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第10話

 菊池雅彦が彼女を呆然と見つめるうちに、朝の時間が過ぎ去ってしまった。本をめくる音を聞いて、菊池雅彦はやっと意識を取り戻した。

 さっきこの女をずっと見つめていたことに気づき、彼は顔に皮肉っぽい笑みを浮かべた。

 この下品でお金に目がない女が、わざわざ朝早く起きて本を読むのは、この私の見方を変えさせたいのか?

 本当に退屈な芝居だ。

 菊池雅彦はにやついた顔でベッドから出て、直接バスルームに向かって身支度を整えた。

 物音を聞いた日向桃は、菊池雅彦が目を覚ましたと分かった。もしかして彼の机を使ったことで、不快に思わせたのか。

 彼女はできるだけ考えすぎないようにした。今、母親の治療費用は全部菊池雅彦からもらったものだ。日向桃は急いで机の上の本を片付け、礼儀正しく席についた。

 しばらくして、バスルームから出てきた菊池雅彦は、片付けを終えた日向桃を見ると、「食事に行け」とゆっくりと言った。

 日向桃は菊池雅彦の後ろについて、二人でダイニングルームに向かった。そこで、菊池永名はすでに種類豊かな朝食を用意していた。

 穏やかな表情で部屋から出てきた二人を見て、菊池永名は笑顔で頷いた。「桃さん、よく眠れたか?雅彦は桃さんをいじめたりはしなかったか?」

 それを聞いて、菊池雅彦は彼女をちらりと見た。その目線を感じた日向桃はすぐに首を横に振った。「いいえ、そんなことはありません。私は大丈夫です。」

 昨夜、床に寝ていたため、彼女は腰と背中が痛く感じた。だが、菊池雅彦からお金を受け取ったため、彼女は昨夜のことを明かさなかった。

 「それはよかった。これから、雅彦が桃さんをいじめたら、私に教えてくれ。叱ってやるから。」

 それを聞いて、日向桃は軽く微笑んだ。みんな気楽な雰囲気で朝食を済ませた。

 食事の後、菊池雅彦はお父様と相談するために書斎に行った。

 「お父様、私が植物状態から目覚めたことについて、うち以外の人に知られないようにしてほしいです」

 「え?何か考えがあるか?」

 「今回の事故は普通の交通事故ではないと私は思ってます。現状を維持することで、真の容疑者らを油断させられれば、あいつ等は尻尾を出すかもしれないです」

 顔が曇ってきた菊池雅彦は、長年にわたり諸名門の間で活躍していた。そのため、逆走のトラックに衝突した今回の事故は、単なる偶発的事件であると甘く見てはいなかった。きっと、誰かが綿密な計画を立て、彼の命を狙っているのだろう。

 菊池永名はしばらく考え込んで「わかった。調査する際は気をつけろ」と念を押した。

 「はい」と返答してから、菊池雅彦は書斎を出て自分の部屋に向かった。ちょうど部屋に入ろうとした時、中から慌てて出てきた日向桃とぶつかってしまった。

 日向桃が後退りして転びそうになった瞬間、しっかりとした手が彼女の体を支えた。

 日向桃の手をつかんだ菊池雅彦は、心の中では少し驚いていた。さっきの行動は理性ではなく、本能によるものだ。無意識のうちに取った行動だった。

 普段なら、潔癖症の彼は決して自ら女に触れることはないだろう。

 もしかして植物状態が長すぎて、自分も変わったのか?

 そう考えると、菊池雅彦は嫌悪感を持って手を振り払い、「どこに行くんだ?」と日向桃に聞いた。

 支えてくれた菊池雅彦にお礼を言おうとしたが、彼の蔑むような目を見て、感謝の話を飲み込んでしまった。ただ「母親を見に行くんです」っと言った。。

 結婚のため、日向桃は数日間病院に行っていなかった。母親が本当に菊池雅彦が言ったように一番いい病室に移動したのか、彼女は自分の目でちゃんと確かめなければならなかった。

 菊池雅彦は何か言おうとしたが、その理由を聞いて、ただ顔色を引き締めた。「そうか。早く帰ってきてくれ。そして、私が目覚めたことについて、誰にも知られないように気をつけろ」

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