「昔の知り合いが孫の面倒を見る人を探していた…お給料が悪くない。仕事なら何でもよいかと思って、やってみたのだ。今日は3日目で、いい感じだった。月20万円もらえるの」「お父さんが死んで、資産一つも君に残せなかった。私だって君に迷惑かけていけないと思ったのだ」井上が補足説明した。とわこの涙はぽつりぽつりと落ちた。「昔の知り合いはお金持ちでしょうか?」元々掠れた声が泣いたことでさらにひどくなった。「知り合いの家にお手伝いさんをするのは…きっとつらかったでしょう」「平気だ。今はお金を稼げるなら、それで満足するわ。面子なんてもう気にしない。しかも、金持ちはずっと金持ちで居られないし、貧乏人もずっと貧乏じゃないから。今は知り合いの方が金持ちだが、将来にとわこが儲かるかもしれないのよ」井上がティッシュを数枚とって、とわこの涙を拭いた。「お母さん…仕事しなくてもいいですよ。私はバイトをして…来年卒業して仕事見つけるから…」とわこの涙は止まらなかった。「今は妊娠しているだろう。仕事は無理だ。とわこ、本当に子どもを産みたいなら、今のままではいけないの」井上が心配してて、どうも理解できない。「奏はなぜ子供が欲しくないのか?これは彼の肉親だろう!」「彼は好きな女がいますよ」「そうか。それじゃ、どうしてあの女と結婚しなかったの?」むかついた井上が娘を心配していた。「それは知らないです」「大丈夫だ。とわこ、心配しないで。とりあえず内緒で子供を産めばいいだろう。彼に知らせなければいいじゃ」とわこを抱いて、肩を軽く叩いた。……三日後。弥から電話があった。とわこと会って話したい。とわこは少し考えて、承諾した。きっと子供のことだ。喫茶店。とわこは弥の顔をじっと見た。顔にはバンドエイドが何枚もあったが、ところどころにあざが現れていた。「見ないでよ。おじさんにやられたの。あんたが僕の子供とか言わなかったら、こんなことはなかったはずだ」弥は悔しかった。でもどう仕様もなかった。「これは君への償いにする。当時、あんたは駆け落ちしようと言ったけど、僕にはその勇気がなかったの」「弥、問題は駆け落ちじゃない。はるかとのこと、私が言わないと、一生騙すおつもり?」とわこはコップを持ち上げて、軽く一口飲んだ。「いつ分かったの?」
殺す?とわこは眉をひそめた。もちろん奏を憎んだが、殺すなど考えたことはなかった。たとえお腹の子供がおろされても、こんなことは絶対しない。それに、本当に殺せるのか?「おじさんは出張した。とわちゃん、よく考えてくれ。奏を殺せば、すぐ君と結婚してやる。ほしいものを全部あげる。すでに両親に私たちのことを話した。応援してくれるってさ」ためらったとわこをみて、弥が言った。弥の目には嘘を見えなかった。昔、付き合った時に、彼の両親に認めてもらいたかった。しかし、ずっと二人の関係を公開されなかった。今、もう他の誰かに認めてもらう必要はない。「失敗したらどうする?」とわこは聞き返した。「ばれたら、私は生きられるの?弥、昔のあなたも男らしくなかった。今も同じよ。殺したいなら、自分でやれ。失敗を恐れるなら、法を犯す行動をとるな」断られると思わなかった。弥は一瞬呆れた。「失敗などあり得ぬ。毒を食わせよう。君は彼を毒死させればいい。あとは任せてくれ。何の問題も起こらない。お婆さんは悲しくて倒れるだろう。今後一切、父が責任を取ってくれる…」「万事安全なら、自分でやれよ!奏は必ず週一回家元に戻る。その時に隙間を見て毒を飲ませたらいいじゃないか」とわこはアドバイスした。弥は黙っていた。「弥、まだ殴られたいのか?」とわこは彼を見つめて、容赦なく言い出した。「あなたの実のおじさんだろう?肉親を殺せるの?」「あははは、とわちゃん、僕は彼をおじさん扱いをしているが、彼は僕を甥扱いしてくれないのだ」「弥は奏が病気の間、弁護士先生を買収しただろう。結局失脚してばれた。その後、彼は貴方のことを信用しなくなったじゃないか?」とわこは言い続けた。「私は彼の情けなさを憎んでるが、理性を失っていない」とわこは立ち上がって、離れることにした。「とわちゃん、行かないで。食事でもしようよ。仲間になってくれなくてかまわない」弥は切に頼んだ。「今、我が家とおじさんとの関係はもう仲直りできない。僕が手を出さなくても、彼は必ず僕を潰しに来る」とわこは弥の話に何かの企みがあるような気がした。「おじさんを毒死させるつもり?」とわこは再び座った。「手助けしてくれないなら、毒死じゃなく、別の容易にばれないやり方を考える」弥は答えた。「いつ実行するつもり
「おろされたのが自分の子供じゃないから、無関係だと思っているだろう」お医者さんは興奮してるとわこを見て、事態が厳しくなったと判断して、口調を変えた。「ごめんなさい。言葉使い不備でした。ちょっと水でも飲んで待ってください。すぐ聞いてきます」彼女に水を入れてから、お医者さんは上司へ報告に行った。30分ぐらい立ってから、お医者さんは戻ってきた。「三千院さん、三木直美ご存じでしょうか?調べに来たのは彼女です」回答を得て、とわこは病院を離れた。直美に目ざわりと思われたのは予想外だった。しかし、このままやられるわけにはいかない。必ず直美にこの痛みを知ってもらう。三千院グループ。とわこは父のオフィスに入った。田中が待っていた。「お早うとわこ、二つの件についてご相談したいの」お茶を入れてから田中が言い出した。「渡辺さんが投資をやめ、200億円での買収を提案してきたの」田中の暗い顔を見て、とわこは聞いた。「この価格は低いでしょうか?」「前なら、200億円では、とっても不可能だが、でも、今は渡辺さんの提示価格が一番高かったのだ」田中は続いた。「問題は価格じゃなくて、買収されてから、わが社のメイン事業が破棄されるのだ。渡辺さんは無人運転システムが未来見えないと言って…」「それなのに、どうして買収するのですか?」とわこは不思議と思った。「彼はうちが開発したスーパーブレーンシステムに興味を持っているのだ。すなわち、今言うAIシステムだ。これがあれば、運転手もいらなくなるのだ。それと同時に、別の領域にも応用される。例えばロボット、ドロンなど…」「このシステムはそんなに売れますか?」とわこはまだ理解できなかった。田中は苦笑した。「社長が開発に投入したお金は200億円をはるかに超えていたのだ。この会社を君に渡すのに、借金を背負ってもらうことはないはずだ。とわこの手で、この三千院グループをさらなる輝く未来作り出すことを社長が望んでいただろう」とわこの目は少し暗くなった。自分はその才能がないと思った。「もう一つ、お父さんから聞いたと思うが、システムはすでに開発完了だった。しかし、お父さんが倒れてからすべて停止した。肝心なものはお父さんが持っている。それがないと、前には進められないのだ」田中は本棚の前に行って、あるボ
「…パスワードなど知りませんが。父は往生際に教えてくれませんでした」頭を横に振りながらとわこは言った。それは嘘じゃない。お父さんは最期の時、確かに会社のことを口にしなかった。パスワードの遺言などなおさらだ。当時、部屋にはたくさんの人がいた。言ったとしたら、彼女のほかに、みんなが分かってしまうだろう。「おじさん、この件、持ち帰って母に聞いてみます」とわこは田中に言った。「父と最後に会った時、あまり話してくれませんでした。母は多分私より知っている事が多いと思います」「はい分った。この件まず口外しないで、わが社のトップクラスの秘密だ。社長がじきじき任命した後継者だから教えたの」田中は親し気にとわこに言い聞かせた。金庫を眺めながらとわこはだんだんわかってきた。彼らは金庫を開けられないから、仕方なく彼女にこの秘密を明かしたのだ。もし金庫を開けたら、きっとそのまま金庫のものを私物にして、この件をなかったことにするだろう。「分かりました。絶対に口外しません。おじさん、ほかに誰が知っていますか?」聞きながら、とわこはドアへ向かった。田中は後ろについていた。「ほかには2名の技術者が知っている。彼らは社長に信頼された人たちだ。会社にも長かったのだ。お金をもらったら、私たち均等に分けよう。どうだい?」田中は説明していた。とわこは頷いた。「まずパスワードを探してみます」「よっしゃー!。実はとわこさん、私も続けたいが、会社と私たちのチームを買ってくれる人がいないのだ。みんながこのシステムだけほしいの。いつか私たちが必ず排除されるだろう。いろいろ考えた挙句、こう決めたのだ」「分かりました。おじさん、もしパスワードを見つけなかったらどうしますか?」田中を見つめながらとわこは言った。彼女は本気で心配していた。パスワードについて全く見当つかなかったのだ。田中は眉をひそめた。「君に会社を預けた社長は必ず何かのヒントを残している。戻ってゆっくり考えて探してね」「うん」会社を出て、とわこはタクシーを拾ってお母さんの所に行った。井上は料理の準備をしていた。「とわこ、弥は何用だったの?すでに分かれたじゃないか?」水を飲んでからとわこは回答した。「奏に殴られました。復讐しようと思って、私に奏を殺せって頼んできました」井上
手でとわこの肩を撫でながら井上が言った。「お父さんだから、とわこを害することはないだろう。昔お父さんと知り合ったころ、会社を興したばかりだった。結婚の時に結納金どころか、かえってお金を援助したの。とわこに損害を与えることがあったら、鬼になっても許せないわ」……月曜日。タクシーで常盤グループに向かった。常盤グループへは初めてだ。会社ビルはそびえたって、とても立派だった。タクシーから降りて、直接ロビーに向かった。「あの、すみません、ご予約はありますか?」受付から聞かれた。「ないですが、三千院とわこと申します。三木直美に連絡していただけないでしょうか」身なりの整えたとわこをみて、受付が広報部へ電話した。しばらくして、直美が降りてきた。エレベータを出た三木直美は傲慢そうに歩いてきて、ちらっととわこを見下ろした。「中絶手術が終わったばかりじゃないか?休まなくて大丈夫なの?」とわこを揶揄った。軽い化粧をしたとわこの顔色が悪くなかった。「直美、いろんな工夫をしてここまでやって、奏にお嫁さんにしてもらえるのか?」直美は怒らなかった。かえって勝利を勝ち取ったような笑顔をした。「私と結婚しなくても、君のそばにいるはずはもうないだろう。とわこ、子供を降ろすだけで済ますのは君への最大の恩恵だ。私なら、君を殺したかもしれない」「そうか、君は悪いことをいっぱいしたのか」「私を怒らせるおつもりか?今の君はまるでピエロだ」唇をまげて、直美は冷たそうに言いだした。「君の負けだよ」それを聞いて平気だったとわこは話題を変えた。「直美、奏の前でティアードスカート履いたことあるの?」話を聞いて直美は眉をうわ寄せた。「君は馬鹿だね。私は子供みたいにティアードスカートなど履かないよ。どうして聞くの?」「君が奏に嫌われる原因やっとわかった」口元をうわ寄せ、彼女の耳に近づいてとわこは言った。「奏はかわいいタイプの女が好きなの。それにティアードスカートを履く女を見るのが好きだ」冗談を聞いたみたいに直美はあざ笑った。「私は奏と寝たよ。君はまだだね。彼は女のティアードスカート姿が好きだ。それに姫カットの髪型も好みなの。そう、スカートの色はピンクが一番だ。もし君がこんな格好をしたら、奏は君のことが好きになるかもしれない」とわこは続けて言った
金曜日午後。とわこは三浦婆やから電話をもらった。「若奥様、若旦那様が今夜おかえりですが、戻っていただけないでしょうか?」先日の病院以来、とわこはずっと母の所にいた。「はい、分かった。彼と結末をつけなければならないし」電話を切って、とわこは常盤邸へ向かった。夕方7時。奏のフライトが空港に着いた。用心棒に囲まれて、黒いロールスロイスに乗った。着席して頭を上げると、座席に座っている直美に初めて気づいた。「奏、私の髪型はどう?」直美はピンクのティアードスカートを履いた。手で耳側の髪をかき上げて、色っぽく奏に微笑んだ。車に座って待ったのは、奏にサプライズさせるつもりだった。奥深い目つきで彼女をちらっと見た次の瞬間、彼の表情が歪んでしまった。奏は全身の筋肉が固まったようになり、顔色も変わった。車内は低気圧になった。彼の気分変化を見て、直美は不安し始めた。「奏、どうしたの?私の髪型が見にくいの?それともこのティアードスカートが見にくいのか…」緊張した直美は、声も霞んだ。「パチン」と大きな音がして、顔にびんたを食らわせた。直美の体が飛んでリアドアにぶつかった。「ハサミ!」奏はこぶしを握り締めて、言葉を吐き出した。用心棒が命令を受け、すぐハサミを買いに行った。直美は体を座席に縮み、手で赤くなった顔を包んだ。口元から生臭い血が流れ出た。びっくりした彼女はぼんやりとした。完全に呆れた。奏のそばに10年もいたが、こんなに怒ったのは初めて見た。とわこ!全てとわこの企みだ。「奏、話を聞いて頂戴。このスカート、この髪型、全てとわこに教わったの。彼女は奏を怒らせようとしてる。私じゃないの」奏の腕を掴め、直美は泣きながら説明した。用心棒がハサミを買ってきた。「彼女の髪を切って!スカートも!」直美の体は震えた。目の底にある僅かの光も消えた。この髪型とティアードスカートは一体何なんだ!どうして奏を怒らせたのか?彼女は分からなかった。どうしてとわこは分かったの?用心棒が直美を車から引きずり出して、ドアを閉めた。「出せ」奏が言った。……夕食終わって、とわこはずっと客間で待った。すでに荷物をまとめておいた。奏が帰って来たら離婚のことを交渉するつもりだった。夜8
「明後日は週末だから、来週月曜日に離婚しよう!」三千院とわこが続けた。彼女の焦り様を見ながら、彼はゆっくりとたばこを取り出して火を付けた。三千院とわこは眉をひそめ、彼が何を考えているのかわからなかった。もしかして、彼は離婚するつもりがないのでは?もし彼が本当に離婚したいなら、こんなに無関心な態度を取ることは絶対にないはずだ。彼を離婚に追い込むために、彼女は深呼吸をして言った。「私が浮気をしても、あなたは我慢できるの?もし私があなたなら、一生こんな人に会いたくないと思うはずよ。離婚しなければ、あなたには永遠に裏切られた証が残るわ!」常盤奏は淡々と煙を吐き出し、深い目で彼女を見つめ、彼女の演技を楽しんでいるかのように眺めた。「三木直美に会ったわよね?きっと怒っているでしょ?そうよ、それでいいの。全部私が彼女に指示したことよ!あなたを怒らせるためにね」三千院とわこはさらに火に油を注ぐように言った。話を聞いていた使用人の三浦は心臓が締め付けられるようだった。三千院とわこはなぜ自滅しようとしているか?堕胎のショックで頭がおかしくなったのか?もし彼女がこのまま自滅しようと続けるなら、常盤奏が本当に彼女を殺すのではと心配になる。そう考え、使用人の三浦は我慢できずに歩み寄った。「旦那様、奥様の言っていることは本心じゃないんです……彼女はとても悲しんでいるから、こんなことを言ってしまったんです……彼女は嫁いでから、ずっと家にいたんです。私が保証します。彼女は結婚後、一度も常盤弥(ひさし)と不倫なんてしていませんよ」三千院とわこは顔を赤らめ、「三浦さん、もう休んでください!これは私たちの問題です。心配しないでください」「旦那様を怒らせないでください!怒らせるといいことはありません!奥様、私の言うことを聞いて、旦那様にしっかり謝ってください……もしかしたら、彼があなたを許してくれるかもしれませんよ」使用人の三浦は言った。三千院とわこは「彼に許してもらいたくない、ただ離婚したいだけ」と言った。常盤奏は鋭い鷹のような目で、三千院とわこのやせ細った背中を見つめた。彼女は本当は何か策略を練っているのか、それとも本当に自分と離婚したいのか?考え通した後、彼は後者の可能性が高いと判断した。三千院とわこと常盤弥(ひさし)の
週末。とわこと田中は会社で会うことを約束していた。「とわこ、早く金庫を開けなければならない。渡辺裕之からずっと返事を催促されているんだ。今は事実も言えないし、嘘もつけない……手元に何もないと自信が持てないよ!」とわこは頷いた。「昨晩、いくつかの数字を書き出してみた。父が設定したパスワードにはその中の数字を使っていると思うんだけど、どう組み合わせたかが問題ね」田中は彼女から紙を受け取り、数字を一瞥して頷いた。「じゃあ、今試してみよう」二人は隠しスペースに入り、金庫の前に立って一つ一つの組み合わせを試し始めた。しかし、すべてが思ったようにうまくいかなかった。何度も失敗した後、とわこは眉をひそめてため息をついた。「三千院すみれは知っているんじゃないかな?」彼女は言った。「家の玄関のパスワードも父と三千院すみれの誕生日の組み合わせだし、父が病気になる前は三千院すみれによくしていた」田中は首を振った。「もし三千院すみれが新しいシステムがこんなに価値があると知っていたら、物を持ち出してから去るに決まっている」とわこは考えを変えるしかなかった。「この金庫の中の物がもうすでに持ち出された可能性は?」田中は驚愕した顔で言った。「それはありえない!ここには専用の監視カメラがあり、毎日チェックしているんだ。我々以外には誰も入っていない」とわこは「ああ……」と言ってから、「パスワードがなければ、この金庫は本当に開けられないの?紙に書かれている数字以外のパスワードは本当に思いつかない」と言った。田中は苦い顔をして部屋の中を歩き回り、しばらくして言った。「金庫を開けられないわけではないが、パスワードがなければ破壊するしかない。金庫を破壊すると、中の物も壊れる可能性がある。リスクは大きい」とわこは何も答えなかった。田中は「もう少し考えてみるよ。どうしても開けられなければ、金庫を壊すしかない」と言った。とわこは考え込んだ。「うん」「とわこ、君は常盤奏と知り合いか?」と田中は疑いの目で尋ねた。とわこは即座に首を振った。「知らないです。もし私が彼を知っていたら、もうとっくにお金を借りに行ってますよ」「ああ……友達が昨日、君が高級住宅地に入っていくのを見たって」とわこの頬は一瞬で赤くなった。「ええ……昨日は確かに高級住宅