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第15話

 妊婦用のカルシウムサプリメントは、年寄りのと同じものなのだ。

だから、サプリメントの瓶にはカルシウムと書いてあったのだ。

「自分がどんな薬を飲むのかほかの人に話すのか?」 とわこは驚いたが、言葉は落ち着いていた。

言葉を残して彼女は逃げだした。

部屋に戻ってから、まず引き出しにサプリメントを置いた。そして顔を洗った。

このままだとだめだ。早く離れないと、いつかきっとばれる。

検査記録が部屋にある。奏が来たら必ずすべてがわかる。

もちろん、奏が生意気だ。しかしそこまでは狂ってない。部屋を調べるまではしないととわこは思った。

それに、離婚を承諾してくれないと一方的に離婚できないのだ。

何と言っても、当時高い結納金を頂いたのだ。

ベッドに座りながらいろんなことを考えた。食事のことも忘れた。

ドアをたたく音がした。

気が付いて、早速ドアを開けた。

「若奥様、若旦那様が部屋に戻りました。食事に行きましょう」三浦婆やが優しく話しかけてきた。

少し気が緩んだ。この屋敷に、奏以外、みんな優しいんだ。

多分、若いからみんなに可愛がってくれた。

ダイニングルームに、おかずはすでに並べられている。

「三浦さん、多すぎるわ。一人で食べきれない。一緒に食べて」

「若奥様、お気軽に食べていいですよ。この屋敷にお決まりがあります。それを犯すわけにはいきませんから」

「そうか。三浦さんにお子さんはいるの?」奏がいないから、とわこは気が楽になってきた。

「いますよ。今は若奥様と同じぐらいで、大学で勉強中です。若奥様、どうして突然にこれを聞いてくるのですか?」

顔がほんのり赤くなり、とわこは微笑んだ。「それは不意に妊娠してから体が太ると聞いたから。でも三浦さんはよく体型を保っているよね」

「そうですよ。私は妊娠した時に食べられませんでした。出産のときでも50キロ越えませんでした。だから今でもあんまり変わっていません」

「そしたら、妊娠のとき、お腹はそんなに大きくなかっただろうか?」

「おっしゃった通りです。妊娠8か月の時でも、5か月のように見えました。ちょっと大きめの服を着るだけで、ほとんど妊婦とは見えませんでした」

それを聞いて、とわこはヒントを得た。

少し食べて終わりにした。

体型を保って、お腹が悟れないようにすると決めた。

「若奥様、どうして食べないのですか?」普段よりあまり少ないから、三浦婆やが不思議に思って聞いた。

「お腹がすいてない。今後、夕食には、私の分を少なめにして頂戴。太るのは心配だ」

「若奥様はちっとも太ってないですよ」

「あんまり運動好きじゃないから、食事を控えるしかないの」

ダイニングルームを出て、自分の部屋へ戻って、この前の検査記録を取り出した。

次の検査は3か月の時だ。その時に母子手帳を作成するのだ。

記録には書いた検査日はちょうど明日なのだ。

ベッドに横になり、お腹に手を当ててみたが、赤ちゃんの存在を感知できなかった。

妊娠後に吐き気は酷くないが、食欲は確かに以前よりかなり減った。

この間少し瘦せた。食べてないときに、お腹はなおさら小さくなった。

……

翌日、早起きして病院を訪れた。

検査項目が多いため、気づかないうちに昼の12時になった。

一部の検査結果が午後2時ごろに出るので、彼女は病院近くのレストランを探して昼飯を食べようと思った。

病院を出たとき、ふいに誰かに背中を叩かれた。

振り替えて見ると、なじみの少ないかわいい顔だった。

「本当に君か。お病気かい?」白いワンピースに小さい黒いスーツを着たのは三木直美だった。きれいな顔に薄く化粧されて、長い髪の毛は後ろに束され、さっぱりした感じの女だった。

あまりにお付き合いしたくない相手だから、「一般検査だけ」と答えた。

直美は彼女を逃したくないみたいだった。

「とわこ、昼食はまだか?おごるから一緒に行こう。この前は本当に私が悪かった。ごめん」

「別に怒ってない」

「そうか…ちょっとお話したいの。別に悪気はないわ」直美は何もなかったように話かけてきた。

お誘いを断るにはとても悪いと思った。

彼女との昼飯をとわこは承諾した。

検査のため朝食をとってないから、ずっと空腹のままだった。

今はお腹がすいてて目がちかちかして、足も力を抜いてしまった。

近くにレストランがあって、二人は入って座った。

とわこは簡単な野菜料理を二つ注文した。

直美は野菜サラダだけ頼んだ。

「昼食では主食を食べないの。体型維持のためなの」驚いたとわこを見て直美は説明した。「奏とのことを教えて。大奥様がとわこ大好きと聞いたの。だからあなた達の離婚を認めないの。これは難問だな」

水を飲んでから、とわこは言った。「当時、大奥様がお嫁を探すとき、直美はどうして名乗り出さなかったの」

「ちょうど外国旅行中だったので、知らなかった。帰国したときにすでに結婚したのだ」

「そうか、あいにくね」

「私を疑っているの?とわこ、私は奏大好きだ。彼が子供嫌いと知って、私は子宮を手術で取り外したの。とわこはできるの?」

彼女の言葉に脅かされて、とわこは一瞬気を失った。

「私はもう女じゃない。子供を産むことができない。でも後悔してない。奏のため、何でもするわ」顎を上げて自慢そうに直美は語った。

すごい!特別だ!彼女は誰かに褒められるのを待っていたようだ。

「奏は変人だ。君もだ。彼は狂ったときに他の人を傷つける。君は狂ったら自分を傷つける。こんな変人のために自分を傷つけるなんて、君は馬鹿だ」とわこは我慢できなくて素直に言い出した。

顔色が変わり、直美の表情は冷たくなった。「君が何を分かるの?奏は女と一切付き合わないの。この私以外でね…」

「やめてよ。直美。彼は好きな女がいるの」興奮したとわは言葉が脳を通さず、直接口から飛んできた。

話が出たとたんに、とわこは悔しくなり、口を閉じった。

馬鹿をするのは、直美の勝手だ。

奏の秘密を暴いて、知られたら、必ずひどく罰されるだろう。

数秒だけ直美の顔が固くなったが、すぐ、冗談を聞いたように笑い出した。「ありえない。奏は君のことが好きなんて。無理無理」

「私のことじゃない。ほかの女だ」とわこは嘆いた。

「それはなおさらだ。奏の周りに、私以外に女がいなかった。私はすでに奏のそばに10年間もいた。それに兄が奏と20年ぐらい付き合ったの。私は誰よりも奏のことが一番わかっているのだ」直美が大きな声で反駁していた。

それを聞いてとわこはぼんやりとした。

どっちが真実、どっちが幻か、分からなくなってきた。

直美は嘘をつく必要がない。

だとすると、この前、奏のパソコンにあるものは…何なんだったんだ?

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