第2話

彼の鼻は高く、唇は薄く、剣のような眉は斜めに飛び出し、鬓の角に落ちる数本の黒髪の中に隠れていた。その顔は完璧に彫刻された芸術品のようだった。その眉を高く挑んだ姿勢は、見る者に強烈な圧迫感を与えた。

氷川の目は次第に深みを増していき、かすかに光った何かが一瞬閃いた。

彼女と目が合った瞬間、彼の心臓は驚くほど速く打ち始めた。

二十八年間で初めて、女に興味を持った。

彼の高い身体が前かがみになり、精巧に彫刻された顔が少女に近づき、「当たり屋か？」と尋ねた。

「わざと当たり屋なんかしてないわよ！憶測をたくましくするな！」我に返った美咲は怒りに満ちた声でやり返した。

彼は笑みを浮かべた。自分に向かって大声で叫ぶ人は初めてで、しかもこんなに小さな女の子だった。

大胆だと言うべきか、それとも愚かだと言うべきか！氷川颯真は微笑みながら、何事もなかったかのように言った。「当たり屋じゃないなら、お金は要らないよ！」その声はまるで山の中に静かに流れた小川のように、人の心楽にさせた。

でも、そんな話し方を聞いた美咲は言葉が怒った。

ハンサムな男なのに、品性に欠けたことは思わなかった。神様が与えた美しい容貌がもったいなかった。

美咲は断固として言った。「賠償しなさい！それは絶対に必要でしょう。だって、君の車にぶつけられましたから」

可愛い女を見ながら、氷川颯真はさらに気持ちよくなった。彼は楽ちんのように言った。「では、別の方法で償うのはどうだった？」

美咲はこのかっこいい男を信じられない表情で見つめた。

「それで、どうやって私の損失を償うの？」落ち着いた美咲は、容易に妥協した自分を見下した。

氷川颯真は気持ちよさそうにドアの方へ歩きながら美咲に言った。「ついてこい」

「ふん、あなたなんか怖くないわ！」と美咲は負け惜しみのように思った。しかし、病院を出て彼の車に乗った瞬間、彼女は後悔した。

自分がどうして見ず知らずの男の車に乗り込むことをしてしまったのだろう？

きっと黒崎拓也と橋本月影のせいだった！美咲はすぐにでも車を降りたかったが、反応する時間もなく車はすでに動き出していた。

でも、最も彼女を驚かせたのは、自分の情緒がこんな短い時間で不安定になったことだ。

普段には、自分の情緒を影響させることはめったになかったのに。

美咲は男を睨みつけた。「どうやって償うつもり？」と強く問いただした。

氷川颯真は気持ちを諌めた女の可愛い顔を見た。そして、彼は低く笑った。「いっそのこと、身を捧げるのはどう？」

「何ですって？」それを聞いた美咲は耳を疑うほど呆然とした。

氷川颯真は、足を組みながら美咲に言った。「反対しないと、今すぐ市役所に行こう」

美咲は彼を見つめ、まばたきをしながら「いいわ」と答えた。

相手は性格が悪いけれど、ハンサムなので、彼と結婚するのも悪いことではなかった。

ただ、日が暮れかかっていた。美咲は窓の外の空を見たあと、彼に尋ねた。「でも、私は戸籍謄本を持っていない」

氷川颯真は微笑みながら美咲に言った。「それは問題じゃない」

その後、彼はドライバーの山田に「市役所に行け」と指示した

氷川さんは知られたばかりの女と結婚するなんてありえないよ！山田はひどく驚かされたように言った。「でも、氷川さん…」

ところが、氷川の冷たい眼ざしをみた瞬間、山田はそれ以上何も言えなくなり、黙って市役所に向かった。

「数億円の契約儀式に行かないか」山田は心の中で叫んだ。しかし、山田はそれを言った勇気も失った。

…

市役所を出た時、美咲はまだ少しぼんやりしていた。このまま結婚した、しかも見知らぬ男と！