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第2話

私は、桜井笑美。名前には「笑」が入っているけれど、全然笑えない。

なぜなら、私は死んでしまったから。

隣の家の地下室で。

死ぬ前に、生きたまま肉を削がれ、死んだ後は冷たいホルマリンの中で保存されている。

誰も私の叫びを聞いてくれなかった。誰も、私の絶望に気づかなかった。

一方その頃、弟は法医学の実習が怖くて母に泣きついていた。

「お母さん、やっぱり行きたくない......怖いよ」

母さんは優しく言い聞かせていた。

「怖がらないで。大丈夫よ、実際に解剖はしないんだから」

弟は少し口を尖らせながら、渋々うなずく。

「ねぇお母さん、姉ちゃんはどこ行ったの?ここ数日、全然帰ってこないよ」

母さんは面倒くさそうに答える。

「お姉さんなんて、嘘ばっかりついて、またどこかで遊んでるんじゃないの?

むしろ死んでくれたほうが楽だわ。あの子ったら、こないだだって......」

「もう気にしないで。縁起でもない」

その時、電話が鳴り響く。

受話器の向こうで、警察が重い口調で話し出す。

「桜井さん、現場の状況ですが、被害者は20歳の女性です。

生前、凌遅刑で殺されていて、非常に残酷な手口です」

母さんは有名な法医学解剖の専門家で、業界で初めての残忍な事件に彼女は挑戦意欲を燃やしていた。

「わかりました。すぐに現場に向かいます」

準備を整えて弟に声をかける。

「さ、文彦。現場に行くだけだから、怖がる必要はないわよ」

しかし、現場の住所を聞いた瞬間、母さんの顔色が一変する。

その場所は、私が殺された隣家だったのだ。

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