった。ただ贈り物だったので、好き嫌いをいうのは行儀が悪いと思い、彼女はお世辞をも兼ねてこう言った。「なかなか上品な礼服だ。いくらしたのでしょうか。お金を渡さないと」「金だなんて他人行儀をするとは、水臭いよ」尭之は気を悪くした。自分が何をどうしても、奈央の心を許す人にはならなくて虚しい気がした。「いや、ただ......」「俺のパートナーになってくれる報酬だと思えば、気持ちよく受け取れるよね?」尭之は仕方なくこんなふうに言った。そ
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第97章 あいつがどうして暗いのが苦手なのか分かる?

「宇野家は奈央のことを誘わないと思っていたが」孝之は不満そうに、口をへの字にして言った。「宇野椿のやろうに誘われたか」「違うの。大旦那様からの誘いなんだ」いくらなんでも、彼女は椿の元妻で、肝心なのは大旦那様とは親しくお付き合いさせていただいているので、向こうから誘われても無難はなかった。奈央の口からをそれを聞いて、尭之はちっとも嬉しくはなかった。「あのオヤジとはここまで親しいなんて、ちょっと意外だな」「まあ、それなりに親しいよ」奈央は頭を縦に振った。二人の周りの空気が固まってしまった。尭之は奈央の顔をちらっと見て言った。「じゃ明日、時間通りに向かいに来るから、いいんだね?」「うん」奈央はそれに応じた。一度約束したこと、彼女は破りたくないのだ。それから尭之は席から立ち上がった。彼がちょうど門のところに出て時、奈央はいきなり次のことを聞いてきた。「実は、ずっと気になっていたのだ。戦場ヶ原さんと宇野さんの間では、一体何があった?」宇野家と戦場ヶ原家との間で、揉め事や互いにへの恨みがあったのは一度も聞いたことがなかったが、尭之の立ち振る舞いからして、二人の間では、大きな何かがあったのは間違いないようで、彼女は確かに気になっていた。尭之の手が微かに震えていて、何か良からぬことでも思い出し奏のようで、顔色は悪かったが、いくら待っても口を開くことはなかった。「すまない、言いたくないのなら無理しなくていい」彼女はついでに聞いたつもりだったが、尭之の反応がここまで激しいとは思わなかった。沈黙は長く続いた。そして、尭之は振り向いて、奈央の前にあった椅子に再び座ってから、ゆっくり言った。「酒はあるか」「は?ここは病院だよ」奈央は彼を注意した。「それなら、水を一杯いただくのは文句ないだろう」尭之は彼女を白い目で見た。どうして椿がこの面倒見の悪い女に惚れたか理解できなかった。それを聞くと、奈央は立ち上がって、水を一杯取ってきて、彼の手前においた。尭之はそれを手に取り、一口を飲んだ後、やっと落ち着いた。「実は俺はあいつとは個人的な恨みはないんだ。俺はただ宇野家の人間が気に食わないだけだ。あいつが宇野じゃなかったら、俺はやりあうなんてしなかった」彼はじわっと語ってくれた。手で頭を支
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第98章 話すことはないと思うが

戦場ヶ原尭之という男は、きっと人に殴られたことが一度もなかったのだ。そうでもない限り、あんなふうに軽々しく人を挑発するような発言はできないと奈央は思った。深呼吸して、奈央は自分を強制的に仕事に潜らせた。椿が暗いのが苦手な原因に至っては、彼女は探求しないことにした。別に知りたいわけでもなかったし、彼女とは関係のない話なのだ。病院で夜遅くまで働き続けた彼女は、運悪くマンションに戻った時に、椿と鉢合わせた。引っ越すというのは、一刻も早く進めないといけないのだ!エレベーターの中で、奈央は隅っこに身を寄りかかり、椿の存在を完全に無視した。暫くして、我慢できずに、椿は先に口を開いてしまった。「うちのお爺さんが電話したか」「宇野さんは、私に話しかけていたのか」奈央は顔をあげて、わざとそれを聞いた。椿の顔色はなんとなく暗くなったが、彼は怒り出さないように自分の感情を必死に抑えていた。「じゃなかったら、ここに他に誰がいるというんの?」「あ、そう」奈央は心ここに在らずに返事してから、こう言った。「したけど」「じゃ、行くのか」椿はまた質問をした。「お爺様のお誘いなので、行くに決まってる」というのは彼女の答えだった。椿がまだ何も言えなかったうちに、彼女はすぐ言った。「宇野さんがもし私の顔が見たいないというのなら、私はできる限り宇野さんのことを避けて、必ず会わないようにすることを約束する」この宴会の主人として、椿が自分の顔を見たくないのも無理はなかった。誰であって、自分のことをクソミソに罵った人に会うのが嫌だろう?「霧島奈央、俺のことを誤解してるようだ。しかも、かなり深く」椿は不意に奈央にそう言った。自分は一体何をどうしたらこの女にここまで誤解されたのか。本当のことは、彼女のほうが自分を会いたくないだろう?奈央は肩をすくめて、椿の言葉をどうでも良く思った。彼女と椿の間での誤解事はもうやまたくさんだった。一つや二つ増えたところで、痛くも痒くもないのだ。困難や悩み事など、いくら山積みしていても、なんとかなるので、心配することはない。話をしているうちに、エレベーターが二人の住む階層に止まった。奈央は真っ先にエレベーターを降りて、一刻も早く家に帰ろうとした。これ以上椿にここで絡まれてはたまらないのだ。
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第99章 今更謝ってももう間に合わないのよ

二人は適当な席に座った。椿のこの場所への嫌という気持ちは隠さずに彼の顔に出ていた。そんな顔をしていた椿を見て、奈央は我慢できずに笑ってしまいそうところだった。「宇野さんのこのような環境には慣れてないようだな。それならどうして名臣レジデンスに住むことにしたの?宇野邸だったら、その周りには決してこのような露店は出来なkったのよね」宇野邸が占めしてるのは別荘がざっと並ぶエリアで、環境に優れている上、住人の数も少ない。確かに椿のような、環境にうるさい人にはピッタリだ。椿は返事をしなかった。結婚する前の彼は確かに、宇野邸に住んでいたが、結婚した後、奈央があそこに住むようになってから、椿は無性に戻りたくなくなり、会社近くのマンションに住むようになったわけだ。そして離婚した彼は、宇野邸に戻ろうと計画していたが、まさかそのタイミングで彼は奈央に出会ってしまった。彼はひょっと名臣レジデンスを出れなくなった。奈央は数秒彼を見つめていて、ふと何かを思いついたように、にやついた。「宇野さんも大変だったなあ。結婚したら逆に我が家に帰れなくなる身になったなんて」奈央の言葉はなんの遠慮もなく尖っていたが、椿は一向に気にせずに、薄い微笑みを浮かべながら言った。「奈央だっていきなり妻ができたって言われたら、同じことをするだろう」「私を一緒にするな」奈央は蔑みの目で椿を見て言った。「私はなるようにしかならないという言葉の意味を知っている。逃避ばかりする誰かさんとは違う」せめて、彼女なら相手と会って、ちゃんと話をするのだ。会いもせず、話しもせずにほったらかしする椿のようにはならなかったのだ。クズ!彼女は心の中でそう叫んだ!椿は何も言い返せなかった。今思えば、彼のやり方には大いに問題があった。けど、あのごろの椿の心は怒りに篭っていた。いきなり自分の妻となった霧島奈央という女性に対して、明白な好き嫌いはなかったが、恨みを抱いていたのは確かだった。これぞ諸行無常ということだ。彼が再び奈央に出会えてしまうことは誰もが予想できなかった。「この前は悪かった」これ以上自分の所業を屁理屈で弁明するのではなく、椿は素直に謝った。「ごめんなさい」椿の口から、「ごめんなさい」という言葉が出てくるなんて、奈央は実に驚いたが、すぐ我を取り戻し
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第100章 宇野さん、あなたまさか私のことが好きなんじゃない?

向かいの席に座っていた男はただひたすら酒を飲んでいて、いくら待っても理由を教えてくれなかった。そのまま彼を眺めていた奈央の頭には、急に何らかの予想が入り込んだ。この予想は滑稽だったのにもかからず、この時この場では、椿の全ての行動に噛み合うほど合理的に感じる。「宇野さん、あなたまさか私のことが好きなんじゃない?」奈央は椿のことを見つめて、笑いながら聞いた。彼女は男が仏頂面で否定するのだと思っていたが、いつまで待っても、男は何も言ってくれなかった。奈央は動揺した。そして、彼女自身はしっかりと心の揺らぎを感じた。「宇野椿、頭がいかれてたか」椿は酒グラスをおいて、視線を奈央に向けた。「お前が好きイコール頭がイカれてる?これはどんな理屈だ?」「他の人なら話が別だが、あなたなら絶対そうに違いない」奈央はそうと答えた。状況を分かっているのか?私はあなたの元妻なんだよ!というのは奈央の心の声だった。離婚したら、元妻のことが好きだと?これを頭がいかれてるというのだ!椿はため息を漏らして、悠々と言った。「時には、そう思うのだ。もし結婚していた間に、一度だけでも会いに行けたら、多分......俺たちはいまだに夫婦なんだろうなって」「ってことは、あなたが私に一目惚れしたって言いたいか」奈央はとんでもない戯れが耳に入ったような気がした。椿はそれを認めず、そして否認もせずにいた。この時の奈央の心情は複雑だった。椿の話そうという誘いに乗ってしまったことを些か後悔していた。焼肉の串刺しを噛みながら、彼女は自分の人生を嘆いた。ここで手綱を緩めるつもりはなかったので、椿は彼女に聞いた。「で、一度チャンスはくれないか」そう言われて、奈央は唇をしめた。手に取っていた牛肉の串刺しは、その瞬間でそのうまみを無くしてしまった。「ね、奈央ちゃん......」「やめて」奈央はすぐ椿をやめさせた。「そこまで親しくはないのだから」奈央ちゃんだとは、どこまでも厚かましいのだ!この宇野椿という男は!「戦場ヶ原のやろうなら大丈夫そうだけど、俺ときたらダメだってどうして?」男は少々怒っていた。彼は自分ならどう見ても戦場ヶ原のやろうより奈央とはずっと親しい関係にあったつもりだった。しかし、奈央はそうは思っていなかっ
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