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第20話

とわこがそう思うと、まるで誰かに首を絞められたかのように感じた。

激しいめまいと窒息感が押し寄せ、彼女は目が回りそうになった。

奏がZだなんて、ありえない。

Zが1億円を頭金としてとわこに送金した、しかも三千院グループを投資するつもりだった。奏はこんないいことをするはずがない。

もし、奏がZじゃなかったら、彼はどうしてここにいるの?

でも、車椅子、紺色のシャツと白い肌、全てが一つの真実に告げていた。目の前の人が確かに奏本人だった。ほかの誰でもない。

彼女はびっくりしてはっと息を飲んだ。何げなく後退りをした。

しかし、ドアはいつの間にか閉められた。

「挨拶もなしに帰るのか?」慌てて逃げようとした彼女を見つめながら、奏は聞き出した。「こんなところに何をしに来た?」

とわこは耳元の髪を上へ引き上げて、落ち着こうとした。「私…クラスメートと約束して食事に来たの」

「ここはバーだぞ」

「そうか…」とわこは部屋中をじろじろ見た。とても大きな個室で、内装も上品だった。しかし、彼女にとってここは地獄のようで、一刻も早く出て行きたかった。「私…場所間違ったのかな。クラスメイトを探しに行くよ」

「とわこ、今朝僕の話を忘れたのか?」奏の怒鳴り声に寒気を感じた。

「覚えているよ。でも、どうして私は奏の言うことを聞かなきゃならないの」

この前の件、今でも歴然と目に浮かんでいる。

酒の相手をしなかったのに、着飾った風俗嬢みたいに、ほかの男と遊んでいたと断言された。

彼女の回答に困った奏が眉をひそめた。

彼女がほかの女と違うのは分かっている。自分なりの考えがあり、権力にも怯えない。一番重要なのは、いくら警告しても、まったく気にしなかった点だ。

つまり彼のことを気にしていないのだ。

ゴブレットを持ち上げて、奏はワインを一口飲んだ。

深い息を吸ってから、とわこは試しに聞き出した。「奏、どうしてここに?本邸で食事するのじゃなかったの?」

元々聞きたいのは、ここはZさんが予約した部屋で、どうしてあなたがここにいるのか?

もしかして、奏、あなたがZなの?

でも、彼女はそんな勇気はなかった。

彼が答えるのを恐れていた。

もし彼がZだったら、これから仕事の話はどう進めばいいの?

Zじゃなかったら、今朝嘘ついたことをどうやって説明するの?

「来い、酒を付き合え」彼女を睨みながら奏は命令した。

とわこは眉をひそめた。

どういう意味?

「酒は飲めないって話したはずだよ。自分で何とかして、私は帰るから」奏をいくら見つめても、彼の心を理解できなかった。

ドアを開けようとしたが、外から閉じられたようだ。

いくら力を入れても開けられなかった。

「どういうことなの?行かせてよ」熱くなった彼女は怒鳴り出した。

「付き合えと言っただろう。分からないのか。それとも分からないふりをしているのか?」奏の目から冷たい光を光らせた。ただの脅しじゃなかった。

冷や汗をかいた彼女は両足が震えてきた。

もし酒が飲めるのなら、無理をして付き合うかもしれないが。

しかし、今はだめだ。

首絞められてもだめだ。

ドアが閉じられて、出られない。

彼の方へ行くしかない。

和解しようと考えた。

「嘘をついたの」彼の近くに行き、瞼を垂れて説明をしてみた。「用事があるの。しかし大学のことじゃない。先週、ある人と約束して、今晩、ここで父の会社への投資の話をするの」

「誰と?」奏が彼女の真っ赤の顔をまっすぐ見つめながら聞いた。

「名前は知らない」

「名前も知らないのに、どうして来た?」

「田中と一緒に来る予定だった」

「田中は?」

「渋滞でもうすぐ来るはず」深く息を吸いながら、涙ぐんだ瞳で彼を見つめた。「奏、私はもう子供じゃないの。あなたの妻だとしても、プライベートというものがあるの。あなたにとやかく言われる筋合いはないわ」

彼女が話す間に、奏はまた一口飲んだ。

喉ぼとけの動きがセクシーだった。

このまま飲み続けると、酔ってしまうかも。

酔ってしまったら、どうやって帰るのか。

気が落ち着かなくいろいろ考えていたところ、ふと手首を大きな手で捕まえられた。

痛いと気づいたとき、体はすでに彼の方に引きずられた。

重心を失い、ソファーに倒れた。ソファーが柔らかいが、彼女はむかついた。

彼女を何だと思っていたのか。

玩具でも思われたのか。

自分の考えに従って行動するのは、何が悪い

唇をかみしめながら、とわこはソファーから立ち上がろうとした。

和解するつもりがないなら、もう遠慮する必要はない。

立とうとしたときに、目前に突然大きな影が現れた。部屋中の光が隔てられ、彼女は暗闇に落ちたようだ。

奏は立った!

車椅子から…立った!

ぽかんとして彼を見つめて、とわこの頭が空っぽになった。

怒りも、立つのも、これから何をしようとも、全て忘れた。

唇が動いたが、何の言葉も出なかった。

次の瞬間、奏の体が上から被ってきて、彼女を下に抑えた。

「女をこんなところに連れてくるのは、必ず酒を飲ませる気だ。酒を飲めないなら、何しに来たのかな?」細長い指で彼女の顎をしっかりと捕まった。

赤い唇がしかたなく少し開いた。

余った手でゴブレットを取り、ゆっくりと揺らした。

彼女は恐怖に襲われた。

涙が目じりから零し、抵抗しようとしても、抑えられてちっとも動けなかった。

「とわこ、知らない男の誘いにも応じるのか。痛みがないと、懲りないみたいだな」奏は無理やり酒を彼女に呑ませた。

両手で彼の腕を押しのけようとしたが、全然だめだ。

退院したばかりなのに、奏は力強かった。

頭の中に彼の車椅子から立つ画面が浮かんできた。

見かけよりもっと高かったし、怖かったのだ。

赤い液体が口に流れて込んだ。呑み込もうとしなかったが、渋い味に刺激されて不意に咳が出始めた。

溺死するかと思った。

人は絶望した時、本能的に助けを求める行動を取るものだ。

とわこは慌てて、彼の襟元を掴んだ。

力入れすぎたので、シャツのボタンも抜けた。

ぽんと、ボタンは床に落ちていた。

彼の胸は冷たかった。

彼女の赤くなった苦しい顔を見て、奏の心はもやもやして、挫けそうになった。

彼女の顎から手を放した。

とわこは頭を背けて、口中のワインを吐き出した。

「奏、あんたなんか大嫌い!」涙ぐんだとわこはこぶしを握り締めて叫んだ。

「このくらいのワインで、もうダメなのか?」目にあった彼女への同情が消えた奏は、細長い指を彼女の襟元に伸ばして、シャツのボタンをはずした。白い鎖骨が際立った。「僕じゃなかったら、別の男に同じことをされたぞ。とわこ、これは嘘をついたお前への罰だ」

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