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第67話

彼はその話を持ち出すべきではなかった。氷川颯真は後悔して自分の頭を叩いた。しかし、もう後には引けなかった。このことを、すでに橋本美咲に伝えてしまった以上、今さら時を巻き戻すことはできなかった。仕方なく話を続けるしかなかった。

「この前、美咲ちゃんの健康診断のときに、医者に血液サンプルを採取してもらった。そのDNAを橋本美奈と橋本月影の毛髪から、採取したDNAと比較したところ、君たちには血縁関係がないことが分かったんだ」

この言葉を颯真はどもりながら言い終えた。初めて自分の口が自分の物ではないように感じた。

やっとのことでこの結論を伝えた後、氷川颯真は緊張しながら橋本美咲を見つめた。ショックで気絶しないか心配だった。

橋本美咲はしばらく呆然としていた後、ようやく思考が再開した。そして、淡々と「そう」とだけ言った。

逆に氷川颯真は橋本美咲のこの反応に驚いた。「美咲ちゃん、その反応はあまりにも冷静すぎないか?」

橋本美咲は首を振った。「他にどんな反応をすればいいの?悲しむべき?」

氷川颯真は困惑した。「え、そうじゃないの?」

「それは普通の人ならの話し」橋本美咲は仕方ない様子で氷川颯真を見つめた。

美咲は指を一本伸ばし、氷川颯真の頭を軽く突いた。「橋本家は私に良くしてくれなかった。普通に育ててくれただけで、特別な待遇はなかった。私は子供の頃から疑問を持っていたわ。同じ母親なのに、橋本美奈の私と橋本月影に対する態度が全く違っていた。今このことを教えてくれたおかげで、心の中に一つの答えが得られたわ」

氷川颯真は慎重に橋本美咲を引き寄せ、抱きしめた。彼は自分の顎を美咲の頭の上に置き、少し塞ぎ込んだ声で言った。「本当に辛くないの?無理しないで、泣きたかったら言ってくれ。僕はいつでも美咲の支えだから」

橋本美咲は首を横に振った。「ううん、本当に辛くないの。本当だよ」

しかし、美咲がそう言えば言うほど、氷川颯真は彼女が辛いのだと感じた。明らかに自分を慰めようとしていたのだと。自分に心配させたくないから、そう言った。妻があまりにも健気で、見てるだけで心が痛んだ。

氷川颯真は理性的に、それ以上のことを尋ねず、ただ抱きしめ続けた。「奥さん、もう少しだけ抱きしめさせて」

橋本美咲は頷いた。

実際、橋本美咲の心はそれほど辛くなかった。氷川颯真が自分が橋本家の娘では
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