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第199話

氷川グループのスタッフは電話を切られた後、どうするべきか迷っていた。果たしてこの情報を氷川さんに伝えるべきなのか、それとも黙っているべきなのか。

相手の男性が言った通り、もしこの情報を氷川さんに伝えなければ、後で本当のことが判明した時に、自分が氷川さんの怒りを買うかもしれないという不安があった。

スタッフは思い切って、氷川に直接繋がる電話をかけることにした。この番号は通常、上司しか使わないもので、普通のスタッフは知っていてもかけることを躊躇した。しかし、彼女は今回初めてこの番号を使う決意をした。

少し恐れながらも、彼女は電話をかけた。

すぐに電話が繋がり、氷川の冷静で鋭い声が返ってきた。「何の用だ?」冷たい声に彼女の心は動揺した。

この情報を伝えた後、果たして自分は解雇されるのではないかという不安が頭をよぎた。

彼女は恐る恐る話し始めた。「氷川さん、先ほど、ある電話がありました。相手は須山啓太と名乗り、氷川さんの奥様が交通事故に遭い、現在富士病院にいるので、急いで来てほしいと言っていました」

電話の向こうで一瞬の沈黙が流れ、次に物音がして、焦った社長の声が響いた。「今、何て言った?彼女が事故に遭ったって?」

スタッフは一瞬背筋が凍りついたが、氷川に受け取ったばかりの情報を伝えるしかなかった。「はい、さっき電話をかけてきたのは須山という方で、夫人と一緒に…」

話し終わる前に、電話は切れた。スタッフは、社長が白いシャツを着て、いつものスーツも身に着けず、ネクタイも乱れたままで、焦りの色を見せながら会社を飛び出していく姿を目にしただけだった。

須山は退屈そうにみかんを剥きながら、そっと美咲の穏やかな横顔を見つめていた。氷川颯真がまだ来ていなかったこの間、少しでも彼女を見つめたことができればと思っていた。だが、彼が来てしまったらもうそんな機会はなかっただろう。

須山がみかんを一つ剥いて、口に放り込んだ瞬間、「バン!」と音を立てて病室のドアが開いた。

須山は冷ややかに目を上げ、氷川の姿が目に入った。彼は無表情で「来たのか」と一言。

しかし、氷川はそれを無視して、美咲のベッドへと急ぐ。彼女の血の気のない唇を見た瞬間、彼の胸に後悔の念が走った。「美咲がこんな風になってしまうなんて、ほんの少しの間会わなかっただけなのに…」

その横で、須山が冷たく言い放つ
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