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第182話

氷川がさらに入札しようとした瞬間、美咲はすかさず氷川の袖を引っ張り、彼がオークションプレートを持ち上げられないようにした。

「ちょっと待って、颯真。この宝石、私にはそこまで魅力的じゃないわ。あの女性が欲しがっているみたいだから、譲ってあげたらどうかしら。もう入札しないで」

氷川は驚いた表情で妻を見つめた。

さっきまであんなに欲しがっていたのに、こんなに気が変わるものなのか。「本当にいいのか?」

氷川は眉をひそめ、不思議そうに言った。「美咲が欲しいなら、必ず手に入れてあげる。ただ宝石だし」

美咲はため息をつきながら言った。「そうじゃないの、颯真。あなたのお金って本当に無限なの?

「あの宝石、実際の価値は四千万円にも及ばないのに、それでも入札し続けるつもりなの?」

氷川は目を優しくし、妻がこんなにも自分を思ってくれていたことに気づいた。

彼は微笑みながら美咲に言った。「心配しなくていい。僕は一時間でおよそ十二億円を稼げるって計算されたことがあるんだ」

これはただの宝石にすぎないが、美咲が気に入ったら、どんなに高価でも、氷川が必ず手に入れた。

「僕が破産するなんて心配しなくていいよ」

美咲は心の中でツッコミを入れたが、それを口に出すことなく、ため息をついて氷川に言った。「でも、あのサファイアのネックレスは私の好みじゃないのよ。まだたくさんのオークション品が残っているだろう?

「次に私の気に入るものがあるか見たいわ。このネックレスは諦めよう」

美咲の言葉を聞いて、氷川は仕方なくそのネックレスの競りを諦めた。

諦めた後で少し残念に思った。あのネックレスの色や輝きは美咲の肌によく映えると思ったのに。しかし、彼女が気に入らなかったのだから仕方がなかった。

下の席に座っていた斎藤貴美子は少し得意げに微笑んでいた。「氷川さんがどれだけ美咲を大切にしていても、サファイアの一つも買ってもらえないのね」と彼女は心の中で思っていた。

さっき氷川が美咲のために入札していたことなど、もう忘れてしまったかのように。

貴美子は次にどうやって氷川を遊びに誘おうかとウキウキしていると、オークションハウスのスタッフが一枚の紙を手に彼女の元にやって来た。

「斎藤さん、こちらが先ほど落札された宝石とその鑑定書です。また、十日以内に全額をお支払いいただくため、こちらの書類にサ
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