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第3話

氷川は平然とした表情で美咲に言った。「婚姻証明書は私が預かった」

彼は美咲の手から証明書を取り上げた。

美咲はきぬけしたように彼を許した。彼女は喉が少し動き、小さな声で聞いた。「あなたの名前は氷川颯真か」

先ほど婚姻証明書で彼の名前を不意に見た。

氷川颯真は美咲をちらっとみて「うん」と答えた。

しかし、氷川颯真の目に笑みが浮かんでいた。また、彼は山田に指示した。「山田、まず夫人を家に送ってくれ」

「夫人」と呼ばれた美咲は顔が赤くなっちゃった。

彼女は心の違和感を抑えようと手を振った。橋本月影のことを思ったら、氷川颯真に聞いた。「明日、一緒に結婚式に出てくれる?」

氷川颯真は軽くうなずいた、「いいよ」と応えた。そのあと、彼はまず車に乗り込んだ。

彼が勝手に同意した。これに美咲は思わなかったことだった。

まさか自分が彼の妻になったから、わがままな振る舞いも気にしないの?

「入れ」

車の中から低く心地よい声が伝えられた。

ぼんやりした美咲は躊躇なく車に乗り込んだ。だが、車内は息苦しい沈黙に包まれていた。

約三十分走ったところで、山田がその沈黙を破った。「夫人、ご自宅はどちらですか?」

我に返った美咲は住所を山田に教えた。

それを聞いた氷川は少し眉を上げた。彼女が住むところは自分の別荘から遠くなかった。

橋本家の前に、車はゆっくりと止まった。

降りた後、美咲は氷川に手を振りながら言った。「氷川颯真、また明日」

初めてフルネームで呼ばれた氷川は一瞬に反応できなかった。しかし、彼女に呼ばれたら、意外に心地よく感じた。

彼は軽くうなずいた。

「今日は一体どうしたんだ。氷川さんは見知らぬ女性と結婚しただけでなく、名前を呼ばれても怒らないどころか、むしろ嬉しそうに見えた」と山田は生汗をかきながら心の中で呟いた。

しかし、一方、目の前の家は、見慣れていたはずなのに、今日はどこか違和感を感じた。昔の暖かい家は、今も怖くなってしまった。それでも、美咲は深呼吸して自分を落ち着かせ、家の中に入った。

少女が何度も自分を落ち着かせようとしていた様子を見た氷川は少し目を細めた。

車が動き出すと、氷川は山田に指示を出した。「帰れ、その後、彼女の家族のことを調べてくれ」

「かしこまりました」と山田は応じた。

「お嬢様、お帰りなさい」召使いの中村村子は美咲に声をかけた。「ご主人様と奥様がリビングでお待ちです」

美咲はうなずいて無表情でリビングに行った。

リビングに座った両親を見ると、美咲の心は次第に冷えていった。

若々しい中年の婦人が少し緊張した様子で美咲を見ながら言った。「美咲、妹と拓也のことを知ったの?」

両親の前に座った美咲はそれを聞いた後、冷ややかな目つきになった。「お父さん、お母さん、月影と拓也のこと、前から知ってたんでしょ?」

娘の質問に対して橋本海人は少しぎこちない表情で苦しそうにうなずいた。「美咲…」

「美咲、明日は月と拓也の結婚式。絶対に参加してね!」母は夫の言葉を遮り、期待のこもった表情で長女の美咲を見つめた。

美咲は両親を見ながら、彼らの要求に驚かされた同時に心の中で嫌悪感が湧き上がった。

橋本海人も妻に賛成した。彼は嘆いて美咲に言った。「美咲、月は小さい頃から体が弱かった。お姉さんとして妹を少し譲るのは当然だろう。あなたももっとふさわしい人に出会えるから」

また同じような理由では、本当に耳タコになった。

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