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第54話

次に、電話の向こうの声がどれほど図々しくても、橋本美咲は聞こえないふりをした。右から左へ聞き流した。

長々と話しても、橋本美奈は本題に入らなかった。明らかに美咲が口を開くのを待っていた。

橋本美咲は自分から言いたくはなかったが、しかし、これ以上時間を無駄にしたくなかった。それに、すでにキッチンのドアに寄りかかって、待っていた氷川颯真が見えたから。

美咲は橋本美奈の話を遮った。「それで、お母さんの言いたいことは何なの?颯真に頼みに行けってこと?」

橋本美奈の声は当然のように響いた。「もちろんよ。あなたの妹の夫の会社なのよ。美咲、どうしてそんなに弁えないの?家族は仲良くすべきだわ。

「仲良くするどころか、助け合うことも当然よ。どうして氷川社長に投資を断ち切らせて、さらにグループをブラックリストに載せたの?」

結局すべては美咲のせいにした。橋本美咲の怒りが頂点に達した。なんて図々しいのだろう。でも家に何年もいたのに、母親の本当の姿を見抜けなかったことが、吐き気を催すほど嫌だった。

電話をしてる相手がこれほど不快だったと思うと、橋本美咲は喧嘩する気力すら失った。冷淡な口調で橋本美奈に言った。「颯真に撤退を命じたのは、私じゃないわ。問題は黒崎拓也が颯真を怒らせたことよ。この件は颯真のプライドを傷つけたから、彼があなたの要求を呑むはずがないわ」

電話の向こうで橋本美奈が叫んだ。「橋本美咲!どういう意味?!あんたの妹とその夫が言ってたわ。あんたのせいで氷川グループが撤退したって。嘘をつくんじゃないわ。早く氷川社長に言って、その決定を撤回させなさい」

橋本美咲は冷たく笑った。耳元でハエがブンブン飛んでいるような音をもう聞きたくなくて、電話を切った。

電話向こうの橋本美奈は怒り狂った。そして、対面に座ってる橋本月影は哀れっぽく橋本美奈を見つめた。「お母さん、お姉ちゃんは何て言ったの?」

橋本美奈は美しくおとなしい娘を見て、怒りを抑えながら優しく言った。「大丈夫よ。あなたのお姉ちゃんのことは、お母さんがちゃんと対処するから。結果を待っていなさい」

橋本月影は目を伏せ、弱々しい声で言った。「私がお姉ちゃんを怒らせたせいだわ。お姉ちゃんは普段そんなにわがままじゃないのに、謝りに行ってくるわ」

「そんなことさせないわよ!」橋本美奈は怒りを顕にした。「彼女の責任だわ。
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