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第187話

氷川は美咲の頭を優しく撫で、「さあ、家に帰ろう」と微笑みながら言った。

そして斎藤に向かって軽く頷いて、「これで失礼します。残りの時間は自由に楽しんでくれます」と言い、

斎藤の横を通り過ぎた。

斎藤は内心で怒りに震え、「悔しいわ!この女のせいで、氷川は私のことなんて見向きもしなくなった。以前はいつも私を優先してくれたのに。

「美咲、絶対に許さない!」と心の叫んだ。

しかし、美咲は斎藤の怒りに気づかず、ただ寒気を感じた。

「ねえ、もしかして斎藤のこと嫌いなの?」

氷川が突然そう問いかけてきた。

その質問に美咲は驚き、まるで猫の尻尾を踏まれたように目を見開き、「なんでそれがわかったの?」と反射的に答えてしまった。

「美咲の斎藤に対する態度がいつもと違っていたからさ。礼儀正しいあなたが、普通はそんな簡単に人を嫌うことなんてないだろう?どうして斎藤が嫌いなのか、教えてくれないか?」

氷川は優しく問いかけた。

美咲は少しの間黙り込んだが、やはり氷川に自分の感情を正直に打ち明けた。「さっきの斎藤さんが、なんだか得意げに私にウインクしたけど、その後すぐに冷たい表情に変わったのよ。彼女が私のことを気に入らないなら、私だって彼女を好きになる理由がない」

この子供っぽい理由に、氷川は思わず笑いを堪えた。まさか、妻にもこんな一面があるとは思わなかった。彼は苦笑しながら首を振った。「まあ、好きじゃなくてもいいよ。どうせ斎藤と深く関わることはないだろうし、美咲が楽しいと思うことを優先すればいい」

美咲は安心したように笑顔で頷いた。彼女は、氷川がこのことで自分に距離を置いたのではなかったかと心配していたが、やっぱり自分の方がもっと大切だと感じたようだ。

その後、美咲はふと思い出したように真剣な表情で氷川を見つめた。「颯真、ちょっと話がある」

氷川は少し困惑した顔をしていた。

「さっきのオークションで最後に競り落とされた封筒にあった紋章とエンブレム、すごく見覚えがあるんだけど。それって、丹波の企業が世界中で活動していたから、エンブレムが製品に使われているか」

その質問に氷川は真剣な顔つきになり、「いや、それは違うよ」と首を振った。

「丹波の企業は確かに企業だが、それと同時に国家でもある。彼らは自分たちのシンボルや国章を無闇に使うことはない。それは彼らのプライベ
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