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第6話

氷川はそわそわした美咲の様子をじっと見つめ、瞳の中に一筋の光が瞬いていた。そして、彼は低い声で美咲にささやいた。「手をつないでいるだけだろう。あなたは今、僕の妻だ!」

彼女の目に不安な感情が一瞬見えた。また、その清らかな顔には警戒の色が浮かんでいた。「でも、私たち、まだお互いをよく知らないのに」

美咲の答えに、氷川は全く気にせず、むしろ微笑んで、「これから少しずつ知り合えばいいさ。安心して、僕が君を追いかけるよ。恋愛の素晴らしさを味わわせてあげる。僕が自ら追いかける女性は、美咲が初めてだった!」と言った。

だが、彼自身、女性をどう追いかければいいのか、恋愛がどんなものか全く分かっていなかった。彼は誇らしげな口調で話したが、美咲はその言葉に温かさを感じ、心がほっこりした。

「今まで、女性を追いかけたことがないの?」

「あなたは僕にとっての初めての彼女で、最後の彼女になる人だ!」

美咲は、その女性を虜にした魅力的な彼を見つめ、彼が自分だけを愛していたことに驚いた。

彼女は苦笑せずにはいられなかった。この言葉を過去に他の誰かに言われ、信じたことがあったが、その結果は裏切りによって彼女を深く傷つけた。

「あなたに言わなければならないことがあった。五年間愛していた人が、かつて同じことを言った。でも今、彼は私を裏切って別の女性と結婚しようとしていた。

「五年前、その言葉を信じてしまったから、私はひどく傷ついた。

「今、その言葉を私が信じられると思うか」

そんな話を聞いた氷川は眉をひそめた。「僕と、あのクズ男を比べているってこと?」

美咲は恥ずかしそうに笑った。「ごめんなさい、私が悪かった」

彼女の笑顔は、彼の心の奥深くに眠った温もりを目覚めさせた。彼は美咲の手を引いて店に入った。

彼女の心は、愛情の帆を掲げた小舟のようだったが、大きな不安の波がその船を揺らしていた。だから、彼女は再び不安の表情を浮かべた。

オーナーが突然店に現れたため、マネージャーは驚き慌てて氷川のところへ駆け寄ったが、話しかけた前に彼に止められた。

「個室に行こう」氷川はマネージャーに軽く一瞥を投げた後、美咲に振り向き、微笑んで尋ねた。「辛いものは大丈夫?」

美咲は軽くうなずいた。

黒崎拓也と付き合った時、彼の好みに合わせて、自分は辛い物を一切口にしなかった。

今、クズ男と別れた彼女は、もう自分を犠牲にしたくないと思っていた。

氷川はマネージャーに「準備を整えて」と命じた。

「はい、かしこまりました」

マネージャーが慌てて逃げ出したのを見た美咲は氷川を不思議そうに見つめて、「彼は氷川さんをとても恐れているようね?」と尋ねた。

「そうか?見間違いだろう」と氷川は無造作に言い、美咲を彼のために用意された個室へと導いた。

味のかけ橋がどれほど忙しくても、彼のための一番の個室が常に空けておかれていた。

席に着くと、氷川はスマホを取り出して仕事のメールに返信し始めた。

美咲がテーブルをティッシュでさっと拭くと、すぐにウェイターが茶器と二人分の食器を運んできた。

美咲はさりげなく食器を湯で洗い、お茶を用意した。

彼女は海外生活の三年間、何事も自分でやった。

病気の時も、注射を受けた時も、彼女は常に一人で立ち向かった。

彼女のことをよく知ったクラスメートたちは口を揃えて言った。確かに彼氏はいたけれど、彼女の日常は独身時代と何一つ変わらないと。

そうですね、黒崎拓也はいつも多忙を極めていて、自分の時間がほとんどないと言った。だからといって、彼は自分に自立を促し、自分のことは自分でケアするようにと促した。

美咲は苦笑いを浮かべて頭を振った。彼の忙しい日々は、すべて月影との愛の時間に捧げられていた。デート、ショッピング、そして二人だけの夜、彼のすべての時間が彼女との甘いひとときで埋め尽くされていた。

彼女は何の疑いもなく信じたのに、報われたことはなく、黒崎卓也に裏切られてしまった。

美咲の胸中には、思わず溜め息が出てしまった。

携帯をしまった氷川は、テーブルにすでに並べられていた六品の料理に目をやった。隣で何やら不満そうにため息をついていた女性に気づき、彼は眉間にしわを寄せて、やや心配そうに「料理の味がお口に合わないのかな?」と声をかけた。

美咲が我に返ると、すでにセットされている料理を見て、軽く首を振りながら、「ごめん、他のことを少し考え込んでいた」と謝った。

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