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第23話

奏は嫌そうな顔して彼女の手を振り払って、声が冷たくなった。「とわこ、生きてもらうだけ、君への最大の恩恵だ。これから口を閉じて、二度と俺を怒らせないでくれ」

彼の情けない顔を見て、とわこはすべての苦痛を飲み込むことにした。

今、何を言っても、何をしても、彼の意志を変えられないのだ。

座席に縮みながら、とわこは悲しく車窓の外に目を向けた。

病院。

車が止まった。とわこは車から用心棒に無理やり引きずられて、産婦人科へ向いた。

奏は車の中に座ったまま、タバコに火を点けた。

連れ去られた時、とわこの彼を睨む目、そしてこぼれた涙、何げなく、奏の頭の中に浮かんでいた。

彼女を心配することは絶対ない。

彼を裏切ったものは、今まで一人も許されていなかった。

とわこは手術室へ運べられた。ドアがゆっくりと閉まった。

30分後、手術室のドアが開いた。

お医者さんが出てきて、用心棒に話を告げた。「手術終わったが、妊婦は手術室に1時間留置観察する必要がある」

手術は終わった。用心棒の役目も完成。

用心棒は大股で出て行った。お医者さんは手術室へ戻った。

電話で聞いて、井上はすぐ病院にやってきた。とわこはベンチに座り、二つの目が真っ赤だった。

「お母さん、悲ししいよ…」

井上は彼女の背中を撫でながら言い聞かせた。「とわこ、もう泣かないで。帰ろう。彼に本当のことを知らせたら、きっと後悔するわ」

「しない。お母さん、あの人は絶対後悔しない」とわこは手を引き上げて目じりの涙を拭いた。「あの人の心は石よりも硬いのだ」

とわこを支えて、井上はとわこと二人で病院から出た。

道端でタクシーを拾った。

彼女たちを見送ってから、奏は病院から離れた。

常盤邸にて。

弥は邸にやって来た。奏から用があり、面談に来いと言われた。

常盤邸に着いたが、奏を見かけなかった。

「おじさんに何の御用かな?屋敷に来いと言われたのだが」お茶を飲みながら、三浦婆やに聞いてみた。

三浦婆やは恐ろし気に頭を横に振った。「私は知りません。聞かないでください」

とわこが連れ去られた時、三浦婆やはコーナでずっと見ていた。何も言えず、何もできずにいた。

とわこが妊娠したって信じられなかった。それに奏に無理強いされて妊娠中絶するなんて、三浦婆やはなおさら理解できなかった。

夕べ、二人は一緒に寝た
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