共有

第56話

調べれば調べるほど、専属医の心は冷えていくばかりだった。奥様の体がどうしてこんなにも悪くなったのか、社長は今になってようやく気づいたの?彼は手に持っていた聴診器を置き、顔色を曇らせながら氷川颯真を見て言った。「社長夫人の体はすべて検査しました。残りの血液サンプルも、検査所に送らせました。結果が出れば、すぐに結論を出せます」

医者の表情を見て、氷川颯真の心も沈んだ。颯真は焦りながら橋本美咲を見つめた。

橋本美咲は颯真の態度に少し不安を感じた。布団の中から手を伸ばして氷川颯真の袖を引っ張った。「颯真、私の身体に何か異常があるの?」

氷川颯真は心を落ち着かせ、橋本美咲の手を軽く叩いた。「大丈夫よ。大きな問題はないから、まずは寝よう。一眠りすれば、もう何も問題ないさ」

氷川颯真の優しい声に、橋本美咲の心は次第に落ち着いた。そして目を閉じた。

橋本美咲の呼吸音が徐々に安定してくるのを聞きながら、氷川颯真は彼女の布団を直し、医者に目で合図して外に出るよう促した。そして、静かに寝室のドアを閉めた。

橋本美咲に聞こえないことを確認すると、颯真は真剣な表情で医者を見つめた。「一体何の異常があるの?」

医者は顔を曇らせながら頭を振った。しかし、社長の焦りを見て、少し安心させようとした。「ご安心ください。奥様の問題は大きいと言えば大きいし、小さいと言えば小さいです」

この返答に氷川颯真は眉をひそめた。「一体何の異常だ?」

「多分、心臓に少し異常があります」

医者の答えに氷川颯真は驚き、心が一気に重くなった。「心臓の異常が問題じゃないって?!」

颯真は医者を信じられないような目で見つめ、思わず怒鳴った。「お前はどうやって医者をやっているんだ、これは小さな問題なの?」

医者は首を横に振った。「本当のことを言っているんです。社長、きついことを言ってると思わないでください。奥様の心臓の異常は先天的なもので、これまで大きな問題は出ていませんでした。ただ低血糖や貧血の症状が出る程度ですから、問題は大きくないと言えます。しかし、心臓に原因があるため、問題は大きいとも言えます」

医者は言葉を選びながら、目の前の医学を学んだことがない社長に理解してもらおうと努力した。「血液検査の結果が出れば、奥様の具体的な問題がわかります」

氷川颯真は沈黙し、うなずいた。颯真は医者ではなかった
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status