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第5話

私はずっと、母さんと弟のそばを漂っていた。

すると、突然母さんの携帯に学校の先生から電話がかかってきた。

「もしもし、桜井笑美さんの保護者の方ですか?

笑美さんの携帯が繋がらず、寮にも戻っていないようです。もう3日間も学校に来ていません」

母さんはさして気にせず、適当に応対して電話を切った。

「心配いらないわ。

どうせまた、どこかで遊び歩いてるんでしょ!」

そう、心配なんていらない。だって、もう私は二度と心配させることなんてできないから。

母さんは、昔から私のことが嫌いだった。

私なんて、母さんが結婚を繋ぎ止めるための道具でしかなかった。

だから、母さんが少しでも機嫌が悪い時には、私は殴られたり、罵られたりする対象になっていたんだ。

弟が生まれるまでは。

弟が生まれると、すべてが変わった。

10歳の弟は母さんに溺愛されて、まるで宝物のように扱われていた。

弟がほんの少しでも怪我をすると、母さんは昼夜問わず、弟のそばに付き添って丁寧に看病していた。

それに比べて、14歳の私はと言えば、学校とバイトを両立し、さらに弟のために稼いだお金で、彼の習い事まで支払わされていた。

私のお金は、いつの間にか弟のために使われるのが当たり前になっていたんだ。

それでも、母さんは私のことを「遊び歩いている」と決めつけて、いつもこう言っていた。

「死んでしまえばいいのに」

今となっては、母さんの願い通り、私は本当に死んでしまったけどね。

この家では、無視されるのが日常で、いじめられるのが普通のことだった。

私が14歳の時、41度の高熱を出した。

ベッドに横たわり、辛くて震えながら、母さんに頼んだ。

「母さん、苦しい......病院に連れて行ってくれない?」

でも、母さんは私をちらりと一瞥して、冷たく言い放った。

「仮病使って学校に行かないつもり?絶対ダメよ!」

私が熱で幻覚や幻聴に襲われていた時でさえ、母さんは一言も私を気遣ってくれなかった。

最終的には、私は壊れた人形のように無理やり母さんに学校へ引きずられていった。

その夜、私は熱で頭がぐらぐらして、死にそうなほどの痛みを感じていた。

結局、私を見かねた先生が救急車を呼んでくれて、ようやく助かった。

それ以来、私は気づいたんだ。母さんは、私のことなんて愛していないって。
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