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第78話

火鍋専門店に入ると、橋本美咲はメニューを手に取り、店員に向かって言った。「鴛鴦火鍋を一つ、肉をたくさん、これとこれは要らない」

橋本美咲は手慣れた様子で、食べたくないものを全て除いた。

長谷川千夏は少し呆れたように、橋本美咲を見つめた。千夏はわかっていた。火鍋専門店に来ると、いつもこうなることを。

橋本美咲が注文を終えて、トイレに行ってる間に、千夏は再び店員を呼び止めた。「火鍋を出すときに、辛いスープを少し薄めて。それから、さっきあの女性がキャンセルした料理を、もう一度お願いするわ」

店員はこんな変わった客に初めて会ったが、優れたサービス精神のおかけで、顔を引き締めて頷いた。「かしこまりました、お客様」

長谷川千夏は周りを見渡した。橋本美咲がまだ戻ってきていないのを確認してから、店員にさらに指示を出した。「私たちをもっと、人目に付かない席に移して。できれば、他の人が何を食べているのか見えないように、あの子が、他の人のスープと自分のスープが違うことに気づくと、また騒ぎ出すので」

店員は笑いを堪えた。このお客様は、もう一人のお客様を思いやったことを理解した。そして、手際よく長谷川千夏を人が少ない静かな席へ案内した。

橋本美咲がトイレから戻り、元の席に来たとき、驚いた。長谷川千夏はどこ?何でがいなかったの?自分のカバンもなかった。

長谷川千夏が突然妙な方向から現れた。「美咲ちゃん、何を見てるの?こっちに来て」

橋本美咲は困惑した表情で長谷川千夏を見つめた。「私たちの荷物は?」

「向こうだよ」

長谷川千夏が指さす方向を見て、橋本美咲はその隅の席に眉をひそめた。「なんで急に席を移したの?」

長谷川千夏はニコニコしながら言った。「隅の席は静かで、誰にも邪魔されないから。それに、先ほど店員さんが、この席の調理器具を確認しに来たところ、鍋に少し問題があるようで、火がつかないみたいだわ」

橋本美咲はその説明を聞いて納得し、それ以上考えずに、長谷川千夏と一緒に隅の席に移動した。

しばらくして、火鍋が運ばれてきた。赤く輝くスープを見て、橋本美咲は待ちきれずに、エビ団子を辛いスープに入れて煮始めた。火が通った後、急いで口に入れた。

「あっ!」

「熱い!」美咲はエビ団子を吐き出し、可哀そうに氷水を飲んだ。

長谷川千夏は面白そうに橋本美咲を見つめた。「そんなに
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