第38話

鈴木拓海は気まずそうに箸を引っ込め、野菜を口に運んで黙々と食べ始めた。

私はあまり食欲がなく、青菜を数口食べただけで箸を置き、彼が食べ終わるのを待っていた。

彼の黒い髪を見つめながら、私は無意識に昔のことを思い出していた。幼い頃のやんちゃな時代や、青春時代の思い出、そして鈴木拓海との19年間のいろいろな出来事を。

彼が食べ終わり、私に目を向けた。彼はナプキンを手に取り、私の唇に付いた油を拭こうと手を伸ばしてきた。

十五夜のあの晩以来、彼とこんなに親密なことはなかった。その行動があまりにも突然で、私は反射的に身を引いた。

彼は一瞬手を止めたが、笑って手を引っ込めた。

「すき焼きも食べ終わったし、何か言いたいことがあればどうぞ」

彼は少し眉をひそめ、何かを考えているようだった。目の奥には複雑な感情が見えた。

「佐藤美咲、この間のことは明日香が悪かった。僕が彼女の代わりに謝るよ。でも、君にも悪いところがあったんだ。彼女は父親の件で大きな打撃を受け、特に敏感で自信がない。僕たちは小さい頃から一緒に育って、深い絆で結ばれているんだから、いずれ家族になるわけだし、僕は……」

彼はそこで言葉を止めた。私は彼を真っ直ぐ見て、彼が何を言いたいのか興味津々で聞いた。「何を考えてるの？」

「僕は、君が僕の顔を立てて、彼女に対して少し気を遣って欲しいんだ。彼女を刺激しないで欲しい。あの日、帰った後彼女はすごく泣いていて、『私と一緒にいることがどれほど自信を失わせるか』とか、『君が私のせいで他の人に笑われるのが怖い』とか、『君の隣に立つと自分が劣っていると感じる』とか、言ってたんだ。美咲、僕は彼女がいつも悲しんで泣いているのを見たくないんだ、わかってくれる？」

私は悲しげに笑った。

理解できなかった。彼の無条件の偏愛に呆れてしまった。

謝罪するために食事に誘うと言ったけれど、やっぱり信じた私が馬鹿だった。結局、彼が私を食事に誘ったのは、すき焼きを口実にして彼の恋人を傷つけないよう私に頼みたかっただけだ。

彼が言ったこと、私は全部できる。でも、どうして？

私は鈴木拓海の前で卑屈になるのは自分の意思だとしても、彼の恋人の前でまで屈服しなければならないの？

誰があなたに私に指図する権利を与えたの？

私は冷笑して、心の中が荒れ果てていた。「それはあなたの彼女であって