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第53話

家の中で、氷川颯真は満足そうに箸を置いた。さすがは特級料理人の資格を持つ美咲ちゃん、作った料理は本当に美味かった。

橋本美咲はそんな氷川颯真の姿を見て、とても嬉しかった。どの料理人が、自分の料理が認められるのが好きではなかっただろうか。

氷川颯真が食事を終えた後、橋本美咲は皿を片付け始め、食洗機に入れようとした。

しかし、氷川颯真がそれを止めた。「奥さんがこんなに素晴らしい料理を用意してくれたんだ。皿洗いくらいは僕がやるよ」

橋本美咲の手が止まった。氷川颯真が以前料理をした時のことを思い出し、少し心配になった。「皿洗いできるの?」

氷川颯真は沈黙した。「奥さんは僕を見くびっているのか」彼は首を横に振った。「食洗機に皿を入れるくらいなら、僕にもできるよ」

それなら…橋本美咲も安心した。氷川颯真は生活能力が欠如していたわけではないし、皿を入れるくらいは問題なかっただろう…

すると、美咲は手を止め、氷川颯真が少しずつテーブルを片付ける様子を見守った。

多分彼が社長で、普段こういうことをしないせいか。動きは少しぎこちなく、遅かったが、大きな問題はなかった。

橋本美咲はそんな氷川颯真がゆっくりと作業を終えるのを見て、とても満足していた。この光景には生活感がとてもあって、彼女はこの雰囲気を楽しんでいた。

氷川颯真が皿を持ってキッチンに入ると、橋本美咲はようやく視線を戻した。

氷川颯真が皿を食洗機に入れている間、橋本美咲は一人でテーブルに座っていた。彼女は落ち着かない様子だった。元々じっとしていられる性格ではなかった。漫画を描く時だけが例外だったが。

仕方ない、家事でもしよう。

美咲は立ち上がり、ほうきを取りに行こうとした。

「秋の雨が一晩中の寒さをもたらし、誰が秋が別れの季節だと言ったのか。君の冷たい視線が私の心を奪った…」

電話が鳴った。

橋本美咲は電話を取り、見知らぬ番号を見て、眉をひそめた。

美咲は応答ボタンを押し、電話を耳に当てた。「もしもし、橋本美咲です。どちら様ですか?」

「恥知らずの小娘が!何日も家に帰らず、しかも私の番号をブラックリストに入れるなんて!」

橋本美奈の声だった。

橋本美咲は眉をひそめた。「お母さん…」

「まだ母親だと分かってるの!まだ覚えてる?私はとっくに忘れられたと思ったわ」

橋本美咲は表情を変えずに言
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