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第47話

橋本美咲は不快そうに眉をひそめ、声のする方へ振り向いた。

ふん!黒崎拓也だった。

黒崎拓也は怒りに満ちた様子で、こちらに向かってきた。橋本月影を一気に自分の背後に引き寄せ、橋本美咲を怒りの目で睨みつけると、指を彼女の鼻先に突きつけた。

「橋本美咲、何をしているんだ?

「月影ちゃんを殴ろうとしたのか?こんな女だったとは思わなかった。以前はてっきり、おとなしい人だと思っていたのに、お前…」

「私が何?」

橋本美咲は呆れた顔で黒崎拓也の言葉を遮った。「橋本月影に何もしていないわ。どの目で殴ったのを見たんだ?」

激怒していた黒崎拓也はその言葉を全く聞き入れなかった。橋本美咲は罪悪感のせいで、彼の話を遮ったのだと決めつけた。

「どの目って?両方の目で見たさ!

「橋本美咲、どうしてこんなことができるんだ。どうあっても、月影ちゃんはお前の妹なんだぞ!」

「黒崎さん!」優雅で低い男の声が割り込んだ。

氷川颯真が悠然と歩いてきた。しかも、穏やかな雰囲気を纏っていた。

橋本美咲は少し苛立っていた気持ちが徐々に落ち着いてきた。対照的に、黒崎拓也は氷川颯真の存在に気圧され、先ほどの威勢が消え失せた。

「何の用だ?」拓也は少し口ごもった。

「別に何も」氷川颯真は橋本美咲のそばに歩み寄り、彼女の頭を軽く叩いて、安心させた。

そして、橋本美咲の前に立った。「ただ、黒崎さんが我が妻を根拠もなく中傷するのを見て、滑稽だと思ってね」

黒崎拓也は再び冷静さを失い、この男の強い気迫も忘れた。「根拠もなく中傷だと?コイツが月影ちゃんをいじめたのをこの目で見たんだぞ!」

氷川颯真は笑いを堪えた。こんなに無茶苦茶な人間を初めて見た。

「どうして橋本月影がうちの美咲ちゃんをいじめたとは言わないんだ?

「美咲ちゃんはただ反撃しようとしただけじゃない?」

「ありえない!」

黒崎拓也は即座に否定した。「月影ちゃんは優しい子だから。橋本美咲なんかとは違う!」

氷川颯真の目は冷たくなり、もう黒崎拓也に遠慮する気はなかった。颯真の良識は限界に達し、今にも殴りかかりそうだった。

「黒崎拓也、言葉に気をつけろ。妻を中傷するな。僕の妻は誰にでも中傷できるような人間じゃない!」

「お前の妻だと?」黒崎拓也は嘲笑した。「お前みたいなヒモ男が、何の資格があって、そんなことを言うんだ?」

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