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第9話

初陽が病室に駆け込んだ時、母はすでに目を覚ましていた。

彼女は窓の外をじっと見つめ、振り向きもしなかった。

初陽は彼女を乱暴に引き起こし、「汐音はどこにいるんだ!」と問い詰めた。

彼の冷たい瞳には、少しの不安が見え隠れしていた。

まるで何かを恐れているかのように。

「死んだわ」

母は頭も振り向かずに答えた。「体はすべて灰になったわよ」

「そんなはずはない!」初陽は信じられない表情を浮かべた。

彼は異常なほどの緊張を見せ、母の腕を強く引っ張り、威圧的な口調で低く言った。

「さっさと彼女を呼び出せ!」

母は無表情で彼を見返し、瞳には死の陰が漂っていた。

彼女は何も言わなかった。

初陽は徐々に、母が嘘をついていないかもしれないと気付き始めた。

声がかすれ、再び口を開いた。「おばさん、あなたの体が今どれだけ悪いか、そして化学療法に多額の費用が必要なのも知っています。汐音に伝えてください。もし彼女が姿を見せなければ、病院でのすべての資源と費用を打ち切ります」

母は堪えきれず、笑い出した。その笑いの中で涙がこぼれ落ちた。

彼女は笑いながら震え、言った。「そう、そうしてちょうだい!」

「ちょうどいいわ、私も汐音のもとに行ける!」

母は彼の手を振り払い、勢いよく彼の顔を平手打ちした。

その一撃で、初陽の頬は瞬く間に腫れ上がったが、彼は反撃せず、呆然と母を見つめ、何を考えているのか分からなかった。

母は自分の掌を擦りながら、ゆっくりと語り始めた。

「初陽、あなたは知らないでしょうけど、汐音が死んだ後、私は彼女のそばで、息が詰まりそうだった......」

母は悲痛な表情で言葉を続けた。「病院から電話があって、来週汐音を産婦検診に連れてくるようにと通知があったの」

「医者は汐音にこの子供が安定していないと言い、慎重に過ごすように言ったわ――でも病院は知らなかったのよ、もう母子ともに命を落としていたなんて!」

母は涙で息が詰まりそうになり、「初陽、これがあなたたちの二人目の子供でしょう?」と泣きながら問いかけた。
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