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第14話

 菊池雅彦は電話に出た。「佐和君、久しぶり。何か用があるのか?」

 菊池佐和は彼の兄である菊池英傑の次男であった。菊池英傑夫婦と菊池雅彦は水と油のようで、何かにつけて対立している。しかし、両親と違って、菊池佐和は菊池雅彦と非常に仲が良かった。

 菊池佐和は幼いころから人を治す医者に憧れていた。そのため、家業を継ぐことを諦めて医学の道を選んだ。また、彼は親の支配から抜け出すために、大学の学費を自分で稼いだ。現在、優秀な成績で海外留学中であった。

 だから、叔甥二人の関係は菊池佐和の親に影響されなかった。

 「実はお祖父様は叔父さんが目を覚まして結婚したと教えてくれたから、そんな大事なことは本人から聞きたいと思って電話を掛けたんだ」

 彼の話を聞いて、菊池雅彦は眉をひそめた。「海外でも知ってるのか?」

 「お祖父様が教えてくれたからだ。本当に気になってね。叔父さんと結婚して、またお祖父様にも絶賛されてる女性が一体どんな人物なのか知りたいんだ。国に帰ったらぜひ紹介してくれよ」

 口もとに微笑を漂わした菊池雅彦は話題をそらした。その時、日向桃と既に離婚してしまっているかもしれないからだ。

 しばらく話をした後、菊池佐和は電話を切った。

 彼がぼんやりとしている間に、国内で彼を待っているあの女の子を思い出した。

 海外でのここ数年間、菊池佐和は勉学の傍ら、日向桃の母親の手術を行うことができるロス医師を探し続けていた。

 ロス医師は医術が高いが、性格が変わっている。一般の人は彼に会うことができないため、病気を見てもらうのが殆ど不可能なのだ。菊池佐和も偶然のことでロス医師と連絡を取った。

 ただし、ロス医師は菊池佐和に対して、戦火の下の国境にある小国で救助活動を一緒に行うよう要請した。その代わりに、ロス医師は手術を行うことを約束した。

 ここに半年近く滞在していた菊池佐和は、日向桃に心配を掛けたくないし、また彼女の声を聞くと我慢できずに国に帰りたくなることを恐れたため、彼女と連絡しないと決意した。

 ここでの救助活動を済ませた後、彼はロス医師と共に国に帰り、日向桃の母親を元気にするために手術を行い、そして日向桃にプロポーズする予定だった。

 その美しい場面を想像しながら、菊池佐和は思わず口角を上げ、スマホの待ち受け画面の日向桃の写真に強くキスをした。

 …

 翌朝。

 朝食の後、日向桃が外出しようとしていたところに、伊川海が門に車を止めた。

 日向桃を目にすると、彼はすぐに近寄ってきて、「奥様、若旦那様の指示で、今日お買い物にお供させていただきます」と言った。

 菊池雅彦がアシスタントに自分を買い物に連れていくように頼んだと日向桃は思わなかった。彼からは無制限に使えるブラックカードをもらったが、日向桃は決して贅沢に使いたくなかったのだ。

 実はそのカードについて、彼女は既に心に決めていた。母親に何か急用がない限り、そのカードを使わないと。

 しかし今、そのカードを使わないといけないようだった。

 「わかりました…」彼女は淡々と話した。そして、ふと何か思いついたように「伊川さん、これから奥様と呼ばないでください。雅彦様が聞いたら、きっと不快に思うでしょう」と言った。

 すると、日向桃はそのまま車に乗り込んでいった。

 伊川海は彼女の後ろ姿を見ながら愕然とした。最初に日向桃が菊池雅彦と離婚しないことを知ったとき、きっとこの女が奥様の座を譲りたくないからだと彼は思っていた。

 菊池家のお嫁さんになる魅力を拒否できる女性はいないだろう。

 しかし今の状況を見ると、日向桃はその奥様の座に全く興味がないように見えた…

 非常に困惑していたが、いろいろ世間を見てきた伊川海はその戸惑いを抑えつつ、車で日向桃をショッピングモールに送っていった。

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