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第8話

初陽は携帯を強く握りしめた。

顔が一瞬で険しくなり、低い声で言った。

「なんだと?汐音が君たちに一緒に演技をさせてるっていうのか?」

「君たちの医療技術はどうなっている?彼女に何かあったかどうか、機器で確認できないのか?」

「さっさと彼女を呼び戻せ!」

彼は電話を乱暴に切った。

救急車はすぐに到着し、母を病院に急いで搬送した。

パーティーはまだ続いていた。

だが、今回は初陽が脇に腰掛け、呆然とした様子で、何かを考えているようだった。

柚咲がワイングラスを手にして彼の前に歩み寄り、「何を考えているの?」と聞いた。

初陽はゆっくりと顔を上げ、「さっき、誰かが言ってたんだ......汐音は本当に死んだかもしれないって」と答えた。

「ただの安い命でしょう、死んだならそれでいいじゃない――」柚咲は軽く笑い、顔には侮蔑の表情が浮かんでいた。

「そうだ、言い忘れてたわ。

汐音が手術をしていた日、あなたは私に会いに来たでしょ?

その時、あなたがトイレに行ってる間に、あなたの携帯が鳴ったから、代わりに出たのよ。電話をかけてきた人、確か病院の人だったわ。何か亡くなったって話してたと思うけど、代わりの女が死んだだけだし、別に重要じゃないと思って――

きゃっ!何するのよ!」

柚咲の手に持っていたワインが、初陽が突然立ち上がったせいで、彼女自身にかかってしまった。

彼女は眉をひそめ、不満そうに顔をしかめた。「急に立ち上がってどういうつもり?」

初陽は突然、外に向かって駆け出した。

「初陽!」柚咲は足を踏み鳴らし、苛立ちを込めて彼の名前を叫んだ。「私の限定ドレスを汚したんだから、十着で弁償しなさいよ!」

だが、いつもなら柚咲を気にかける初陽が。

今回は振り返らなかった。
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