Share

第7話

母さんは有名な法医学の専門家で、その世界では「桜井一刀流」として知られていた。

多くの人が、彼女に解剖の指導を依頼し、さらにはいくつかの地方の機関から顧問としても招かれていた。

その名声に弟も加わるべく、母さんは彼の未来をしっかりと計画していた。

母さんの威圧感に抗えず、弟は嫌々ながらもその道を選ぶことになった。

母さんの手引きで、弟は無事に大学の法医学部に進学した。

母さんは、弟が優秀な法医学者となり、自分の後を継ぐことを当然のように期待していた。

ちょうど良いタイミングで、母さんが所属する研究所が見習い法医を募集していたので、母さんは迷わず弟を推薦した。

弟は実習生の中でも評判が良く、研究所の上層部も彼が母さんの宝物であることを知っていた。

研究所には母さんを崇拝する人も多く、そのため弟も自然とちやほやされていた。

「お母さん、最近お金が必要なことが多いんだよ。これからお姉ちゃんにもっとお金を送らせてよ。

この前、友達と遊ぶ時にお金がなくてさ、あいつわざと送ってくれなかったんだ。マジでイライラする!」

弟は不満げな顔で文句を言う。

私はその様子を見ながら、もう心が完全に麻痺していた。

目の前の母子が、ただただ刺々しく感じる。

幼い頃から、私は終わりのないATMのように扱われていた。

大学に入ってからも、奨学金や助成金はすべて母さんと弟に吸い取られた。

夏休みにアルバイトをしてようやく貯めた学費も、すぐに弟に要求される始末。

「いいからさっさとお金を渡せ。無駄に話を長くするな。

金を渡さないと、お前の学校に行って、みんなにバラしてやるからな!」

弟はパラサイトのように、私のすべてを奪い取ることに慣れ切っていた。

「姉なんだから、弟に譲ってやればいいじゃない!

文彦は将来、一家の主になるんだから。今のうちからお金の管理を覚えさせないと」

母さんは幼い頃から、弟に「奪うこと」だけを教え、「与えること」を教えることは一度もなかった。

私なんて、ただの道具。弟の要求を満たすための存在にすぎなかった。

弟は自分の未来に無限の期待を抱いているけれど、残念なことに、彼は法医に向いている人間ではなかった。
Locked Chapter
Continue to read this book on the APP

Related chapters

Latest chapter

DMCA.com Protection Status