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第17話

作者: かんもく
車が素早くそばから通って前へ進んで行った。

冷たい風と共に消えた。

とわこは頭を上げて、幻の夜景色を眺めると、ロールス・ロイスが尾灯を閃いた。

奏の車だろうか?

手で涙を拭いて、さっさと気持ちを見直し、常盤邸へ向かった。

邸の前に、車が止まっていた。

とわこは門の前で止まって、奏が入っていくのを待っていた。

目がとても渋かった。頭を上げて夜空を眺めると、星達が眩しく輝いて、とても美しかった。

きれい。

明日は晴れるだろう。

そのまま立って、あっという間に、1時間も立った。

車はなくなった。車庫に入っただろう。

客間に灯りがついている。広くて静かだった。

落ち着いたとわこはゆっくり客間に向かった。

二階のベランダに、奏が灰色のガウンを着て、車椅子に座りながら、ゴブレットを手にしていた。ゴブレットに赤い液体が底をついていた。

外で1時間ぐらい立っていた彼女を、奏がベランダでずっと見ていた。

彼女は何を考えていたのか?じっと立ったままで、近くの木のように見えた。

幼いごろから頭のいい人をいっぱい見てきた。頭のいい人だけが彼の近くに残されるのだ。

ただし、とわこは例外だった。

分かったくせに、何度もわざと彼を怒らせたのだ。賢いとは言えない。

本物の馬鹿女だ。

しかし、悲しい彼女を見ると、知らないうちに影響されてしまった。

これは受動的な感情。

生まれて初めて体に覚えた感覚だ。

……

部屋に戻って、とわこの頭が重くなった。

冷たい風に当てられただろう。

タンスの中から厚めの布団を取り出した。布団の中に入り込み、深い眠りに着いた。

一晩寝汗を流して、夜風の寒気をやっと追い出した。

目覚めた彼女の体がねばねばだったが、気分はよくなった。

シャワーを浴びて、服を着替えて、部屋から出た。

いい匂いに従ってダイニングに辿り着いた。三浦婆やはすでに朝食を用意できた。

「彼は食べたの?」とわこは聞いた。

「まだです。若旦那様がまだ降りていません」

それを聞いて、とわこは慌ててミルクを飲み、お皿からのトースト等を大口で食べ始めた。

5分も足らずに朝食を終えた。

「若奥様、そんなに若旦那様のことが怖いですか?」三浦婆やが微笑んで彼女をからかった。

「違うの…見たくないだけよ。見ると落ち着かなくなるの」顎を上げながら、少しためらってからとわこは回答した。

「長く一緒にいるとよくなると思いますよ。ところでお昼食は家でなさいますか?」

「ううん。学校にイベントがあるから。夕食もいらない」

「分かりました。運転手さんを呼んで、車の手配をしてきます」三浦婆やが言いながら出ようとした。

「車はいらない。自分でタクシーを拾うから。車は彼に回して」とわこが三浦婆やを止めた。

「運転手二人いますよ。買い物専用の運転手に送ってもらいます」

三浦婆やのしつこさに負けて、とわこは従うようにした。

無事に大学についた。「ご苦労様。戻っていいよ。夜はタクシーで戻るから、迎はいらない」とわこは言いながら車から降りた。

車が消えてから、小走りにかけてきた女の子が話しかけてきた。「ね、とわこ、先のポルシェの兄さんは誰?」

大学の前でクラスメート兼親友の松本瞳に会えるなんて思わなかった。

「兄さんじゃない。おじさんだ」キャンパスを歩きながらとわこは言った。「瞳、私は瞳と一緒に大学院入試に参加できないかも」

瞳が立ち留まった。「お家のことなの?父さんから聞いた。とわこのことを心配したわ」

「元々大学院に行きたくなかったの」とわこが笑いながら話した。

「わかったわよ。卒業して彼氏と結婚するでしょ。一体、いつ彼氏を紹介してくれるの?」

とわこはしばらく黙っていた。

常盤弥とのことだが、母にだけ話したのだ。

一番仲のいい親友でも、付き合っていることを話したが、彼氏の事何も教えてなかった。

「別れたの。瞳、裏切られたことがあるの?もともと世界一素敵な男と思ったのに、結局クズだったって」深―い息を吸いながら、とわこは言った。

「とわこ、大丈夫だよ。私たちはまだ若いし、これは試行錯誤にすればいいの。これからきっといい人に巡り合えるよ」とわこの腰に手を回して、赤くなった目を見つめながら、瞳が慰めてみた。

「男より自分を頼りにする方がいいよね」とわこは笑いながら言った。

「やはり痛みがあるから人が成長するもんだよ。夏休み前に恋愛至上主義だったのに、今は完全の姉貴気味になったじゃないか」瞳が笑いながらとわこをほめた。

「姉貴は無理だよ。無事卒業して、ちゃんとした生活ができるならそれでいいの」頭を振りながらとわこが言った。

「きっとできるわ。とわこは同時に二つの分野を専攻し、どちらも成績がトップ3に入る人だよ。こんなにすごいんだから、将来の成就は計り知れないよ!」瞳が確信した。

褒められてとわこの顔が赤くなった。

午後5時。

二人は大学を出て食べに行こうとした。

大学の外を出たとたん、瞳はポルシェが止まっていたことに気づいた。

「とわこ、あれは朝送ってきたポルシェおじさんじゃない。迎えに来たのかしら」瞳がこの車を覚えたのだ。

何と言っても、高級車、イケメンと美人は誰でも好きなのだ。

車へ目を走らせると、車窓が降ろされ、運転手の顔が現れた。

夜の迎いはいらないといったはずだが。

どういうことだ?

とわこは車に向かって歩き出した。

運転手が後ろのドアを開けてとわこを待っていた。

「どうしたの?」とわこが声を抑えて聞いた。

瞳がいるから、運転手がこえをひそめて言った。「乗ってからにお話します」

とわこは何となく緊張してきた。

「とわこ、大事な話があるみたいで、また今度ね」瞳が先に別れを告げた。

「今度私がおごるよ」。頷きながらとわこは言った。

「遠慮しないで、また電話するわ」手を振りながら瞳が離れた。

とわこを乗せて、車がすぐ走り出した。

「若奥様、また若旦那様を怒らせたのですか?」

「ないよ。彼が迎えを頼んだの?」眉をひそめて聞いた。

「はい。心の準備をした方がいいと思います」運転手が念を押した。

とわこの心臓が飛び出すほどドキドキし始めた。

脳も素早く回転し始めた。

おかしい!

彼女一日中大学にいた。彼と会ったこともないし、怒らせることもないはずだ。

この数日のことを整理しても、心当たりは全くなかった。

頭も痛くなってきて、考えるのをやめた。

午後5時40分、常盤邸に着いた。

車が止まった。とわこは降りてきた。

玄関で靴を脱いで、中を見ると、客間に奏しかいなかった。

彼は紺色のシャツを着ていた。肘まで袖を巻いて、痩せて力強い腕が際立った。

カフスボタンにダークブルーの宝石がつけられて、キラキラ輝いていた。

彼は悠々とソファに座り、全身から長く高位にいる者の傲慢なオーラを放っていた。
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    和彦のノートパソコンには、奏の父親の葬儀の映像が流れていた。同時に、彼の手には奏の精神疾患の診断書が握られていた。すみれが見舞いに来たあの日、彼女の自信満々な態度が、和彦を激しく刺激した。彼女は「もうチャンスはある」と言った。だからこそ、和彦は部下を館山エリアの別荘周辺に張り込ませた。そしてすぐに成果を上げたのだ。これはすみれが自分を甘く見た報いだ。退院したら、じっくり計画を練る。今度こそ、奏に地獄を見せてやる。イベント会場のステージ裏。レラはパフォーマンスを終え、楽屋に戻る途中で記者に囲まれた。涼太の手によってデビューした彼女は、他の子役とは違った。それに、彼女はルックスもスタイルも抜群。歌もダンスもそつなくこなし、これからプロの手で磨かれれば、間違いなくトップスターになる逸材だった。「レラちゃん、今日のパフォーマンスはどうだった?100点満点で何点つける?」記者が笑顔で尋ねた。レラは目を細めてニッコリ笑った。「100点!」「じゃあ、涼太さんには何点?」「彼に点数なんてつける必要ある?さっきのステージ、観客の歓声が答えじゃない?」彼女の表情豊かな受け答えに、記者たちは思わず吹き出した。「レラちゃん、新年の願い事は?」「たくさん素敵なプレゼントをもらえるように......もちろん、家族が健康で病気をしないことが一番大事だけど!」少し考えた後、彼女は真剣に付け加えた。「レラちゃん、しっかりしてるね!いつも元気で楽しそうだけど、悩みとかないの?」記者は、彼女の将来のスター性を確信していた。このインタビュー映像は、彼女が有名になったら間違いなく話題になる。「もちろんあるよ。でも、それは秘密!」レラは頬を膨らませ、ため息をついた。「じゃあ、最近特に嬉しかったことは?それなら話せるよね?」「前はパパと仲が悪かったんだけど、最近ちょっとだけ仲直りできたんだ!」無意識に口を滑らせたレラは、照れくさそうに笑った。「パパがいるって、すごくいいことだね」「お父さんも芸能関係の人なの?今日の会場には来てる?」レラは首を横に振った。「ううん、パパは芸能界の人じゃないし、今日のことも知らないと思う。ちょっと仲直りしただけで、完全に和解したわけじゃないから。パパの今後の行動次第かな!」「どんな行

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第795話

    こうすれば、自分の想いが蓮に伝わるはずだ。蓮は黙って延べ棒を受け取り、それをじっと見つめた。「あけましておめでとう」「フン」蓮は冷笑を浮かべながら、延べ棒を箱に押し戻した。「裏にも何か刻まれてるぞ!」マイクが延べ棒を取り出し、彼の手に乗せた。仕方なく蓮は再び延べ棒を見た。「ごめん」延べ棒を通して謝罪だって?バカバカしい!口がついてるのに、なぜ直接謝らない?「蓮、この延べ棒、けっこう重いぞ。結構な価値があるんじゃねえか?せっかくだし、もらっとけよ!」マイクは延べ棒ごと箱を彼の手に押し込んだ。「奏が金を贈ったのは、お前が金みたいな存在だからだよ。キラキラ輝いて、清く正しく」「それって金を指す言葉じゃない」「おっと、そうだったな!じゃあつまり、未来を照らす光のような存在ってことだよ!」「僕の未来は、あいつを超えることだ」蓮はつまらなそうに延べ棒を放り投げた。「謝罪なんか、いらない」数分後、マイクは延べ棒の入った箱を抱えて部屋を出た。蓮はどうしても受け取ろうとしなかったが、奏が傷つくのを見たくないマイクは、代わりに預かることにした。常盤家。奏は風呂から上がり、バスローブ姿のまま寝室へ向かった。ベッドサイドの引き出しを開け、中から薬を取り出した。結菜が亡くなって以来、彼は毎日、決まった時間に薬を飲むようになった。飲まなければ、心の奥からネガティブな感情が溢れ出してしまうから。薬を飲み終えると、スマホを手に取った。蓮の性格からして、絶対にプレゼントを受け取らないはず。そう思っていたのに、マイクからのメッセージにはこう書かれていた。「蓮はお前のプレゼントを気に入らなかったけど、一応受け取ったぞ。次からプレゼント選ぶときは、俺に相談してくれ。いいな?」奏はそのメッセージを見て、口元を緩めた。蓮がプレゼントを受け取った?俺はいい父親じゃない。それでも、蓮は自分に償う機会を与えてくれた。ふと、奏の目が潤んだ。昨夜もそうだった。レラが「パパ」と呼んでくれた夜、彼は帰宅後、こっそり涙を流していた。結菜が亡くなったとき、人生の意味を見失った。だが今、レラと蓮の存在が、自分に生きる意味を与えてくれている。その頃、病院の特別病室。和彦はベッドに横たわり、目の前のノートパソコ

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第794話

    奏が理由を話すと、マイクは笑い出した。「お前、プレゼント選びのセンスなさすぎだろ!とわこが惚れたのは、お前の顔と金だけじゃないのか?」マイクは容赦なくからかった。「彼女は俺の金なんか求めてない」奏は即座に訂正した。「稼げるってことは、お前に能力があるってことだ。決して無能ってわけじゃないからな!」マイクは笑いながら言い、ふと思い出したように続けた。「そういえば、レラが昨日、お前のこと『パパ』って呼んだらしいな?タダで可愛い娘ができて、嬉しくてたまらないんじゃないのか?」「お前の言い方が気に食わない」奏は眉をひそめた。商品みたいな言い方をするな。レラは紛れもなく自分の娘だ。もし彼女が望むなら、奏は父親としてしっかり育てる覚悟がある。「まあ、言葉は悪かったな。で、とわことはどうなんだ?まだ冷戦状態か?」マイクはさらに鋭い話題を投げかけた。「結菜の葬儀も終わったし、そろそろ前を向く頃じゃないのか?」「アメリカまで迎えに行けって言いたいのか?」奏の声にはわずかに皮肉が混じっていた。「結菜の治療をしていたのに、俺には一言も知らせなかった。どんな時でも彼女は自分を最優先にして、俺は最後だ」「お前、それただの思い込みだろ?」マイクは両手を腰に当て、真剣な表情で言った。「そもそも、なんでとわこがちゃんとお前と向き合えなかったのか?なんでこっそり子どもを産んだのか?全部、お前が『子どもはいらない』って言い張ったからじゃないか!お前が子どもを拒絶したから、とわこは子どもを選んで、お前を捨てたんだよ!俺は今でも理解できねえ、お前、なんであんなに子どもを嫌がった?」「今なら理由を話せる」奏の目は深い闇を湛え、一語一語かみしめるように言った。「俺と結菜は双子だった。そして、結菜の病気は俺にもあった。結菜は知的障害を抱えていたが、俺もそうだったんだ。でも、俺の症状はそこまで重くならなかった。なぜか分かるか?父は、知的障害を嫌ってた。それだけじゃない、男尊女卑の考えも持ってた。俺は男だから、最高の治療を受けられた。だけど、結菜は女だから、父に何度も暴力を振るわれ、そのせいで病状が悪化した。俺が子どもを持ちたくなかったのは、自分の劣悪な遺伝子を残したくなかったからだ」マイクは彼が自分の名誉に関わるようなプライバシーを全て打ち明けるとは思っていなかった

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第793話

    奏はこのケーキブランドの社長とは面識がなかった。だからこそ、背後に黒幕がいると確信した。「奏さん、確かにこの企画は弊社のマーケティング部が立ち上げたものです。ただ、どの子どもをプロモーションに選ぶか私も知りません。私は結果しか見ていませんので」ケーキブランドの社長は素直に説明した。「企画の責任者に確認いたしますので、少々お待ちください」奏は説明を聞くと、黙って茶を飲んだ。しばらくして、社長は電話を終え、驚いた表情で奏を見た。「奏さん、うちのマネージャーによると、貴社の関係者から直接連絡があり、その子をプロモーションに加えるよう依頼されたとのことです。マネージャーは貴社の関係者ということで信用し、その子をリストに入れたようですが……」奏の目が鋭く光った。なんという大胆な手口だ。自分の名前を利用し、関係者すら欺くとは。もし昨夜、レラから詳しく話を聞いていなければ、今も騙されたままだっただろう。夕方。奏は館山エリアの別荘に向かった。昨夜、レラにお正月のプレゼントを前もって渡すと約束したからだ。午後、自らデパートへ行き、いくつかのヘアアクセサリーを選んだ。彼女が気に入るかどうかはわからない。リビングに入ると、マイクと蓮が出た。レラは今夜、イベントの収録に参加するため家にはいなかった。「レラへのお正月のプレゼントだ。戻ったら渡してやってくれ」奏はマイクに手渡した。マイクは中身を確認すると、眉を上げて一言。「で?」「まさか、レラにしかプレゼントを用意してないとか言わないよな?」マイクは呆れたようにため息をついた。奏はその意図をすぐに察した。同時に、蓮も理解した。「僕は要らない!」蓮は冷たい声で言い放つと、足早に階段を上がっていった。マイクはそんな蓮の後ろ姿を見つめ、そしてすぐに奏の前に詰め寄った。「お前、まじで蓮には何も買ってないのか?受け取るかどうかは本人の問題だが、お前が何も用意しないのは違うだろ!」奏は一瞬、顔が熱くなり、ポケットから小さな箱を取り出した。「何が好きなのかわからなかったから、適当に選んだ。渡してくれ」マイクは箱を受け取ると、その場で開けた。すると、箱の中には金の延べ棒が入っていた。まばゆい輝きに、マイクの目がチカチカした。マイクは呆然と奏を見た。

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第792話

    「お兄ちゃん、新しい息子って何のこと?蒼のこと?息子に新しいとか古いとかあるの?みんな同じ息子じゃない?」レラは首をかしげながら聞いた。蓮は言葉に詰まった。「もしパパがママとまた娘を産んだら、私は古い娘になっちゃうの?」レラはちょっと不満そうに呟いた。「でもね、お兄ちゃん、パパってそんな薄情な人には見えないよ」「それは、あいつがレラに優しくするから、そう思うだけだろ?でも僕には違うんだ!」蓮はそれ以上、奏のことを聞きたくなかった。「もう僕の前でアイツの話はしないでくれ。聞きたくない」「でもお兄ちゃん、パパが前にお兄ちゃんに冷たかったのは、お兄ちゃんが自分の息子だって知らなかったからじゃないの?」レラは兄の怒りに少し怯えながらも、父と兄の関係が悪いままなのが嫌だった。「たとえ僕のことを息子だと知らなかったとしても、ママの息子だってことは分かってたはずだ」蓮はきっぱりと反論した。「アイツは一度暴走すると、そんなの関係なくなるんだよ」「だったら、やっぱり私は認めるのをやめる。でも今日、二回もパパって呼んじゃった」レラはしょんぼりした顔で言った。「呼んだ時点で、もう認めたのと同じだ」蓮は裏切られたような目で妹を見た。「もうレラも大きくなったし、これからは一緒に寝るのはやめよう」「えええ!やだー!お兄ちゃんと寝ないと怖いよぉ!」レラは目に涙を溜めながら訴えた。蓮は赤くなったレラの目を見て、心が少しだけほぐれた。「奏は何をあげた?どうしてアイツをパパなんて呼んだ?」レラはうつむきながら、ぽつりぽつりと話した。「結菜のことで蒼を責めないでほしいってお願いしたら、パパは責めてないって言ったの。それにパパ、お正月は家でひとりで過ごすって言ってた。なんか、ちょっと可哀想だなって思って、彼はお正月のプレゼントに、私にパパって呼んでほしいって言ったの」「それって、女を騙す男の手段じゃん!ママにも同じことやってたに決まってる!だからママもアイツに騙されたんだよ」蓮の言葉を聞いて、レラはもう誤魔化せないと悟った。「パパ、私が箱を盗んだこと知ったの」レラは口を尖らせながら、正直に話した。「今日ね、悪いおばさんが来て、その箱を騙し取られちゃったの。でもパパ、全然怒らなかった。むしろ私を慰めてくれたの」蓮の表情が一瞬にして冷たくなった。「パ

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第791話

    彼女が素直に彼を呼べたのは、この部屋に二人きりだったからだ。もし蓮がいたら、きっとそんなことはできなかっただろう。蓮は奏を嫌っている。そして、奏と蓮の間で、レラは迷うことなく蓮を選ぶに違いない。奏の黒い瞳に、ふっと優しい笑みが浮かんだ。「弟に怒ってないなら、もう一回呼んであげてもいいよ」レラは彼の表情を見て、少し強気に交渉した。「弟はまだ小さいんだから、私が守らなきゃ」奏の目が僅かに赤くなり、掠れた声で呟いた。「レラ、俺は弟に怒ってるんじゃない。怒ってるのは、自分自身に対してだ。俺の気配りが足りなかったせいで、結菜のことを見落としてしまった」「パパ、それはパパのせいじゃないよ」レラは真剣な顔で訂正した。「結菜は弟を助けたかったんだよ。たとえパパが止めたとしても、きっとこっそりやったと思う。まるで私がパパのものを盗みたくなっちゃうのと同じ。ダメだって分かってるのに、どうしてもやりたくなっちゃう」例えとしては少しおかしかったが、それでも彼女の「パパ」という呼び方が、奏にとって生きる意味を取り戻させるほどの力を持っていた。マイクはずっと部屋の外で二人の会話を盗み聞きしようとしていた。だが、残念ながら何も聞こえなかった。二人とも小声で話していたうえに、マイク自身、奏がレラに何かするはずがないと確信していたので、結局スマホを取り出し、子遠と雑談していた。突然、部屋の扉が開いた。奏とレラが一緒に出てきた。「もう話終わったのか?何話してたんだ?レラ、泣いたのか?」マイクはレラの赤くなった目を見て、慌てたように問いかけた。「奏に何かされたのか?!」レラは首を横に振った。「お正月のプレゼントをくれるって言われて、感動して泣いちゃったの」「???」奏は話題を変えるように、「もうこんな時間なのに、蓮はまだ帰ってないのか?そんなに勉強が大変なのか?」と尋ねた。マイクは皮肉っぽく笑う。「そんなに気になるなら、今から迎えに行けば?」奏はその挑発に乗らず、「先に帰る」と言って、静かにその場を去った。奏が去った後、レラはマイクの腕を引っ張り、ぷりぷりと怒った。「どうしてパパにあんなに冷たくするの?」「プリンセス、まさか、あいつの肩を持つつもりか?!ちょっと待てよ、いったいどんなプレゼントをもらえるんだ?そんなに簡単に買収さ

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第790話

    レラはそう言い終えると、さらに泣きじゃくった。奏は、さほど驚かなかった。もし、あの箱をレラが持ち出していたのなら、盗まれた箱が、誰の手によって消えたのか分からなかった理由も説明がついた。誰も、まだ四歳の子どもを疑ったりはしない。当時のレラは今以上に人に頼って生きていた。何もできない幼い子どもが、まさかそんなことをするとは、誰も思わなかったはずだ。そして、これによって、箱が持ち去られた後も、箱の中身が一度も暴露されず、彼を脅すために使われなかった理由も説明がついた。「レラ、そのおばさんはどんな服を着てた?」奏は彼女を椅子に座らせ、そっとティッシュで涙を拭いた。レラの嗚咽が少し落ち着いてから、さらに問いかけた。「灰色っぽいコートを着ていたんじゃないか?」「どうして、それを知ってるの?」レラは真っ赤な目を見開いた。「じゃあ、箱はもう取り戻したの?」奏は数秒考えた後、正直に答えることにした。「いや、まだだ。君を騙したあの女は、事故で死んだ。でも、箱の中身は何者かに持ち去られた」「でもお兄ちゃんが、あの箱にはすごく大事なものが入ってるって」レラは鼻をすすりながら、長いまつ毛を伏せた。「ごめんなさい、あんな大事なものを持ち出しちゃって」娘の謝罪を聞いても、奏の心は不思議なほど穏やかだった。もし、これが他人の仕業だったら、絶対に容赦しなかっただろう。その代償として、報いを受けさせていたはずだ。だが、これをやったのが娘なら、たとえ空が崩れ落ちたとしても、彼は決して彼女を責めることはない。「どうして、あの箱を持ち出そうと思ったんだ?」彼は、ただ娘の気持ちを知りたかった。「だって、あなたが嫌いだったから、あなたのものを隠して、見つからないようにしてやれば、きっと困ると思ったの!」レラはぷくっと頬を膨らませた。しかし、次の瞬間、彼女の表情は後悔に変わった。「もし、大事なものだって知ってたら、きっと持って行かなかったのに」「レラ、もう泣かないで、このことは、ママには言わないようにしよう」とわこに余計な心配をかけたくなかった。そして何より、レラの怯えた表情を見る限り、この件をまだとわこには話していないのだろう。そもそも、あの箱が消えたとき、奏はとわこにも確認した。もし彼女が知っていたのなら、あのときすでに何か言っていたは

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第789話

    レラはスマホを握りしめ、画面に映るママの顔を見つめながら、小さな声でつぶやいた。「ママ、彼がノックしないで入ってきたの......悪い人かと思った......」本当のことを話す勇気はなかった。お兄ちゃんが家にいればよかったのに。お兄ちゃんが帰ってきたら相談しよう。きっといい方法を考えてくれる。とわこは娘の説明を聞き、安堵のため息をついた。そして、優しく問いかけた。「レラ、なんだか今日は元気がないみたいね。もしかして、友達の家で何かあったの?何も心配しなくていいのよ。ママには何でも話していいからね」奏は横でその言葉を聞き、違和感を覚えた。今日、レラは友達の家に行っていた?彼女のこの異常な反応は、きっとそれと関係がある。「ママ、もう大丈夫だよ」レラはそう言いながら、こっそり奏をチラリと見た。「もし何かあったら、すぐにママに話すのよ。いつでも電話してきていいからね」とわこは念を押すように言った。「わかった、ママ」レラはそう言い、スマホの画面に向かって投げキッスを送った。通話が終わると、レラはスマホをマイクに返した。マイクはスマホをポケットにしまい、警戒の眼差しを奏に向けた。「お前、一体誰に用があってここへ来た?何の用だ?」「レラと二人で話したい」奏は淡々と言った。「さっき驚かせてしまったから、謝りたいんだ」「ここで謝ればいいだろう?二人きりになる必要はない」マイクは彼の意図を測りかねていたため、レラと二人にするつもりはなかった。「レラ、俺を信じてほしい。君を傷つけることは絶対にしない」奏はレラの顔をじっと見つめながら、静かに言った。「もし君が傷つくようなことがあれば、その罰として、一生ママに会えなくなってもいい」マイクの胸に縮こまっていたレラだったが、その言葉を聞いて、少し恐怖が薄れた気がした。彼女はマイクの腕の中から抜け出し、小さな顎を少し上げて言った。「ちょうど私も、あなたに話したいことがあるの」奏は頷き、彼女の後ろをついて、一階の客室へ向かった。部屋に入ると、奏は静かにドアを閉めた。「レラ、どうしてそんなに俺を怖がってるんだ?」奏は待ちきれずに問いかけた。「今日、友達の家で何があった?今、ママはいない。だから何でも話していい」彼の言葉に、レラは眉をひそめた。彼は、自分が人を送ってきた

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