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第12話

暗い廊下を、弟は独り歩いていた。

彼はイライラしながら悪態をつき続けていた。

「なんだよ、死んだら死んだで終わりにしろよ。お母さんまで頭おかしくなっちまって、最悪だ!

自分が無能なだけだろ。死んで当然だよな」

歩いていると、背中に視線を感じた。

しかし、振り返っても誰もいない。

彼は思わず寒気を感じ、足を速めた。

その時、突然天井から大きな網が降ってきて、弟はしっかりと捕らえられてしまった。

「うわっ!」

彼の叫び声が夜空に響く。

暗闇の中から、いくつもの手が伸びて彼を押さえつけ、その口を布で塞いだ。

「動くな、下手に動けば、すぐに殺すぞ」

月明かりの下、弟はようやく周囲の状況を確認した。

いかつい男たちが彼の口に布を押し込み、しっかりと縛り上げていた。

「なんだ、この白い肌。男のくせに、こんなに尻がキュッと上がってるなんて、そりゃ歩いてるだけで狙われるわな」

彼らは唇を舐め、弟の顔を興味津々に眺めた。

その時、曲がり角から声が聞こえてきた。杖をついた近視の老人が近づいてきた。

「何を騒いでるんだ、こんな夜中に......命が惜しくないのか?

おいおい、これは虎か?こんな大きな網を使って、まだ生きてるのか!

兄ちゃん、お前らも勇気があるな。夜中に虎を捕まえて、食われたりしないのか?」

「いやいや、この虎はおとなしいもんさ」

男たちは大笑いした。

「お爺さん、さっさと帰れよ。この虎がお前を傷つけたら、大変だぞ」

弟は必死に「んんんっ」と叫び、恐怖で目を見開いた。

「うわああ――!」

先ほどよりもさらに大きな叫び声が夜を裂いた。

男たちは、持っていた器具を使って弟を蹂躙した。

彼がいくらもがいても、無駄だった。

どれだけ叫ぼうが、助けなんて来ない。

なぜなら、その時、母さんはまだ遺体安置所で泣きながら懺悔をしていて、家に帰る気などなかったからだ。
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