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第8話

「ええ、わかりました」と松本さんは答えた。氷川さんがなぜ夫人に知らせないように言ったのか理解できなかったものの、彼女にはそれに従うしかなかった。

この部屋に入った瞬間、美咲の目に映ったのは灰色の世界だった。

壁も床も、そしてベッドまでもが灰色で統一されていた。

部屋の全体はシンプルで洗練されていながら、どこか贅沢さが漂っていた。

忙しい一日を終えた美咲は、やっとホッとした。彼女はスリッパに履き替え、浴室に入った。

部屋のインテリアは全て灰色に統一されており、灰色の床を見ても彼女は特に驚いたことはなかった。

彼女は温かいお湯が張られた浴槽に全身を沈めた。湯の温もりが疲れ切った体をゆっくりとほぐしていたのを感じた。

深く息を吐き出し、浴槽の中で目を閉じ、そのままの姿勢でリラックスした。

お湯が冷める頃、彼女は浴槽からゆっくりと立ち上がり、シャワーの下でしばらく体を洗った。そして、手近に置いてあったバスローブを手に取り、そっと体にまとった。

美咲は身長百六十八センチなのに、このバスローブは足首まで届くほどの大きさだった。まるで体全体を包み込むような感覚だった。

部屋には広々としたダブルベッドと居心地の良いソファーがあった。美咲は最終にソファーで休んだことに決めた。

ソファーはふかふかで、彼女は知らぬ間に目を閉じ、意識が次第に遠のいていった。

ちょっとだけ仮眠するつもりだったのに、そのまま深い眠りに落ちてしまった。

一階の応接室で、二十分後にドアをノックする音が響いた。氷川はすぐに立ち上がり、ドアを開けに行った。

息を切らしながら山田がやっと到着し、二つの服の入った袋を彼に差し出した。

氷川は無言でその袋を受け取り、「バタン」と音を立ててドアを閉めた。

山田はその場に立ち尽くし、呆然としていた。

氷川は二つの袋を持って二階に上がっていった。

寝室のドアが少し開いていたので、彼は軽く手を添えて押し開けた。

すると、ソファで眠ていた少女の姿が目に入った。彼女は化粧をしていなかったが、それでも美しさが際立っていた。

普段は人を寄せ付けなかった彼女も、眠っていた時はまるで無防備な子羊のようだった。

その愛らしい姿を見た氷川は自然に優しい微笑みを浮かべた。彼は足音を立てずに部屋に入り、服の入った袋をそっと彼女のそばに置いた。それが終わると、また静かに部屋を出て書斎へと向かった。

普段、書斎でパソコンを使って仕事をしている彼が、今回は何度も何度も美咲の家族に関する資料を読み返していた。

彼女のことを知れば知るほど、彼女に対した愛おしさが増していった。

こんなに素敵な少女なのに、このようにいじめられたとは!美咲、これから僕はあなたを守ったから、あなたはただ美しく咲き続ければいいんだった!

十時のところ、彼はやっと書斎を出た。美咲を起こさないように、彼はわざわざ靴を脱いで寝室に入った。

小さな椅子を持ってきて彼女の前に座り、顎に手をついてソファで幸せそうに眠っていた彼女をじっと見つめた。その寝顔を見て、彼は心が温かくなったのを感じた。

その時、彼は美咲が自分の大きなバスローブを着ていたことに気づいた。バスローブは彼女をしっかりと包んでいた。彼は、美咲の可愛らしくて子供のような行動を見て微笑んだ。

強烈な異質の気配を感じた美咲は眉をひそめたが、それを見た氷川は笑い声を上げた。

美咲は突然目を覚まし、隣にいた美しい顔に驚いて見つめた。

彼女は急いで起き上がった。彼の目には多くの感情が込められていたが、美咲はそれを読み取ったことができなかった。

「よく眠れたか?」氷川はたずねた。

美咲は少し恥ずかしそうにうなずき、自分が着ていたバスローブに目をやり、顔を赤らめて言った。「バスルームにはこれしかなかったの、あなたのをわざと着たわけじゃないんだ」

それを聞いた氷川は微笑みながら、横にあった二つの袋を指さした。「それは君のために用意したんだ。さあ、着替えておいで」

美咲は彼の話に応じて立ち上がったが、足元が不安定で前のめりになってしまった。

諦めて手をつこうとした瞬間、温かい腕に包まれた。

氷川はしっかりと彼女を受け止め、慌てて顔が赤くなった彼女を優しく見つめ、微笑んだ。

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