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第17話

番外·初陽

汐音が妊娠した。

自分がそれほど嬉しいとは思っていなかったのに、この知らせを聞いた時、俺は眠れなかった。

ベランダで一晩中煙草を吸い続けた。

俺は考えた。もし生まれてくるのが女の子ならいいな、と。

きっと俺にも彼女にも似ているだろう。

その時、柚咲のことは頭に浮かばなかった。

汐音と一緒に、娘の服やベビー用品を買いに行った。

俺はこの小さな命が誕生する日を心待ちにしていた。

だが、誰もこんな事故が起こるとは思っていなかった——汐音の整形手術が失敗し、修復が必要になった。

最適なタイミングで手術を行わなければ、彼女は顔面麻痺になる可能性がある。

だが、手術をすれば、子供が助からないかもしれない。

俺は長い間葛藤し、彼女の瞳に未来への期待が込められているのを見るたびに、何度も言いかけては言葉を飲み込んだ。

ついに、最後の時が来た。

それで、俺は彼女に無理やり手術を受けさせた。

そして、その子はやはり失われた。

汐音は長い間泣き続け、俺の袖を掴んで言った。「初陽、あなたを好きにならなければよかった」

「もう二度と、あなたの子供を産まないわ」

俺は苛立ちながら煙草を一本吸い終え、「いなくなったならそれでいい。この子が生まれても、彼女には似ていなかっただろうし」と言った。

汐音は悲しそうに俺を見つめていて、俺はこの言葉を口にしたことを少し後悔した。

謝りたいと思ったが、どうしても言葉にできなかった。

汐音が俺の謝罪を受ける価値があるだろうか?彼女はただの替え玉だ。

その後、俺はいつも自分にそう言い聞かせた。

彼女はただの替え玉に過ぎない、と。

だが、なぜか彼女が死んだ後、空が崩れ落ちたように感じた。

気付けば、彼女は俺の心の中で、ただの替え玉ではなくなっていた。

俺はただ、自分を欺いていただけだったのだ。
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