共有

第59話

橋本美奈はカフェに入ると、一目で氷川颯真が中央の席で待っていたのを見つけた。

彼女の顔にはすぐに媚びへつらうような笑みが浮かび、急いで氷川颯真の向かい側の席に座った。「婿さん、ようやく会えたわ」

氷川颯真は橋本美奈を一瞥し、ちょっと気持ち悪くなった。「この方、婿だなんて、とんでもないです」

橋本美奈は笑った。「冗談はやめてよ。美咲ちゃんと結婚したじゃないか?」

「この前、あなたは僕に娘を娶る資格がないと言って、200万円で追い出そうとしたじゃない」

橋本美奈は一瞬固まった。確かにそんなことを言った覚えがあった。

だが、彼女はどうあっても橋本月影の母親で、その厚かましさでは右に出る者はいなかった。すぐに、普段の態度に戻り、軽々と氷川颯真に言った。「それはただ美咲ちゃんを心配してのことよ。美咲ちゃんは昔から手がかかる子だから。どんな男が彼女を連れて行くか、分からないから心配だったの」

そう言うと彼女は少し間を置き、目の前に置かれたコーヒーを見ると、一口飲んでから話しを続けた。「しかし、今となって、娘が嫁いだのは氷川社長とわかって、安心したわ」

氷川颯真は、あからさまに打ち解けようとしてきた橋本美奈を、冷笑混じりの目で見た。「そうか。

「それなら、うちの妻は本当に世話になったね」氷川颯真は最後の言葉を強調した。

橋本美奈はその意味が分からず、氷川颯真の言葉に同意するように話を続けた。「世話だなんて、母親として当然のことをしたまでよ」

母親として当然のこと?氷川颯真の心には嘲笑が浮かんだ。橋本美奈をカフェに呼んだのは、橋本美咲のことのためだった。

元々、颯真は橋本美奈に、橋本美咲の心臓病が一体どういったものなのか、詳しく聞きたかった。しかし、橋本美奈は何も知らない様子だった。だから、颯真は目の前の気持ち悪い人に対する興味を失った。

妻のことを知らないなら、話すことは何もなかった。

氷川颯真は急に顔を曇らせ、橋本美奈に向かって遠慮なく言った。「僕に会いに来た理由は、大体見当がつく。もし黒崎グループの件なら諦めて。そこは譲れない。もともと他の話をするつもりだが、どうやら何も知らないようなので、今日はこれで終わろう」

氷川颯真は手に持っていた紅茶を置き、立ち上がって去ろうとした。

「ちょっと、婿さん、待って」

後ろの橋本美奈が氷川颯真を止めようと
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status