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第10話

母さんは突然、ヒステリックに叫んだ。

涙が顔を流れ、何が悔しさで何が痛みなのか、もうわからなかった。

弟はびっくりして、キョトンとした表情を浮かべた。

「お母さん、どうしちゃったんだよ?おかしいだろ!俺はお母さんの息子だよ!」

その時、佐藤が真剣な顔で弟に向かって話しかけた。

「文彦、これは君にとって受け入れ難いことかもしれないが、真実を知る必要があるんだ

この遺体は、君のお姉さん、桜井笑美なんだ」

弟は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに目を反らし、馬鹿にしたように鼻で笑った。

「はぁ?なんで俺にそんな話するんだよ!関係ないだろ!

お母さん、佐藤さんにちゃんと言ってやってよ、冗談はやめてくれってさ!」

すると、母さんは限界を迎え、弟に向かって何度も平手打ちを食らわせた。

「全部お前のせいだ!お前のせいだ!お前のせいだ!」

弟は突然のことに何が起きているのかわからず、慌てて叫んだ。

「お母さん!なんで殴るんだよ!俺が何をしたっていうんだよ!」

二人のやり取りを見かねた佐藤が、大声で制止した。

「いい加減にしろ!もうやめろ!」

しかし、二人は聞く耳を持たず、佐藤は仕方なく他の警官を呼び、二人を引き離した。

長い間、私は彼らが罰を受けることを望んでいた。

でも、まさかこんな形で喧嘩するなんて、思ってもみなかった。

「たかが死んだ姉だろ?なんでそんなに騒ぐんだよ!

どうせ、あいつが生きてても不幸しかもたらさなかったんだから!」

私は遺体安置所のベッドの上から冷ややかに二人を見下ろしていた。

滑稽だ、本当に滑稽だ。

やっぱり家族って、互いに理解し合うものなんだよね。

時には、こんな風に犬同士で噛み合って、ストレスを発散することも必要なんだろう。
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