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第11話

作者: かんもく
彼は腕を車窓から差し出した。

細長い指でティシューのパックとわこに渡した。

彼女は少し戸惑いながらも、いらないと言うつもりだったが、まるで何かに唆されたかのように受け取った。「ありがとうございます」

ティシューパックには彼の手の温もりが残っていた。

彼はすぐ目線を彼女の顔から外し、車窓も閉じられ、車は速いスピードで走っていた。

朝10時。

三千院グループ。

社員は依然として、自分の持ち場で仕事に励んでいた。

給料が一か月以上も支払われていないにもかかわらず、三千院グループは歴史を誇る企業であり、ネット上でネガティブなニュースが流されていても、社員たちは諦めずに、最後まで会社と共に生きようとしていた。

もし会社が借金を膨らませていたことをとわこが知らなければ、目の前の平穏な光景が偽りだとは想像すらできなかっただろう。

とわこは副社長の田中と共に会議室へ向かった。

弁護士はとわこが入ってくるのを見て、単刀直入に言った。「三千院さん、ご愁傷様です。お父上に託され、これから遺言状を公表させていただきます」

とわこは頷いた。

弁護士は書類を取り出し、落ち着いた声でゆっくりと説明を始めた。「お父上は、不動産を六ヶ所所持していた。場所はそれぞれ…これが書類です。ご確認を」

とわこは書類を受け取って、確認し始めた。

「他には、駐車位が三か所に」そう言いながら、弁護士先生は別の書類を渡した。「店舗は八軒、そして車十二台あります」

実家の財産について、とわこは今まで殆ど知らなかった。

その理由の一つは、関心がなかったからだ。

もう一つは、父が詳細を話してくれなかったからだ。

実際、弁護士から父の財産の詳細を聞かれ今、彼女は内心動揺を隠せなかった。

父にはこんなにも多くの財産を持っていたのは予想外だった。

こんなにも多くの固定資産を持っていたのなら、何故それを売って治療費にしなかったんだ?

「先ほどお伝えした資産以外にも、今私たちがいるこの会社も」弁護士は少し間を置いてつづけた。「お父上は、三千院さんに会社を継がせるつもりでしたが、正直に申し上げますと、現在この会社は赤字が続いています」

とわこは弁護士を見つめて尋ねた。「赤字というのは、具体的いくらなんですか?」

副社長の田中は鼻にかけたメガネを上に押し上げて口を開いた。「今のところは、170億の赤字が出ています。お父さんの会社を継ぐことは、その負債をも一緒に引き継ぐことになります。先ほどお伝えした不動産や車も、会社の赤字を埋めるためにすべて売り払うことになります。」

とわこは固まってしまった。

170億!

不動産や車を全部売ったところで、170億が揃えるはずがない!

「とわこさん、継がないという選択肢もありますから。この場合、お父さんの債務もあなたに転嫁されることがありません」副社長さんは悲しそうな顔をしていた。「ですが、よく考えて決めてください。お父さんはこの会社のために生涯を捧げてきました。とわこさんも、会社が潰れるところは見たくないでしょう?」

「すみれさんとはるかは?」とわこは深く息を吸って、訊ねた。

「継母のことならもういい!会社がこうなった半分はあの女のせいなんです。数年前、あの女は自分の弟を会社に招き入れ、財務職に就かせました。その肝心の弟さんは、ここ数年で会社から金を持ち逃げし、行方をくらませました」田中はため息をつくしか、どうしようもなかった。

とわこは両手で額を押さえ、震えた声で言った。「私もお父さんの会社が潰れるところを見たくありませんが、こんな大金、一体どうやって集めればいいのでしょうか…」

「借りるしかないでしょう!」と田中が言った。「我が社の新商品の開発はもうすぐ完成します。資金さえ借りることができれば、新商品が発売までの間、資金難もある程度解決できます。」

とわこは信じがたそうな顔を上げた。「借りるって、誰からですか?そんな大金を貸してくれそうな相手なんています?」

「銀行です。銀行がダメなら、他の投資家に頼みましょう。とりあえずダメもとで試してみましょう。それでもダメなら諦めても構いません。どうですか、とわこさん?」

常盤グループ。

最上階、社長オフィス。

大きなフランス窓、埃一つなく、キレイに磨かれていた。

金色の太陽の光が差し込んでいた。

背中で太陽の光を浴びた奏の外人寄りの顔立ちをさらに美しく見せていた。

彼が手にしていたのは、助手の周防子遠が送ってきた資料だった。

「常盤様、三千院グループは現在200億近い赤字を抱えています。三千院太郎の再婚した妻と次女は今朝早く国を出ました。三千院グループの問題が解決するまで、戻らないつもりでしょう。とわこ様も恐らく、会社のことを諦めるでしょう。何しろ、彼女にとって200億は容易に出せない大金です。」

周防子遠は自分の意見を述べた。

奏が三千院グループの資料を求めたため、彼は奏がこの問題に興味を持っていると勝手に思い込んでいた。

「子遠、一つ賭けをしようじゃないか!」常盤グループの財務経理、武田一郎は狐のような目を細め、手に持ったコーヒーコップを揺らした。「三千院とわこはきっと、奏から金を借りるに違いない。コネのある者がいつも得をする。彼女がおねだりをしたら、奏も多少は貸してやるだろう」

周防子遠は首を振った。「あの女にはそんな度胸ないだろう」

武田一郎はコーヒーを一口飲んで笑った。「昨日の彼女はいい芝居を見せてくれた。俺たちの目の前で、47年物のワインを割り、直美とやり合ったよ。見た目が弱いようだが、内面では直美よりも肝が据っている」

「いいだらう。乗った」

「で、賭けというのは?」

「俺が負けたら、一か月分のコーヒーを奢ってやる。だがお前が負けたら、社長課の全員に一か月分のコーヒーを奢るということでどうだ?」

「オーケー」

午後、とわこはあらゆる銀行に電話をした。

現実は、副社長が言うよりも残酷だった。

とわこは計8社の銀行に電話をかけ、そのうち六社には、まだ返済していない借金があった。

残りの2社も当然、金を貸すはずがない。

「とわこさん、これが新商品の詳細資料です。この商品は将来有望です。私のほうで、その2社の銀行支店長を商談に持ちかけます。とわこさんはきちんと準備して、正式に話し合いをしましょう」

田中は分厚い資料の束をとわこの前に置いた。

「どうして準備が必要なんですか?今のままではダメですか」ととわこが尋ねた。

「化粧していないでしょう。顔色が悪いです。職場でのすっぴんは失礼にあたりますよ」

「まずは商品の資料を読みます」

「わかりました。支店長の方に連絡を取って、決まったらお知らせします」

夕方6時。

正確な情報が周防子遠のもとに届いた。

「武田さん、俺達の負けのようだね。」周防子遠が言った。「とわこさんは三千院グループを諦めなかった。意外だよな。それに、江の城銀行とサンシャイン銀行の支店長と晩餐の約束をしたそうだ」

武田一郎はがっかりしていた。「あの二つの支店長は有名なエロジジイだ。三千院とわこはまさに鴨がネギを背負って行ったようなもんだ!まぁ、まだ大学も卒業していないし、世間知らずだよね。ただどうして奏のところに来なかったんだ?百歩譲っても、奏は一応旦那さんだろう。奏があのジジイどもよりマシじゃないのか?」

周防子遠はひそかに奏の表情を伺った。

うわ、酷く暗い。

何があろうと、とわこはまだ名義上の奏の妻だ。

今晩あの二人のジジイの会食することになれば、奏の顔も潰される。

社長の嫁がもうすぐ食わされるのを想像するだけで、子遠は息苦しいを感じた。

とわこがもし本気で二股したら、きっと痛い目に遭うに違いない。

「常盤様、とわこ様に電話をしましょうか」悩んだ末、子遠は恐る恐る提案した。

奏は指を握り締めて、乾いた声で話した。「連絡するな」

とわこが本当に陰で何をするのか、見届けてやろうと決めたのだ。

武田一郎は軽く咳払いをした。「飲みに行こうか?俺の奢りで」

奏は暗い顔でパソコンを閉じ、車椅子を動かした。

用心棒もすぐに後を追い、彼が離れるのを護衛した。

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    30分後,奏は薬の効果で深い眠りに落ちた。彼が眠ったことで、とわこはかえって眠れなくなった。彼が来てからの出来事を一つひとつ思い返した。彼がそばにいるだけで、毎日が楽しく、眠りの質も良くなり、食欲も増した。彼も同じ気持ちだと思っていたのに、まさか不眠に苦しんでいたなんて。何とかしてあげたい。でも今できるのは、せいぜい薬を用意することくらい。これからの日々、もっと彼を大切にし、たくさんの愛を注ごう。一日では足りないなら、一ヶ月、一年......いつかきっと、彼の心に残る結菜への後悔を和らげてあげられるはず。翌朝、奏が目を覚ましたのは午前十時だった。彼が部屋から出てくると、とわこはすぐに彼を食堂へ連れていった。「ご飯を食べたら出かけるわよ。子どもたちも一緒にね」彼女はすでに今日の予定を決めていた。奏は窓の外を見た。「今日はあまり出かけるのに向かない天気じゃないか?」外は霧がかかり、視界が悪く、車の運転がしづらそうだった。「この辺りの冬に霧が出るのは珍しくないわ。ゆっくり運転すれば大丈夫よ」とわこは気にする様子もない。「何かイベントでもあるのか?」彼女がここまで乗り気なのだから、付き合わないわけにはいかない。「別に遊びに行くわけじゃないの。今日は家族写真を撮りに行くのよ」彼が断らないことを分かっている。「すでにカメラマンの手配も済ませておいたわ」奏は目を伏せ、少し考えてから尋ねた。「蓮も一緒か?」「もちろん!家族写真なんだから、誰一人欠けちゃだめでしょ?」彼が気にすることを分かっていたとわこは、続けて説明した。「蓮はあなたのことが苦手かもしれないけど、私やレラ、蒼のことは大好きなの。ちゃんと話せば、だいたいのことは聞いてくれるわ」彼女の言葉には、「息子は自分に甘い」という誇らしげな気持ちが滲んでいた。奏はそんな彼女を微笑ましく思うと同時に、自分の額の傷が気になった。「この傷、写真映えを悪くしないか?」「肌色の包帯で巻き直せばいいし、後でカメラマンに修正してもらえるわ。それに、私は今のあなたも十分カッコいいと思うけど?」彼女はさらりと褒めた。「もともと顔がいいんだから、坊主にしたってカッコよさは隠せないわよ」彼女の言葉に、奏は笑って、心の中まで温かくなった。たとえ空から刃が降ろうとも、今

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第835章

    彼の目は赤くなっていた。「それに睡眠薬も」「そんなにひどい不眠症なの?」彼女は乱れた髪を掻き上げながら言った。「昨夜はどうやって寝たの?一昨日は?まさか毎晩眠れないわけじゃないでしょうね?」話しながら、彼女は布団をめくり、ベッドから降りた。もし薬を飲まなければ眠れないのなら、彼女は薬を買いに行かなければならない。「昨晩からだ」彼は彼女を心配させたくないので、軽く言った。「おそらくこの二日間が幸せすぎて、結菜のことをよく思い出すんだ」「結菜が亡くなったことがあなたにとって大きな打撃なのはわかる。でも、奏、前に進まなきゃ。もし結菜がまだ生きていたら、きっとあなたがこんなに悲しむのを望まないはずよ」彼女はコートを羽織りながら言った。「普段飲んでいる薬、名前覚えてる?それとも私が買いに行こうか?」「一緒に行こう」彼はベッドから起き上がり、立ち上がった。「いいえ、あなたは横になってて」彼女は彼を再びベッドに押し戻した。「薬局はもう閉まってるから、病院に行かなきゃ。すぐに戻るわ」「とわこ、アメリカにはこんなに知り合いがいて、生活もこんなに便利なのに、どうしてこっちに住まなかったんだ?」彼は尋ねた。「こっちがどんなに便利でも、私の故郷ではないもの」彼女は冗談っぽく言った。「実は、国内にもたくさんの知り合いがいるの。ただ、彼らはあなたほどすごいわけじゃないから、あなたは彼らを知らないだけよ」「ボディガードを連れて行かせろ」「あなたは横になって休んでて、心配しないで」彼女はバッグを持ち、部屋を出て行った。彼女の背中を見送りながら、彼は心の中で静かにため息をついた。幸せな日々がもうすぐ終わりを迎えるから、夜も眠れずに苦しんでいた。その原因はわかっている。しかし、どうしても解決できなかった。彼はまだ、帰国するときにどう彼女に別れを告げるかを考えていなかった。目を開けたまま、天井をぼんやりと見つめ、白い光が彼の目を差し、目が痛くなった。突然、冷たい液体が耳元に落ちた。彼は手を上げて涙を拭い、目を閉じた。四十分後、とわこが薬を持って戻ってきた。彼女が帰ってきた時、千代が部屋から出てきて、こんなに遅くに何をしていたのかを尋ねた。彼は部屋の中で、彼女たちの会話をすべて聞いていた。しばらくして、彼女が薬と水を持ち、

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第834章

    一郎は息を呑んだ。彼は内心の苛立ちを必死に抑えながら、直美の襟をつかみ、大声で問い詰めた。「直美!何をデタラメ言ってるんだ?!奏がなんで君と結婚するんだよ?今はとわこと一緒だろ!結婚するなら、とわこに決まってる!」直美はくすっと笑った。「今、彼がとわこと一緒にいることは知ってるわ。だって、子どももいるし、当然よね。でも、私は気にしない。彼の心を手に入れられなくても、彼の体さえ手に入れれば、それで十分よ」一郎は鼻で笑い、彼女の襟を乱暴に放した。「顔が傷ついたショックで妄想に取り憑かれたんじゃないのか?奏が君と結婚する?そんな大事なこと、なんで僕が知らないんだ?」「だって、結婚するのはあなたじゃないもの。あなたが知らなくても普通でしょ?」直美は空になったコップをテーブルに置き、少し落ち着いた声で続けた。「一郎、私はあなたを友達だと思ってるから、この話をしてるのよ。あなたはもう私を友達と思っていないかもしれないけど、私にとってあなたは......」「黙れ!」一郎は彼女の言葉を遮った。「こんなことを俺に言って、どうしたいんだ?味方につけたいのか?それとも、また利用するつもりか?」直美は笑って首を振った。「利用なんてしないし、あなたを感動させようとも思ってないわ。顔を失ってから、私の周りにはほとんど友達がいなくなった。家族も私を見放して、三木家の恥だとまで言ってる。でも、あなたなら会えると思ったの。だって、あなたは私を馬鹿にしたり、傷つけたりしないでしょ?」「こんなに落ちぶれてるのを見ると、さすがに同情するよ。でも、奏と結婚する話を聞いた途端、その同情も吹き飛んだ!」「一郎、私は正気よ」直美は彼の顔をじっと見つめ、静かに言った。「今、奏はとわこと幸せに過ごしてるでしょ?だったら、少しの間、そのままにしてあげて。せめてあと数日」一郎は嘲笑した。「はっ、君が正気なら、僕が狂ってるか、もしくは奏が狂ってるってことだな!」「もし私の顔が以前のままだったら、あなたはそんなに怒らなかったでしょ?前は、『最高の男と結ばれるべきだ』って言ってくれたわよね?それに、『奏とはお似合いだ』とも」直美は苦笑した。「でも、私がこの顔になった途端、あなたはそう思わなくなった」「直美、それが理由だと思ってるのか?もしとわこの顔に傷がついたとしても、それでもとわこ

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第833章

    「一郎、母さん、病気で意識が混乱してるんだ。さっきの話、絶対に誰にも言わないでくれよ!」子遠は今にも崩れそうな表情だった。「もし社長に知られたら、クビになるかもしれない!」一郎は涙を流しながら笑った。「子遠、落ち着けよ。おばさん、全然まともじゃないか?マイクと付き合うのに反対してるのは、マイクが貧乏だからって理由だろ?だったら、マイクにもっと稼がせればいいだけの話だ」子遠は首を振った。「母さんはね、マイクは友達としてはアリだけど、恋人としては絶対ダメって言ってる。顔がまさに女たらしそのものだからだってさ。これ、母さんのセリフだよ」「ははははっ!さっきおばさんがボケたって言ってたけど、どう考えてもめちゃくちゃ冷静じゃねぇか。そんなに落ち込むなよ、とにかくまずはおばさんをしっかり看病しろ」「うん、一郎、今日時間ある?マイクの様子を見に行ってくれないか?二日間ほったらかしにしてたから、たぶん爆発寸前だと思うんだ」子遠は眉をひそめた。「僕は病院から抜けられないし、正直、どう話せばいいかもわからない」「心配すんな、行ってくるよ」一郎は病院を出ると、車を走らせて館山エリアの別荘へ向かった。予想通り、マイクは家で昼夜逆転の生活を送っていた。「アメリカに戻るつもりか?」一郎は持ってきた朝食をテーブルに置いた。「とわこが帰ってくるなって言うんだよ」マイクはソファに寝転がったまま、不満そうに言った。「俺がおばさんを怒らせて病気にしたってさ。だから、おばさんの具合が良くなるまで待てって」「なるほど。もうかなり良くなったぞ。そんなに落ち込むなよ。向こうの両親は君のことをよく知らないし、誤解してるんだ。そのうち分かってくれるさ。それに、とにかく稼げばいいだけの話だ」「俺だって元気出したいよ!でも子遠が無視するんだ、あのクソ野郎!」「親にめちゃくちゃ怒られてたからな。少しは察してやれよ」一郎はタバコに火をつけ、ふっと煙を吐いた。そして、軽い口調で話題を変えた。「そういえば、奏ととわこ、ヨリ戻したんだろ?とわこがInstagramに指輪の写真をアップしてたぞ」マイクは驚いて飛び起きた。「えっ、聞いてないぞ!?携帯も見てなかったし!」「2月14日はバレンタインだったからな。二人で一緒に過ごしてたみたいだ。指輪だけじゃなく、二人のツーショットまで載

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第832章

    彼女は指に輝くダイヤの指輪を見つめ、目が潤み、感情が込み上げてきた。彼の胸に飛び込み、ぎゅっと抱きしめた。「この指輪、いつ買ったの?毎日一緒にいるのに、どうして気づかなかったの?」彼は今日がバレンタインデーだと知らないのかと思っていた。朝から先ほど彼にバレンタインデーだと伝えるまで、彼はまったく気配を見せなかった。「この前ネックレスを買ったとき、ついでに指輪も見ておいたんだ」彼は説明した。「今日が何の日か分からないなんて、そんなことあるわけないだろ?」数日前からバレンタインデーのマーケティングが盛んになっていた。今朝スマホを開けば、関連ニュースが次々と飛び込んできた。「もし私がさっきバレンタインデーの話をしなかったら、いつ指輪をくれるつもりだったの?」彼女は腕をほどき、少し赤くなった目で彼の端正な顔を見つめた。彼は彼女を見つめ、かすれた声で言った。「君が我慢できずに言うだろうって分かってた。昼にカレンダーを見てた時から、ずっと待ってたよ」彼女は笑いながら、少しむくれた様子で言った。「もっと自分から言ってくれてもいいじゃない!なんで私に言わせるのよ!」「俺が自分でつけたんだから、それで十分じゃないか?」彼は彼女の手を包み込み、優しく握った。「とわこ、これからどうする?」とわこは通りを行き交う人々を眺め、幸せそうに笑った。「こうして街を歩くだけでいい」彼女は、このダイヤの指輪をはめ、バラの花を抱え、愛する男性と手を繋いで歩く姿を、すべての人に見せたかった。彼女は世界中に宣言したかった。今、私は世界中で一番幸せな女性だと。日本。子遠は母親をA市で最も設備の整った病院に移し、入院治療を受けさせた。一郎はその知らせを聞き、すぐに病院を訪れた。子遠の母は意識を取り戻していたが、まだ精神的には不安定だった。「一郎、息子はどうしてこんなことになったの?」子遠の母は涙を浮かべながら話し始めた。「彼の上司はこのことを知っているの?私が奏に話をつける!」子遠は隣で、母親に説明しようとしたが、母親は今のところ何を言っても聞き入れないだろうと悟った。彼は自分の感情が爆発し、言葉がきつくなれば、母親の病状が悪化してしまうのではと恐れた。一郎は子遠に目で合図し、黙っているように促した。子遠は背を向け、大き

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第831章

    「子どもも連れて行くのか?」奏は自然とそう尋ねた。とわこは彼の顔を見つめながら聞き返した。「あなたは連れて行きたいの?それとも連れて行きたくないの?」彼の本心が読めなかった。「連れて行きたい」子どもを抱っこするのは楽ではないが、一緒にいると幸せな気持ちになる。だから「子育ては大変だけど幸せだ」って言うんだな。「でも今日は二人で行きたいの。行きたい場所があるのよ」彼女はそう提案した。「どこへ?」奏はポケットに手を入れながら言った。「でもその前に、子供に聞かないと。もし嫌がったら置いていく。でも、ついて来たがるかもしれないだろ?」「私の大学よ。ちょっと待ってて、子供に話してくる」とわこはそう言って子ども部屋へ向かった。少しして、彼女は小走りで戻って来ると、奏の腕にそっと手を絡めた。「レラが『美味しいもの買ってきてね』って。それじゃ、行こう!」とわこは車を走らせ、自分が大学院時代を過ごした母校へ向かった。そこは世界的に有名な医学部だった。「ここに通ってた頃は、もう臨月だったんじゃないか?」奏は彼女と並んで、広々としたキャンパスの道を歩いた。時折、学生たちが自転車で通り過ぎていく。この時期、アメリカでは普段どおり授業が行われていた。「正確には、出産してから通い始めたの」とわこは彼の大きな手をぎゅっと握った。「私たちの間には、あまりにも多くの後悔があるの。もう二度と、あんな風になりたくない。あなたと喧嘩するたびに、どっちが悪いとか関係なく、心が引き裂かれるような思いをしてた」奏は喉が詰まったように感じ、かすれた声で答えた。「俺もだ」「若かった頃は、感情に振り回されてばかりで、何事も主観的にしか見られなかった」彼女は悔しそうに続けた。「ここで学んでいた時、あなたのことを思い出すたびに、憎しみの気持ちでいっぱいだった。でも今日は、そんな気持ちを全部手放したくて、あなたを連れてきたの。私たち、やり直せるよね?」奏の目が熱くなり、涙があふれそうになった。彼はとわこの手をぎゅっと握りしめ、その涙をこらえた。「奏、今日はバレンタインなの」前を歩く女の子が花束を抱えているのを見て、とわこは羨ましそうに言った。「だから、今日はあなたと二人きりで過ごしたいの」奏は喉を鳴らし、短く答えた。「じゃあ、花を買ってくる」「

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第830章

    千代がすぐに水を持ってきて奏に差し出した。とわこは慌てて奏の背中をさすりながら声をかけた。「ゆっくり食べて。食べ物が気管に入ったのね?」瞳は疑わしげに彼を睨みつけ、不審そうに問い詰めた。「奏、なんか怪しいわね。裕之の婚約者って、もしかしてあなたが紹介したんじゃないの?」その問いに、とわこは思わず背中をさする手を引っ込めた。奏は半分ほど飲んでいた水を一気に飲み込み、否定するように首を振った。「違う、俺はあの婚約者のことなんて知らない」「ふーん。じゃあ、なんでそんなに動揺してんのよ?」瞳は冷たく鼻を鳴らし、とわこに向き直った。「もし奏が他の女と結婚するってなったら、私は絶対に冷静でいられないわよ!邪魔しに行かないだけでも感謝してほしいくらい!」とわこはこくりとうなずいた。「そうだよね。だから私も裕之の結婚式には行けないよ。お願い、瞳、許して」「でも、裕之と奏は違うのよ」瞳は真剣な表情で言い切った。「私が裕之を振ったんだから、彼が他の女と結婚するのは仕方ない。でもあんたと奏は違うでしょ?」「どう違うの?私だって、彼と別れるときはいつも私から言い出してたわよ」とわこがそう言うと、奏は微妙な顔をしながらも黙って聞いていた。「ぷっ、でもあんたたちには子供がいるじゃない。もし私と裕之に子供がいたら、他の女が入り込む余地なんてないわよ」瞳は笑いすぎて涙が出そうだった。「どんなに喧嘩しても、他の女と結婚なんてさせない!そもそも、あんたが他の男と結婚しない限り、奏が別の女と結婚するなんてありえないでしょ」奏は残っていた水を飲み干し、ようやく冷静さを取り戻した。二人の会話を聞いているうちに、直美との結婚がどれだけの波紋を呼ぶかが、ぼんやりと頭をよぎった。「どうしたの?まだ食べ終えてないじゃない」とわこが声をかけると、奏はようやく箸を持ち直した。「うん」千代が気を利かせて声をかけた。「ご飯、おかわりしましょうか?」奏は首を振った。「いや、いらない」とわこは不思議そうに眉をひそめた。「別に裕之の悪口なんて言ってないよね?どうしたの、魂抜けたみたいだけど」瞳は奏をちらりと見て、皮肉を込めて言った。「まさか、あんたが裕之にアドバイスして女を見つけろって言ったんじゃないわよね?」奏は冷静に答えた。「俺は他人のプライベートに興味

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第829章

    「たとえ子供が理解できないとしても、恥ずかしくないの?」「恥ずかしかったら、そもそもこの子はいないだろう?」その反論に、とわこの頬が一気に赤く染まった。彼女は急いで服を着替え、バスルームへと駆け込んだ。階下のリビングでは、瞳とレラがお菓子をつまみながら話していた。「ねえ、レラのパパ、私が来たら全然出てこないけど、歓迎されてないのかな?」瞳が冗談めかして言うと、レラはすぐに首を振った。「パパはきっと歓迎してるよ!ただ、ママが寝てるから、きっと部屋でママを見てるんだと思う!」「ママの寝顔なんて見てどうするの?起こしちゃわない?」レラは少し頭をかきながら、なんとか父を弁護しようと考え込む。そのとき、とわこがリビングに現れた。「瞳、いつ来たの?昨日遊びすぎて寝過ごしちゃった」とわこは瞳の前に来て説明した。「ただ花火を見に行っただけで、そんなに疲れる?」瞳は興味深そうにとわこを見つめた。「で、奏はどうしたの?私が来たからって、わざと避けてるわけ?」「あなたが嫌がると思って、部屋で子供の面倒を見てるの。何考えてるのか、私もよくわからないけど」「ふふっ、何を怖がってるか、私にはわかるけどね」瞳は無理に笑みを浮かべたが、その表情にはどこか陰りがあった。「聞いたよ、裕之がお見合いしたって。相手の女性、私より条件がいいらしい。家柄も私より上で、上品で落ち着いた人だって」とわこは驚きで固まった。「そんなに早く?家族と揉めて絶縁したって聞いてたのに、いつの間に仲直りしたの?」「前に私と喧嘩した後、実家に戻って和解したらしいよ。私に感謝してほしいくらい。私がいなきゃ、あのまま目が覚めなかったかもしれないし」瞳は綺麗に化粧をしていたが、心の中の痛みを隠しきれないようだった。「婚約者ってことは、もう正式に付き合ってるの?」とわこはその展開の速さに頭が追いつかず、混乱しているようだった。「うん。結婚式の日取りも決まったって。知り合って以来、あいつがこんなにテキパキ動くの初めてだよ。成長したもんだ」瞳が無理やり作った笑顔が、かえって痛々しかった。他の人にはわからなくても、とわこにはわかる。彼女がどれだけ裕之のことを引きずっているか――それが痛いほど伝わってくる。けれど、長引く痛みよりも、いっそ潔く終わらせたほうがいい

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