最後に、氷川颯真はやはり冷たいシャワーを浴びに行った。今後もこのような状況が減ることはなかっただろう。シャワーを終えた氷川颯真は、バスルームから出た。髪を自分のタオルで拭きながら、ベッドに大人しく座っていた橋本美咲に言った。「早く身支度しておいで」この言葉を聞いた橋本美咲は、ほっと息をついた。急いで氷川颯真のベッドから飛び起き、バスルームに駆け込んだ。橋本美咲が身支度してた途中。枕元で携帯の音が鳴り響いた。それは昨晩橋本美咲が氷川颯真の部屋に来たときに持ってきた携帯だった。氷川颯真が携帯を手に取ると、表示されていたのは「お母さん」だった。朝の気分が良かった彼の表情は一瞬で冷たくなった。颯真は電話に出ることなく、ただ音を小さくして、落ち着いて枕元に座った。バスルームにいた橋本美咲は特に異変に気づかず、自分の髪を整えることに集中していた。多分、昨日泣きすぎて、涙が髪に付いたせいか、髪がひどく絡まっていた。橋本美咲は長い間、髪を梳かそうとしたが、結局うまくいかなかった。諦めて、まずは髪を洗うことにした。出ていない電話は、そのまま切れた。氷川颯真は満足そうに微笑んだ。が、その直後に、うるさい電話が、まるで悔しそうに、再び鳴り始めた。氷川颯真はまだ自分を整えていた橋本美咲を見て、もう一度携帯を見て、最終的に電話に出ることにした。電話に出た途端、激しい罵声が聞こえてきた。「バカ娘が、すっかり生意気になったね。昨夜はよくも私の電話を切ったな!」氷川颯真は眉をひそめ、黙っていた。しかし、電話の向こうは氷川颯真が黙っていた間も話し続けた。「外でもう十分遊んだだろう。そろそろ帰ってもいいよね!「早く家に戻れ、あの野郎と離婚しろ。分かった?!「どうして黙ってるの?」多分、沈黙が長く続いたせいか。橋本美奈は痺れを切らして、せき立てながら、自分の期待通りの答えを迫った。その時、氷川颯真はようやく口を開いた。「美咲は今、シャワーを浴びている」電話の向こうは突然静かになった。そして、氷川颯真は相手が何か言う前に電話を切った。彼は橋本美咲の携帯の通話履歴から、不在着信の通知と先程の通話記録を削除し、ついてに橋本美奈の番号をブロックリストに追加した。朝っぱらから美咲ちゃんの気分を悪くさせるな!全てを終えた後、
橋本美咲と氷川颯真は静かに朝食を終えた。スタッフが皿を片付けた後、颯真は美咲の手を取った。「行こう、もう少し遊びに行こう」しかし、橋本美咲は一歩下がって首を横に振りながら、氷川颯真に言った。「ううん、急にちょっとした用事が思い出した」氷川颯真は少し不思議に思った。「何の用事?そんなに忙しくないはずよね?」彼は橋本美咲のスケジュールを思い返してみたが、確かに、今日は特に予定がないはずだった。本当は時間があったが、この前の嫌なことを思い出したせいで...橋本美咲は目を伏せた。その目には何も感情が見えなかった。「実は、最近会社のことが色々あった。しかも、数日間休んでいたから、これ以上放っておけないの」氷川颯真は納得した。「美咲の漫画会社のことか?」橋本美咲は頷いた。「わかった、じゃあ送るよ」休暇はいつでも取れるが、妻の大事な仕事を邪魔するわけにはいかなかった。氷川颯真はすぐに決断し、方向を変えて、橋本美咲を地下駐車場へ連れて行った。橋本美咲はまだ自分の会社のことを考えていて、足元の道には全く注意を払っていなかった。ただ氷川颯真に導かれたままで、地下駐車場に行った。「美咲ちゃん、どの車に乗りたい?」突然の質問に橋本美咲は我に返った。彼女はぼんやりと頭を上げ、駐車場の車を見渡した。「どの車が颯真の車?それに乗るよ」氷川颯真は笑った。「ここにある車は全部僕のだよ。奥さんは全部乗りたい?」橋本美咲は呆然とし、氷川颯真のハンサムな顔を見つめた。「これ...全部、颯真の?」氷川颯真は橋本美咲の質問に頷いて答えた。橋本美咲は一瞬ぼんやりとした。氷川颯真が裕福だということは前から知っていたが、ここまで裕福だとは思っていなかった。こんなすごい人と結婚した?この時、橋本美咲は初めて現実感がないと感じた。「奥さん?」氷川颯真は橋本美咲の目の前に手を振ってみた。「どうした?ぼんやりして」橋本美咲は顔を赤らめ、どれでもいいからと適当に一台を指さした。氷川颯真は眉を上げた。「ポシェル911か、奥さんは良いセンスをしてるね」そう言って、橋本美咲を車に乗せると、高速道路に入った。運転しながら氷川颯真は話し続けた。「奥さんが、もしこの車を気に入ったなら、あげるよ。毎日これに乗って行けばいい」橋本
氷川颯真は少し無実そうな顔をして、その澄んだ目にはいっぱいの悔しさがこもっていた。「何時、引き寄せたって言うんだ?」橋本美咲は白目で彼を見た。「まだ言うの?一緒に出かけると、いつもみんなの目はあなたに向かってるじゃない。「しかも、その中には美人も少なくないわ。度胸のある子は直接番号を聞いてくるんだから」話すうちに、美咲はますます嫉妬を感じた。氷川颯真は笑って、橋本美咲の頭を優しく撫でた。「番号を聞いてくる子たちが美人だって?僕の妻のほうがもっと綺麗だよ」「お世辞ばっかり!」橋本美咲は顔をそむけ、氷川颯真を見ないようにした。氷川颯真は笑って何も言わなかったが、心の中では少し困っていた。おバカさん、本当に心が広いな。番号を聞いてくるのは女の子だけじゃないんだぞ...あれら発情したオスたちは、妻を見ると足が止まった。何人もが話しかけようとしたけど、全部僕が阻止したんだよ。君が知らないだけだった。もちろん、できるなら、妻には永遠に知られたくなかった。妻には僕だけいれば十分だった。橋本美咲は氷川颯真の心の中の考えを知らなかった。しばらくしても自分を宥めに来ないのを見て、ぷんぷん怒って歩いて行った。氷川颯真はすぐに追いかけると、二人は美咲ちゃんの漫画会社に向かって歩いて行った。橋本美咲が会社のロビーに入ると、さらに気分を悪くさせた人物を目にした。橋本月影だった...彼女を見るや否や、橋本美咲はすぐに引き返そうとした。美咲は全くこの猫被りの妹と関わりたくなかった。さらには、月影の無駄口に付き合う暇もなかった。しかし、遅かった。橋本月影は既に橋本美咲を見つけた。月影の目が輝き、数歩で橋本美咲の前に立った。「お姉ちゃん!」まあまあ心地よい声が、橋本美咲の耳には非常に不快に響いた。美咲は不機嫌に言った。「何の用?」橋本月影の目にはすぐに涙が浮かんだ。「お姉ちゃん、なんで私に怒るの?」橋本美咲は不思議そうに橋本月影を見つめた。「どこか怒ったっていうの?小芝居は、家に帰ってからして!」橋本月影の涙はこぼれ落ちた。以前なら、多分、橋本美咲は月影を慰めた。しかし、美咲は、今では家と仲違いしたから。橋本月影を気にするまでもなく、良い姉妹のフリをする必要もなかった。ましてや月影は自分の多くの社員を引き抜
橋本月影が言葉を失ってその場に立ち尽くしていたのを見て、橋本美咲の気分は少しだけ晴れた。美咲は自分の感情を落ち着かせ、冷たく言った。「で、何しに来たの?」橋本月影は今度こそ目的を思い出した。「特に用事ってほどでもないけど、ただお姉ちゃんのことが心配だから。いつ家に帰ってくるの?」そう言って、彼女は涙目で橋本美咲を見つめた。「お姉ちゃん、たとえお母さんと喧嘩しても、そんなに勝手に家を出るなんて。みんな心配してるんだから」橋本美咲は冷たく笑った。「心配?何を心配することがあるの?「もしあんたが言う心配が、妹と元カレが一緒になって、両親は私が傷つくのが嫌だったから。妹と一緒にそのことを4年間も隠したことを指すなら、その心配はいらないわ。私には重すぎるから」橋本月影は再び言葉に詰まった。こんな大勢の前で、そのことをあからさまに言うなんて、彼女には羞恥心がなかったのか?「お姉ちゃん、どうしてそのことを言ったの?」「どうして言っちゃいけないの?」橋本美咲は「不思議そうに」橋本月影を見た。内心では分かっていた。浮気したのは黒崎拓也で、愛人は橋本月影だった。こんな大勢の前でばらされると、恥ずかしかったから、月影は言ってほしくなかったろう。しかし、あえて言うわ。言わなければ、喬橋本月影と黒崎拓也が結託して、事実を捻じ曲げてしまうからだ。この前のテレビでの一件もそうだったじゃないか。ふん!美咲は不機嫌そうに橋本月影に向かって手を振った。「もしこの話をしに来ただけなら、もう帰っていいわ。「わざわざ優しいふりをする必要はないわ。家に私がいないほうが、嬉しいでしょ?」橋本月影は慌てて橋本美咲を見つめた。「違うの!本当にお姉ちゃんのことが好きなんだ!」橋本美咲はもう彼女に関わりたくなかった。橋本月影が帰りたくないなら、ロビーに立たせておけばいいわ。そして、美咲は橋本月影の話を無視し、彼女を避けるように、エレベーターに向かって歩き出した。美咲にはまだたくさんの仕事があって、橋本月影のような人と長々と話している暇はなかった。「お姉ちゃん、もしかして社員を引き抜いたから、怒っているの?」橋本美咲は足を止めた。「普段はそんな態度じゃなかったのに、いいものがあればいつも譲ってくれたじゃない。「もしそれが理由なら、私は...」
橋本美咲は不快そうに眉をひそめ、声のする方へ振り向いた。ふん!黒崎拓也だった。黒崎拓也は怒りに満ちた様子で、こちらに向かってきた。橋本月影を一気に自分の背後に引き寄せ、橋本美咲を怒りの目で睨みつけると、指を彼女の鼻先に突きつけた。「橋本美咲、何をしているんだ?「月影ちゃんを殴ろうとしたのか?こんな女だったとは思わなかった。以前はてっきり、おとなしい人だと思っていたのに、お前…」「私が何?」橋本美咲は呆れた顔で黒崎拓也の言葉を遮った。「橋本月影に何もしていないわ。どの目で殴ったのを見たんだ?」激怒していた黒崎拓也はその言葉を全く聞き入れなかった。橋本美咲は罪悪感のせいで、彼の話を遮ったのだと決めつけた。「どの目って?両方の目で見たさ!「橋本美咲、どうしてこんなことができるんだ。どうあっても、月影ちゃんはお前の妹なんだぞ!」「黒崎さん!」優雅で低い男の声が割り込んだ。氷川颯真が悠然と歩いてきた。しかも、穏やかな雰囲気を纏っていた。橋本美咲は少し苛立っていた気持ちが徐々に落ち着いてきた。対照的に、黒崎拓也は氷川颯真の存在に気圧され、先ほどの威勢が消え失せた。「何の用だ?」拓也は少し口ごもった。「別に何も」氷川颯真は橋本美咲のそばに歩み寄り、彼女の頭を軽く叩いて、安心させた。そして、橋本美咲の前に立った。「ただ、黒崎さんが我が妻を根拠もなく中傷するのを見て、滑稽だと思ってね」黒崎拓也は再び冷静さを失い、この男の強い気迫も忘れた。「根拠もなく中傷だと?コイツが月影ちゃんをいじめたのをこの目で見たんだぞ!」氷川颯真は笑いを堪えた。こんなに無茶苦茶な人間を初めて見た。「どうして橋本月影がうちの美咲ちゃんをいじめたとは言わないんだ?「美咲ちゃんはただ反撃しようとしただけじゃない?」「ありえない!」黒崎拓也は即座に否定した。「月影ちゃんは優しい子だから。橋本美咲なんかとは違う!」氷川颯真の目は冷たくなり、もう黒崎拓也に遠慮する気はなかった。颯真の良識は限界に達し、今にも殴りかかりそうだった。「黒崎拓也、言葉に気をつけろ。妻を中傷するな。僕の妻は誰にでも中傷できるような人間じゃない!」「お前の妻だと?」黒崎拓也は嘲笑した。「お前みたいなヒモ男が、何の資格があって、そんなことを言うんだ?」
橋本月影は得意げに無表情の橋本美咲と氷川颯真を一瞥した。まるで、黒崎拓也が彼女のために、一矢報いたことに喜んでいるようだった。そして再び、黒崎拓也に注意を向けると、顔に柔らかな表情を浮かべた。「たっくん、これから、誰に会いに行くの?」黒崎拓也は橋本月影の頭を優しく撫でながら答えた。「今回は仕事で出かけるんだ。だから帰る時は、服を着替えなきゃ。ドレスを用意してあるわ。これから会う人は実は大物で、それは氷川グループの社長なんだ。今回の投資について話し合う予定だよ」橋本月影は驚いて口を手で覆った。「氷川グループ?あの、世界中に事業を展開している。世界一の富豪が率いていて、非常に力のあるグループのこと?」黒崎拓也は頷いた。「行こう」「待て、行く必要はないわ」氷川颯真は冷ややかに橋本月影と黒崎拓也を呼び止めた。黒崎拓也は苛立って振り返った。「何だ、お前みたいなヒモ男がまた何の用だ?」氷川颯真は静かに黒崎拓也に言った。「行く必要はない。氷川グループは、もうこれ以上、黒崎グループに投資しないからだ。「それだけでなく、今日から、黒崎グループは氷川グループのブラックリストに載るわ」黒崎拓也は軽蔑な眼差しで氷川颯真を上から下まで見た。「何様のつもりだ。お前の言うことは絶対なの?」氷川颯真は黒崎拓也を一瞥すると、ポケットから携帯を取り出して、電話をかけた。電話はすぐに繋がった。氷川颯真は無駄話をせずに、指示だけを出した。「今日の予約に、黒崎グループのものがあるだろう。それをキャンセルしろ。「それから、今後、黒崎グループをブラックリストに載せ、関連すべての取引を断つように」氷川颯真が電話を切ると、黒崎拓也は呆然と彼を見つめた。何も言う間もなく、黒崎拓也の携帯がすぐに鳴った。不吉な予感が、拓也の胸に広がった。黒崎拓也が電話に出ると、秘書の焦った声が聞こえてきた。「大変です。黒崎社長。氷川グループの社長が突然我々との予約をキャンセルしました。「それと同時に、我々が氷川グループと共同で行っていたすべてのプロジェクトが、一方的に中止されました!」黒崎拓也は目の前が真っ暗になり、震える声で秘書に問いかけた。「今何て言った?」秘書が繰り返そうとした瞬間、黒崎拓也はそれを遮った。「もう一度言う必要はない。ただ、我々の株価がど
橋本美咲は表情の異なる黒崎拓也と橋本月影を見て、心の中で一抹の満足感を覚えた。美咲は受付のお姉さんに手を振って呼びかけた。「有紀、警備員を呼んで、この二人を追い出して」有紀は橋本美咲のご機嫌な様子を見ると、察しが良いように、すぐに外へ走って、警備員を呼び入れた。警備員は黒崎グループの社長と橋本家の二番目のお嬢様を見ると、少し困惑した。しかし、自分の上司がやらせていたことだから、従うことにした。それでも、彼は礼儀正しく黒崎拓也と橋本月影の前に歩み寄った。「黒崎様、橋本様、お帰りください」橋本月影の美しい顔が歪み、橋本美咲に向かって叫んだ。「よくも私を追い出したな!」橋本美咲は気にすることなく橋本月影を一瞥し、警備員に向かって指示を出した。「早くして」押しの強い警備員を前に、橋本月影は歯を食いしばった。月影はまだ呆然としていた黒崎拓也の腕を引っ張った。「たっくん、行こう」黒崎拓也はまだショックから抜け出せなかった。きょとんとした所で、橋本月影に引っ張られて、美咲ちゃんの漫画会社の玄関から外に出た。帰る途中、橋本月影の心には怒りで満ちていた。橋本美咲、覚えていなさいよ!子供の頃から私には勝てなかったから、今さら、私の手のひらの中から抜け出せると思うな。世界一の富豪を夫にしたからって、何?あんたのそのゴミ会社が、どうなるか見ものだわ。視点を橋本美咲の公司に戻すと、橋本月影と黒崎拓也という厄介な二人組が去った後、橋本美咲は嬉しそうに鼻歌を歌いながら、氷川颯真を自分のオフィスに連れて行った。道中、橋本美咲を見かけた社員たちは、みんな挨拶をした。「ボス、こんにちは」橋本美咲は頷いた。社員は多くなくて、五、六人ぐらいだった。橋本美咲はこの少ない人数に慣れていたようで、特に気にしていなかった。しかし、氷川颯真は眉をひそめた。橋本美咲のオフィスに着くと、氷川颯真は心配そうに口を開いた。「美咲ちゃん、どうして会社の社員がこんなに少ないの?経営がうまくいっていないのか?」氷川颯真の質問を聞いて、橋本美咲は少し困った様子だった。彼女は苦笑しながら答えた。「経営がうまくいっていないわけじゃないわ。ただ、会社を始めてまだ一ヶ月も経ってないのに、妹の橋本月影も会社を始めて、わざわざうちと競争してくるのよ。「しかも、うち
橋本美咲は目を見開いて、氷川颯真が携帯を取り出し、数回押して電話をかけたのを見ていた。「もしもし、小栗、管理職の人材を何人か手配してくれ。ある会社で、彼らに事業計画を立ててもらいたい。「場所?美咲ちゃんの漫画会社だ。「そう、君たちの社長夫人の会社だ」橋本美咲は氷川颯真が電話を終えるのを静かに待っていた。颯真が電話を切った瞬間、美咲は何かを言おうとした。しかし、氷川颯真は次の電話をかけ始めた。「千田秘書、東大美芸の学生が我が社に応募してきたろう。彼らを美咲ちゃんの漫画会社に配属してくれ。僕の指示だと言ってくれ」一連の指示が出され、事態は次第に整然としてきた。電話を終えた氷川颯真は、何か言いたげな橋本美咲を見て少し疑問に思った。「美咲ちゃん、どうしたんだい?」橋本美咲は悩みながら首を横に振って、言葉を飲み込んだ。氷川颯真はため息をついた。「愛しい奥さん、何か言いたいことがあれば直接言ってくれ。夫婦なんだから、秘密はないはずよ」橋本美咲は恥ずかしそうに頭を下げ、唇を微かに動かした。「颯真、ありがとう。人材や画家を見つけてくれて。でも、ここで言わなければならないことがあるの。以前、会社の経営がうまくいかなくて、流動資産がほとんど残っていないの。「これだけの人に支払う給与は…すぐには賄えないわ」どもって言葉を終えた橋本美咲は、恥ずかしくて穴にでも入りたいような気分だった。こんな恥ずかしいことを氷川颯真に話さなければならなかったなんて!彼はきっと自分を軽蔑するに違いない。会社の経営状況をこんなに悪くしたなんて。じっとも颯真のように企業を世界一にすることができるとは到底思えなかった。颯真は一体私の何を気に入ったの?!橋本美咲はあれこれ考え始めた。「美咲の会社はずっと利益を出せないままなのか?」「そんなことはないわ!」橋本美咲は頭を上げ、目に強い決意を浮かべた。「橋本月影の圧迫のせいでこうなっているだけで、チャンスがあれば必ず会社を大きくして、成功させてみせるわ!」これまで会社がうまくいかなかったのは事実だった。しかし、もし誰かが橋本美咲に、例えあいつらに足を引っ張られなくても、会社はうまく行ってなかっただろうって言ったら…橋本美咲は、真っ先に反論しただろう。そして、もっと努力して証明してみせた。