深夜。 日向桃は担当する客室を真面目に掃除していた。 母親が重病にかかった後、昼間は会社で働き、夜はバイトとしてここで掃除をして、やっと高額な医療費を支払うことができていた。 ようやく、今夜のバイトがほとんど終わり、あと最後の一室、プレジデントルームが残っていた。日向桃は額の汗を拭き、ドアを開けて中に入っていった。 部屋の中は真っ暗だった。スイッチを探して明かりを点けようとしたが、突然力強い腕に押さえられた。 びっくりして叫ぼうと思ったが、声を出す前に男に口を塞がれてしまった。「静かに!」 驚きのあまり目を大きく見開いた彼女にはこの男が誰なのか、何を狙っているのか全く分からなかった。 まさか変態か、それとも精神異常者か? そう考えると、日向桃は必死に抵抗し始めた。しかし、背の高い男の前では彼女の抵抗は無駄なものだ。 男は何だか違和感がした。 実は強力な媚薬を飲まされた後、男はアシスタントに女を送ってくるように頼んだが、今目の前にいるこの女性はちょっと... けれど、絶望的且つ無力な少女の様子に、彼の独占欲が強くかき立てられてしまった。 …翌朝。目覚めた日向桃は昨夜の男が既にいないことに気づいた。 シーツにある赤黒いしみが彼女の目を刺すようだった。そして、体を少し動かすだけで、全身が砕けるような痛みが襲ってきた。 彼女は見知らぬ男に最も大切なものを奪われたのだ。 言葉では表し難い悲しみが胸に押し寄せてきた。その時、日向桃はナイトテーブルに置かれた腕時計に気づいた。昨晩の男が残してくれたものだった。 腕時計の下には一枚のメモがあり、簡単に二文字、「補償」と書かれていた。 私を売春の少女だと思っていたのだろうか? 限りない屈辱を感じた日向桃は、その腕時計を強く床に叩きつけた。最後に、顔を覆って声を上げて泣き出した。 しばらくして、彼女は徐々に落ち着いてきた。今は泣いている場合ではないし、倒れるわけにもいかなかった。母親が病院で彼女の世話を待っているのだから。 そう考えながら、彼女はベッドから這い降り、痛みを我慢して着替えた。そして、一度も振り返ることなく、この悪夢のような部屋を逃げ出した。ホテルを出た日向桃は、道に沿って歩きながら行き交う車両を眺めていた。自殺したい気持ちさえ
Last Updated : 2024-07-17 Read more