All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

彼は腕を車窓から差し出した。細長い指を使って、ティシューパックをとわこに渡した。彼女は少し戸惑って、いらないと返事するつもりだったが、まるでもののけに唆されたかのように受け取っってしまった。「ありがとうございます」ティシューパックにはまで彼の掌の温もりが残っていた。彼はすぐ目線を彼女の顔から回収した。車窓も閉じられ、車は速いスピードで走っていた。朝10時。三千院グループ。社員たちは依然として、自分の持ち場で励んでいた。もう一か月以上給料が出ていなかったが、三千院グループは歴史を誇った企業だけあって、ネット上ではあらゆるイメジーをダウンするようなニュースが流されていたのにも関わらず、社員たちは諦めずに、最後まで会社と共に生きようといった姿勢を示した。もし会社が借金を雪玉のように積み重ねていたのを、とわこが知らなかったら、目の前の平穏な景色がフェイクだったというのは、彼女は想像すらできなかった。とわこは副総裁田中のお供で、会議室にやってきた。弁護士の先生は、とわこが入ってくるのを見て、単刀直入に言った。「三千院さん、ご愁傷様です。お父上に託されまして、今この場をもって遺言状を公表させていただきます」とわこは頷いた。弁護士先生は書類を出して、落ち着いた声でゆっくりと説明してくれた。「三千院さんのお父上は、不動産を六ヶ所、所持していました。場所はそれぞれ…これが書類です。ご確認を」とわこは書類を受け取って、ちゃんと確認し始めた。「他には、駐車位三つに」そう言いながら、弁護士先生は別の書類を渡してくれた。「店舗八軒に、車十二台です」実家の財産について、とわこは今までよく知らなかった。その理由の一つは、関心がなかったからだった。二つは、父が詳細について語ってくれなかったからだった。現に今、弁護士の先生が父の財産を、隅から隅まで教えられたら、彼女の内心では、なかなか平然にいられなかった。父がこんなにも財力を持っていたのは予想外だった。こんなにも固定資産を持っていたのなら、それがどうして病気の治療のために売らなかったんだ?ととわこは疑惑に思った。「先ほど、教えて差し上げた資産を除き、今僕たちがいるこの会社も」弁護士先生は少々間をとった。「お父上は、三千院さんに会社を継がせるつもりでしたが、今の会
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第12話

 夜9時。地に落ちた葉っぱは、秋風に包まれ、ざくざく地上を歩いた。タクシーから出てきたとわこは、ふっと体を襲った寒さで、ぶるっと縮こまった。彼女はバッグを手に取り、早いスピードで常盤家の門のほうへ歩いた。薄暗い夜は、赤いキャミソールドレス姿の彼女の色っぽさを引き立てた。朝出かけた彼女は、普通のシャツとスラックスを着ていた。彼女はよその男に気に入ってもらうために、あえてこんな姿になったと思ったら、奏は無意識に拳を握り締めた。玄関でスリーパーに履き替えた時、とわこはやっと、リビングでの奏の存在に気ついた。今日の彼は黒シャツを着ていた。高嶺の花のようなあっさりとした薄暗いオーラが、普段よりも強まった。彼はいつも通りに、そっけない表情を被っていたから、とわこは視線を長く彼の顔に置けられなかった。靴を履き替えた彼女は、彼に挨拶するかしないかって心の中で揉めた。なんと言っても、今朝は彼からティシュパックをもらった。彼女は不安を抱えてリビングに行き、ちらっと彼のほうを見た。今晩の雰囲気は流石に違っていた。彼女が帰ってきたら、三浦婆やが挨拶をしてくるのがお約束だった。まさか、三浦の婆や今日は留守かと想像した。彼女は彼に気つかないように深く息を吸ったが、緊張で心拍がやはり乱れていた。最終的には、彼に挨拶するのをやめると決めた。「こっちに来い」彼の凍りついたような声が聞こえてきた。リンビンには自分たち以外誰もいなかったことが明々白々なので、惚けようもなかった。「何か用ですか?」彼女は歩くのを止めて、そのつぶらな目で、彼を見た。「こっちに来いって言っているの」彼の口振りには、恐ろしい威圧感があった。彼女の緊張は一重上回り、体が勝手に動き出して、彼のいる場所に歩いた。彼の命令に逆らえるほど、彼女は器用ではなかった。だとえ、男は今車椅子を使っていて、自分にとってさほどの脅威ではなかったにも関わらず、彼女は単純に怯えていた。彼女は彼の側に近付き、そのハンサムと同時に改まった表情をした顔を見て、再び息を吸った。「なんのことかしら?離婚してくれるんですか?」彼女の話が終わったのと共に、彼は顔を顰めた。薄い酒の匂いが彼の鼻に入り込んだ。彼女の体からだった。彼女は酒を飲んだ。彼は突然頭を上げて、隠し
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第13話

 主寝室、バスルームタオルを手にした看護師が奏の体の汗粒を慎重に拭いた。両足にまだ力がなくて、看護師の支えがないと立つことすら難しい。事故以来、ずっとこの看護師に世話してもらっていた。40過ぎの男性で、細かで慎重な人だった。「常盤さん、足にあざがありますね」バスローブを着せて、手伝いながら看護師は彼とバスルームから出た。「塗布薬を取ってきますね」看護師が部屋を出た。ベッドサイドに座った奏はバスローブを引き上げ、足に青いあざが現れた。とわこにつねられたものだった。足に感覚が全くないわけではなかった。つねられたときに我慢して声を出さなかっただけ。頭の奥にとわこが泣いている顔が不思議に浮かんでいた。それに…彼女の体にある特別な香りはなかなか忘れられなかった。今まで、女に興味を持ったことがなかったのに。しかも、女のことで特別な感情を抱いたこともなかった。とわこは、彼の心を揺らした。まもなく離婚する女にこんな思いをするなんておかしいじゃないか。でたらめな自分を分からなくなった。でも、また同じことがあっても、やはりむかついて、彼女の服を破ってしまうに違いない。……翌日朝、7時。奏を避けて気軽に朝食をするため、とわこは早めに起きた。部屋を出て、まっすぐにダイニングへ行った。「おはようございます。若奥様もお早いですね。朝食は用意できました」三浦婆やが挨拶した。「も」という言葉に違和感があった。奏がいる。しょうがないから部屋へ戻ろうと思った。「若奥様、昨日脂っこい食事がだめとおっしゃったので、野菜サラダを作っておきました。お口に合うかどうかわからないですが、どうかお召し上がってみてください」彼女に熱心に勧められ、引っ張られてテーブルに座った。座っても不安でイライラした。奏の顔を見たくない。一目でわかるだろう。彼女と目を合わさなかったが、彼女からの嫌な雰囲気がすでに奏に伝わった。「朝飯終わって、挨拶に行くとき、お母さんに余計な話をするな」奏の声は冷たかった。「夕べ、あのドレスを弁償するお金いつもらえるの」とわこが直談判しかけた。大奥様に挨拶に付き合ってもよいが、先に清算してもらわないと。「そんな現金はない。どうしてもいるなら、携帯から振り込む」ミルクを飲み
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第14話

 彼女の瞳に映ってる彼の顔は悪魔のようで、鋭利な牙を剝きだした。「どうして、奏、子供が欲しくなくても、こんなひどい言葉はないだろう?」とわこは辛そうに聞き返した。「はっきりさせないと、君が望みを捨てないから」奏の目が奥から冷たく光らせた。とわこは息をのんで、目線を彼の顔からそむけた。あまりの怖さに驚かれて、彼女は深い暗闇に吞まされるようになった。奏は彼女の反応に興味が湧いてきた。「もしかして、僕の子供が欲しかったのか?」嘲笑いながら、奏が聞いてきた。とわこは目を丸くして、彼を睨んだ。「忠告を忘れないでね。僕がどんな人間なのか君は分かるはずだ。言葉よりさらにひどい行動をとる人だ。死にたなければ、僕の逆鳞に触れるな」怒鳴るように言い聞かせて、奏は窓の外に目を向けた。「安心してよ。あなたの子供なんか産むわけないわ。あなたのことが大嫌いだ。お分かりのはずだ。今、早く離婚したいのだ」あまりの怒りに、とわこはこぶしを握り締めた。子供は彼一人のものじゃない。産んだとしても、自分一人のために産むわけだ。子供が大きくなったら、お父さんが死んだと伝える。「今はタイミングじゃない。お母さんがもうちょっと元気になってからにしよう」彼女の話を聞いて、奏は多少落ち着いた。彼女に好かれていないことにやっと気づいた。「長引くのは嫌だ」眉をひそめて、苛々した彼女が言った。長引くと、お腹が大きくなってくるのだ。そうなると、必ず病院に引っ張られて、中絶せざるを得なくなるだろう。「そんなに焦ってて、僕に何を隠してるのか?」奏は言いながら彼女を見透かすように見つめた。とわこの心臓が一瞬止まった。「ないよ。焦ることなど何もないわ。ただし…あなたと一緒にいたくないだけだ。もしかして誰かに言われたことがないの?あなたといると気が落ち込むのだ」「そう思っても、あえて口に出せないだろう」苦笑交じりに奏が言った。「そうだけど。だから私を目障りに思ったのか。でも、私は何かがあったらすぐ口に出すタイプだ。話せないと気が済まないのだ」口を歪めてとわこは言った。「自分の妻がおしゃれして他の男に付き合うなんて、誰でも許さないだろう」誤解されたと思って彼女に言い聞かせた。「吊りスカートを着るのは尻軽女?飲み会は他の男との付合いだと?それなら
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第15話

 妊婦用のカルシウムサプリメントは、年寄りのと同じものなのだ。だから、サプリメントの瓶にはカルシウムと書いてあったのだ。「自分がどんな薬を飲むのかほかの人に話すのか?」 とわこは驚いたが、言葉は落ち着いていた。言葉を残して彼女は逃げだした。部屋に戻ってから、まず引き出しにサプリメントを置いた。そして顔を洗った。このままだとだめだ。早く離れないと、いつかきっとばれる。検査記録が部屋にある。奏が来たら必ずすべてがわかる。もちろん、奏が生意気だ。しかしそこまでは狂ってない。部屋を調べるまではしないととわこは思った。それに、離婚を承諾してくれないと一方的に離婚できないのだ。何と言っても、当時高い結納金を頂いたのだ。ベッドに座りながらいろんなことを考えた。食事のことも忘れた。ドアをたたく音がした。気が付いて、早速ドアを開けた。「若奥様、若旦那様が部屋に戻りました。食事に行きましょう」三浦婆やが優しく話しかけてきた。少し気が緩んだ。この屋敷に、奏以外、みんな優しいんだ。多分、若いからみんなに可愛がってくれた。ダイニングルームに、おかずはすでに並べられている。「三浦さん、多すぎるわ。一人で食べきれない。一緒に食べて」「若奥様、お気軽に食べていいですよ。この屋敷にお決まりがあります。それを犯すわけにはいきませんから」「そうか。三浦さんにお子さんはいるの?」奏がいないから、とわこは気が楽になってきた。「いますよ。今は若奥様と同じぐらいで、大学で勉強中です。若奥様、どうして突然にこれを聞いてくるのですか?」顔がほんのり赤くなり、とわこは微笑んだ。「それは不意に妊娠してから体が太ると聞いたから。でも三浦さんはよく体型を保っているよね」「そうですよ。私は妊娠した時に食べられませんでした。出産のときでも50キロ越えませんでした。だから今でもあんまり変わっていません」「そしたら、妊娠のとき、お腹はそんなに大きくなかっただろうか?」「おっしゃった通りです。妊娠8か月の時でも、5か月のように見えました。ちょっと大きめの服を着るだけで、ほとんど妊婦とは見えませんでした」それを聞いて、とわこはヒントを得た。少し食べて終わりにした。体型を保って、お腹が悟れないようにすると決めた。「若奥様、どう
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第16話

「ね、とわこ、教えて、奏が好きな女がいるって誰から聞いたの。どんなタイプの女だ?」直美は不安そうに聞いてきた。奏の周りに他の女なんていないと、彼女はまだ確信しているのだが。「直美、さっきの話、私の感なんだ…奏の事、直美ほど分からないから」頭を横に振りながらとわこは言った。少し落ち着いてからとわこは口調を変えた。奏の事、簡単ではなかった。そして彼女は深く巻き込まれたくもなかったのだ。ちゃんと生きてて、子供を順調に産むのは何よりだ。「びっくりした。奏がほかの女と一緒にいるのを見たと思った」とわこからの説明をきいて、少し気楽になった。「奏はとわこが思うような男ではない。彼は女嫌いし、子供も嫌いんだ」「どうして奏は子供が嫌いの?」とわこは何げなく聞いた。「実は私もわからないのだ。でも、知りたくもないのさ。奏が嫌いなら、私は産まなくていいのだ。私の事大切に思ってくれたし」眉をひそめて、独り言のように直美が言った。「直美がいいというならそれでいい」とわこは彼女の考えを正すのをやめた。それなりの責任を取るのであれば、誰にでも選択の権利があるのだ。直美のやり方はとても不思議だったと思うが、常盤の子供を産むのも、馬鹿げたことに思われているかもしれない。料理が出された。お腹すいたので、とわこは箸を取り、さっさと食べ始めた。直美は心配こと重なって、食欲なくなった。「とわこ、奏のことが好きになってないよね?」「それはない」とわこははっきり答えた。「しかし、奏はそんなにすごいし、格好いいし、どうして好きにならないの?」直美は理解できなかった。「直美と奏のどっちかを選択するなら、私は直美を取るわ」彼女を見つめながらとわこは言った。これなら少なくとも殴られることはないだろう。彼女はびっくりした。「とわこ、君は…」「ただの例えだ。分かってくれよ」手を振りながらとわこは補足した。直美はすっかりと安心した。とわこのこともよい方に思ってきた。お父さんと死別して、三千院グループが破産まじかで、三千院家をとわお一人が支えているのを考えると、直美は何とか哀れな気持ちになった。「とわこ、大学まだ卒業してないのか?」「来年だ」水を飲んでからとわこは言った。「お父さんのことを聞いたわ。お父さんも死んだし、会社の借金は君と
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第17話

車が素早くそばから通って前へ進んで行った。冷たい風と共に消えた。頭を上げて、幻の夜景色を眺めると、ロールス・ロイスが尾灯を閃いた。奏の車だろうか?手で涙を拭いて、さっさと気持ちを見直し、常盤邸へ向かった。邸の前に、車が止まっていた。とわこは門の前で止まって、奏が入っていくのを待っていた。目がとても渋かった。頭を上げて夜空を眺めると、星達が眩しく輝いて、とても美しかった。きれい!明日は晴れるだろう。そのまま立って、あっという間に、1時間も立った。車はなくなった。車庫に入っただろう。客間にライトがついている。広くて静かだった。落ち着いたとわこはゆっくり客間に向かった。二階のベランダに、奏が灰色のガウンを着て、車いすに座りながら、ゴブレットを手にしていた。ゴブレットに赤い液体が底をついていた。外で1時間ぐらい立っていた彼女を、奏がベランダでずっと見ていた。何を考えていたのか?じっと立ったままで、近くの木のように見えた。幼いごろから頭のいい人をいっぱい見てきた。頭のいい人だけが彼の近くに残されるのだ。ただし、とわこは例外だった。分かったくせに、何度もわざと彼を怒らせたのだ。賢いとは言えない。本物の馬鹿女だ。しかし、悲しい彼女を見ると、知らないうちに影響されてしまうのだ。受け身的に影響されたのだ。生まれて初めて体に覚えた感覚だ。……部屋に戻って、とわこの頭が重くなった。冷たい風に当てられただろう。タンスの中から厚めの布団を取り出した。布団の中に入り込み、こんこんと寝てしまった。一晩寝汗を流して、夜風の寒気をやっと追い出した。目覚めた彼女の体がねばねばだったが、気分はよくなった。シャワーを浴びて、服を着替えて、部屋から出た。いい匂いに従ってダイニングに辿り着いた。三浦婆やはすでに朝食を用意できた。「彼は食べたの?」とわこは聞いた。「まだです。若旦那様がまだ降りてきておりません」それを聞いて、とわこは慌ててミルクを飲み、お皿からのトースト等を大口で食べ始めた。5分も足らずに朝食を終えた。「若奥様、そんなに若旦那様のことが怖がっていますか?」三浦婆やが微笑んで彼女をからかった。「そうでもないよ…見たくないだけだ。見ると落ち着かなくなるの
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第18話

「座って」彼女を一瞥してから奏が言った。「うん」彼女は向かい側のソファーに腰かけた。テーブルにパソコン1台置いてあった。スクリーンは彼女に向いてた。中には監視画面があった。よく見るとやっと分かった。彼の寝室の画面だった。監視カメラがベッドを向いていた。ベッドの上にいる彼と彼女が映られていた。画面をはっきり意識してから、とわこの頭に一瞬で血が昇ってきた。ぱっと立って画面を指さしながら、とわこが怒鳴り始めた。「奏、この変態野郎!寝室に監視カメラを設置するなんて!」むかついてたまらなかった。元々3か月の共同生活を忘れようとしたのに。この3か月、彼は植物人間だったので、男としてみてなかった。外でどんなに華やかであっても、プライベートでは、外に見せたくないものが誰にだってあるだろう。3か月間監視されたことをとわこはどうしても受けられなかったのだ。当時、彼の部屋に監視カメラがあることを誰からも聞いてなかった。彼女のむかついて震える姿を見て、奏は却って落ち着いてきた。「どうして僕がカメラをつけたと思うの?」彼だって、病気の間に部屋にカメラを付けられたことを今日初めて知ったのだ。つけたのは大奥様だった。看護師の虐待を防ぐためだと言われた。以前いくらすごかった人でも、植物人間になったら、恐れる人はいないのだ。お母さんの好意に腹を立てることはできなかった。お母さんからすべてのデータをもらってきた。一通りざっと見たのだ。見終わって、血圧も上がった。とわこがこんな女だとは予想外だった。「それを…大奥様がつけたのか?」とわこは不安そうに聞き出した。「大奥様がどうしてこんな事をしたの?少なくとも教えてくるべきよ!私…私…」胸の中に火が燃え続いた。「とわこ、目覚めるのを思わなかっただろう?病気中、僕の体を滅茶苦茶に弄んで、楽しんだかい?」奏は鋭く睨みながら、力込めて怒鳴り出した。とわこの顔が熱くなり、ソファに倒れた。「いいえ、それは遊ぶじゃない。マサージだった。筋肉萎縮症を予防するためだ」常盤家に嫁いでから、看護師が奏にマサージするのを何回か見て、彼女は看護師の仕事を引き継いだ。毎晩、看護師が奏にマサージをしていたとき、彼女は部屋にいるのは気まずいと思ったのだ。理屈をもって
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第19話

翌日、日曜日、10時半に起きた。これは常盤家での初めての朝寝坊だった。部屋から出たとき、客間に男たちがいた。みんなこっちを振り向いてきた。大き目のナイトドレス、肩に垂れているみだれ髪、白くてきれい顔。お客さんが来るとは思わなかった。彼も、お客さんも、彼女を真剣に見つめた。おそらく彼女の出現を予想できなかった。とわこはドキッとした。気まずい立場にいると気づいて、体の向きを変え、部屋へ戻ろうとした。そんな時、三浦婆やがやってきて、彼女の手を取ってダイニングに向かった。「若奥様、お早うございます。お腹すいたでしょう?部屋に伺いましたよ。ぐっすり寝ていたので、起こしませんでした」「お早う。あの人達…誰?」どもりどもりと三浦婆やに聞き出した。「若旦那様の友達です。見舞に来ました。怖かったら、挨拶しなくてもいいですよ」「わかった」奏に挨拶してないのに、彼の友達へはなおさらだ。もし、事前にお客さんが来ると分ったら、とっくに起きて、一日中外で遊びに行くわ。客間に。奏の友達は皆とわこのことに大きく興味を持っていたようだ。「奏、さきの若い女の子、どうしてお宅に泊まったの?お手伝いさんか?それとも…」「みんな大人だし、奏も男だ。家に若い女がいるのは当たり前のことじゃないか。あははは」奏から返事なかったので、みんなが状況をわきまえ、その話を続けなかった。「みんな、三千院グループのお嬢さん、三千院とわこご存じか?あの三千院太郎の娘…」「知ってるよ。金曜日の夜に電話をもらったの。融資を頼まれた。話を聞くもんか?とっとと電話を切ったの」「このとわこはなかなか面白いやつだ。お父さんの借金に関係ないだろう。しかし、これを分かったのに、自分で返済しようと動き出すのは、頭が壊れたのかも?」「今の若者は考えが甘すぎる。あの会社の新製品、私はとっくに調べた。絶対無理だ。無人運転システム、すごそうに聞こえるが、しかし、道路の状況は複雑で把握しがたいのだ。こんなプロジェクトに投資するなんて、馬鹿に違いない!」……ダイニングで食事をしているとわこは、彼らの話を聞いて、万感こもごも至るほど、複雑な気持ちになった。食事を済まして、パソコンを持ち出し、近くにある喫茶店で卒論を書くことにした。今の彼女はあまり余裕がない
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第20話

そう思うと、彼女は首を絞められるように苦しくなった。息が苦しくて呼吸すらできなくなった彼女は目がくらんで頭がふらふらした。奏がZって、ありえないだろう。Zから1億円をもらった。しかも三千院グループへ投資もするかも。奏はそう優しくしてくれるはずがない。もし、奏がZじゃなかったら、どうしてここにいるのか?でも、車椅子、紺色のシャツ、白い肌、全てが一つの真実に辿り着くのだ。それは目の前の人が奏だ。ほかの誰でもない。彼女はびっくりしてはっと息を飲んだ。何げなく後退りをした。しかし、ドアはいつの間にか閉められた。「挨拶もなく帰るのか?」慌てて逃げようとした彼女を見つめながら、奏は聞き出した。「こんなところに何をしに来たの?」耳元の髪を上へ引き上げて、落ち着こうとした。「私…クラスメートと約束して食事に来たの」「ここは飲み屋だ」「そうか…」とわこは部屋中をじろじろ見た。とても大きな個室で、内装も上品だった。しかし、彼女にとってここは地獄のようだ。一刻も早く出て行きたいのだ。「私…場所間違ったようだ。それじゃ、私は帰る」「とわこ、今朝僕の話を忘れたのか?」奏の怒鳴り声に寒気を感じた。「覚えているよ。でも、あなたの話を従うつもりはなかった」この前の件、今でも歴然と目に浮かんでいる。お酒の付合いしてないのに、おしゃれをして風俗嬢みたいにほかの男と遊んでいたと断言された。彼女の回答に困った奏が眉をひそめた。彼女がほかの女と違うのは分かっている。自分なりの考えがあり、権力にもおびえない。一番酷いのは、いくら忠告しても、まったく気にしないのだ。つまり彼のことを気にしていないのだ。ゴブレットを持ち上げて、奏はワインを一口飲んだ。深い息を吸ってから、とわこは試しに聞き出した。「奏、どうしてここに?家元で食事するのじゃないかしら?」元々聞きたいのは、ここはZが予約した部屋だ。どうしてあなたがここにいるのか?もしかして、奏、あなたがZなの?でも、そうは行かない。彼の回答に全く見当つかないのだ。もし彼がZだったら、これから仕事の話をどうやって進めていくの?Zじゃなかったら、今朝嘘ついたことをどうやって説明するの?「来い、お酒付き合え」彼女を睨みながら奏は命令した。とわこは眉をひそめた。
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