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第75話

長谷川千夏は、また電話の向こうで何かブツブツ言っているが、橋本美咲は聞き取れなかったし、聞き取ろうとも思わなかった。

聞き取れないなら、親友の責めの言葉も私に追いつかないわ。

美咲は、ためらうことなく電話を切った。長谷川千夏がまた耳元で何か言うのが怖かったのだ。

長谷川千夏は向こうで、ツーツーツーという話中音を聞いて、一瞬で怒りがこみ上げてきた。まったく、あのクソ男と一緒になってから、悪いことを覚えたね。少しでも話す機会を与えないなんて。

今日会ったら、しっかりと言い聞かせなきゃ。

ゆっくりと食事をしていた氷川颯真は、橋本美咲が電話を切ったのを見て、ナイフとフォークを置いた。「電話は終わったの?」

「終わったわ」橋本美咲はうなずいた。

「誰からの電話だったんだ?」氷川颯真の顔には危険な笑みが浮かんでいた。

「千夏よ」橋本美咲は少し不思議そうに答えた。「千夏が電話してきて、一緒に松坂デパートで、ショッピングしようって。どうかしたの?」

氷川颯真は困ったように頭を抱えた。最近、仕事が忙しくて、やっとのことで妻が空いている時間を見つけたから、キャンドルライトディナーに誘おうと思ったのに。まさか今度は、長谷川千夏が突然割り込んできて、妻をショッピングに連れて行ってしまうとは。

「いや、何でもないよ、奥さん。いってらっしゃい、楽しんでおいでね」

氷川颯真はどうすることもできなかった。結局、彼女を許すしか選択肢はなかった。

橋本美咲は茫然とテーブルに座って、何か奇妙な感じがした。まるで自分が古代の皇帝で、皇后と寵妃の間で、板ばさみになっているような気がした。

橋本美咲は考えた。氷川颯真という皇后を少しでも尊重することにした。美咲は椅子を動かし、颯真の隣に座った。「颯真、怒らないで。夜に帰ってきたら、映画を見に行こう」

「夜に帰ってきたら?」氷川颯真は呆れた顔で美咲を見た。「午後!午後に、必ず帰ってくるって、約束するよ」

橋本美咲はあと少しで、神様に向かって誓うところだった。わあ、氷川颯真ってこんなに宥めるのが、難しいなんて!彼女は心の中で、仕方なく愚痴をこぼした。

橋本美咲の誠意ある態度を見て、氷川颯真は渋々と美咲に言った。「じゃあ、奥さん、早く帰ってきてくれよ。夜の映画のチケットを予約するから」

「うん、うん」橋本美咲は何度も頷いた。

やっ
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