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第16話

「ね、とわこ、教えて、奏が好きな女がいるって誰から聞いたの。どんなタイプの女?」直美は不安に感じた。

奏の周りに他の女なんていないと、彼女は確信していたが。

「ただの推測だよ…奏の事、直美ほど分からないから」頭を横に振りながらとわこは言った。

少し落ち着いてからとわこは口調を変えた。

奏の事はそう簡単ではなかった。そして彼女は深く巻き込まれたくもなかった。

ちゃんと生きてて、子供を順調に産むのは何よりの重要事項だ。

「びっくりした。奏がほかの女と一緒にいるのを見たと思った」とわこからの説明をきいて、少し気楽になった。「奏はとわこが思うような男ではない。彼は女嫌いし、子供も嫌いんだ」

「どうして奏は子供が嫌いの?」とわこは何げなく聞いた。

「実は私もわからないのだ。でも、知りたくもないのさ。奏が嫌いなら、私は産まない。私の事大切に思ってくれたし」眉をひそめて、独り言のように直美が言った。

「直美がいいというならそれでいい」とわこは彼女の考えを正すのをやめた。

責任を取る覚悟があるなら、誰にでも選択の権利があるはずだ。

直美のやり方はとても不思議だったと思うが、常盤の子供を産むのも、馬鹿げたことに思われているかもしれない。

料理が出された。

お腹すいたので、とわこは箸を取り、さっさと食べ始めた。

直美は心配こと重なって、食欲なくなった。「とわこ、奏のことを好きになってないよね?」

「それはない」とわこははっきり答えた。

「しかし、奏は優秀だし、格好いいし、どうして好きにならないの?」直美は理解できなかった。

「直美と奏のどっちかを一人選んで欲しいなら、私は直美を取るわ」彼女を見つめながらとわこは言った。これなら少なくとも殴られることはないだろう。

彼女はびっくりした。「とわこ、君は…」

「ただの例えだ。分かっていればいい」手を振りながらとわこは補足した。

直美はすっかりと安心した。とわこは脅威ではないと判断した。

お父さんと死別して、三千院グループが破産まじかで、三千院家をとわこ一人で支えているのを考えると、直美は何とか哀れな気持ちになった。

「とわこ、大学まだ卒業してないのか?」

「まだだよ」水を飲んでからとわこは言った。

「父のことを聞いたわ。お父さんも死んだし、会社の借金は君と関係ないだろう。ちゃんと勉強して生きていればいいじゃない。そんな大額の借金、借りるところもないでしょ。苦労するよ」直美に忠告された。

とわこは黙って何も話さなかった。

周りの人は皆三千院グループを諦めろうと言わんばかりに。

200億円の債務なので、ただものじゃない。

お母さんからも諦めろうと言われた。

だが、副社長の田中は会うたびに必ず新製品がいいとか、今度の難関を突破すれば、会社がますますよくなるなど言ってくる。

心の中では、とわこは毎日悩み続けていた。

食事終わって、直美が勘定した。

野菜ばかりなので、そんなにかからないと思い、直美の支払いを止めなかった。

「とわこ、Lineを交換しよう」直美が近寄って、とわこに頼んだ。

「必要ないでしょ。奏とはもうすぐ離婚するよ、その後、私たち会う機会なんてないでしょ」とわこは断った。

断られて直美は腹立った。

でも今後もう会わないと思って、気が済んだ。

「そうだね。今後、奏のそばにいるのはこの私だ」とわこをちらりと見て、直美は言葉を残して、ハイヒールの地面に敲く音と共に去った。

……

午後2時半。

検査データを手にして、お医者さんを訪ねた。

一目を通してから、先生は鼻の上に眼鏡を押し上げた。

「健康です。検査結果も良好ですよ。しかも…男女の双子のようですよ。」

とわこはぽかんとした。

「まだ降ろそうと思っていますか?双子の男女を授かる確率なんて、宝くじに当たるのと同じくらい低いんですよ。あなたはまさに宝くじに当たったようなものです!」

吃驚しすぎて、胸がドキドキしたとわこは複雑な気持ちになった。

男女の双子たんて!

男女の双子!聞いたことがあるが、とわこは実際見たことがない。

「念のために言っておきますが、もし子供を堕ろすつもりなら、3ヶ月以内にした方がいいです。それ以降は、赤ちゃんが大きくなるほどリスクが高くなります。あなたにとっても赤ちゃんにとっても、とても残酷なことです。例えば今、赤ちゃんはすでにお腹の中で形を成していますから……」医者は彼女に注意を促した。

「先生、もう降ろしません。産んでみます」やっと、この時、とわこは決心した。

「わかりました。ここにデータを記入して、母子手帳を作ってあげますから」

……

病院を出たとき、すでに午後の4時だ。

朝早かったし、昼寝もしてなかったので、とわこは眠くなった。

目前の景色、往来する人たち、走っている車、すべてが薄い膜をかけられてるように、はっきりと見えてこない。

タクシーを拾って、常盤邸に戻り、とわこは直接部屋に入って寝ころんだ。

目覚めた時、夕日がすでに沈んだ。

ベッドにぼんやりと座って、頭もお腹も空っぽだった。

お腹がすいたのに、体はどうしても動こうとしない。

突然に携帯が鳴った。彼女は携帯に出た。

「とわこさん、金持ちの名簿リスト、連絡したのか?」副社長の田中だ。

「まだです。明日に連絡してみます」深く息を吸って、目を半分開いたとわこが回答した。

「明日は週末ですよ。週末に人の邪魔はしないほうが方がいいんですよ。連絡するであれば今晩のほうがいいかもしれませんよ」田中はしつこい人だ。

「はい、わかりました」とわこは回答した。

「それで、もう一度名簿リストを送ってあげますか?」

「いりません。手元にありますので」

「それでは、今晩連絡してみてください。丁寧にしてくださいね。それと…」

「わかりました。食事に行きますから、それでは、失礼します」

「あの、今どこに住んでいますか?三千院邸を転売されていると聞いたが」

「リースしたところです。心配しないでください」今の部屋を眺めながらとわこは回答した。

「わかりました。いい知らせを期待しています」

食べても味がわからなかった晩餐を済ませた後、彼女は自分の部屋に戻った。名簿リストの順番で電話をかけてみた。

相手が三千院と聞いて、後の話を聞かずに電話を切った。

すべての電話で、20分もかからなかった。

もちろん全部断られた。

誰も三千院グループの新製品に興味がなかった。

努力し始める前に失敗する挫折感は突然襲ってきた。

あきらめるのか?

諦めたら、三千院グループは永遠に消えていく。

諦めないと、また何ができるのか。

部屋の中に突然に空気が足りなくなってるように、息苦しくなった。

長いコートを手に取って部屋を出た。

客間に誰もいなかった。常盤邸には停止ボタンを押したように静かだった。

体をコートに包まれて、とわこは外に出た。

夜風が真正面から吹いてきて、長い髪の毛が乱された。

寒い!

骨まで冷え込んでるみたいに寒い。

街灯の光をたどりながらひたすら歩き、昔の思い出が突然現れてきた。

外から見れば、三千院グループの令嬢様で、お金などに困ることはないだろうと思われた。

彼女がどれだけ雨に打たれ、冷たいご飯を食べ、何度病気の夜を過ごしても、誰一人として気にかけてくれなかったことを、誰に知らない。

黒いロールス・ロイスが住宅エリアに入った。

スピードを落として車が止まった。

奏がゆっくり目を開いた。

車窓の外、うす暗い街灯の下、痩せた姿がしゃがんで、両手で足を囲いながらとわこは泣いていた。肩がその泣きに連れ震えていた。

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