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第4話

「そんな手間はかけなくていい。そこにある」

司は鈴音が「それ」を指しているだと勘違いし、顎をベッドサイドのテーブルに向けてしゃくった。そこには精美なストレージバスケットがあり、さまざまな種類のアイテムが整然と並べられていた。

「......」

今どきのホテルって、こんなに至れり尽くせりなの?

「じゃあ......私、ちょっとシャワー浴びて来ます」

鈴音はドキドキしながら司の体を二度ほど押してみた。

どうやら司が次に何をしようとしているのか、鈴音はなんとなく感じ取っていた。

くそっ、主導権を握っていたはずの自分が、どうして気が付けば獲物みたいにされているの?

もしかして司はずっとタヌキ寝入りだったのか?

疑心混じりの目で司を見上げると、鈴音の表情には一抹の驚きと怯えが漂っていた。

小さな女の子の動き一つ一つを司は冷静に観察し、彼女の考えをほぼ察していた。司の周囲には彼の隣を狙う女は数多くいたが、いざとなると逃げ出そうとするのは、この女くらいだろう。

ますます面白くなってきた......

夜はあっという間に過ぎ、朝日が差し込んでいた。

鈴音が目を覚ますと、何気なく隣を振り向いて司の姿を目にした。彼の顔立ちは冷たく鋭いが、眠っている時はその威圧感が薄らいでいた。

まるで眠りについたライオンのように、凶暴さも傲慢さも全てが収まっていた。

鈴音は司の方に身を寄せ、じっくりとその寝顔を観察した。

端正な顔立ち、白い肌、少し生えた顎のヒゲ、そして長い睫毛。

「......」

鈴音は心の中で小さな嫉妬を覚えた。この男、マジでどんだけかっこいいんだよ。

彼女の視線があまりにもあからさまだったのか、司の眉が微かにひそめられた。

鈴音は慌てて寝転がり、幸いにも司はすぐに動かなくなった。

鈴音はそっと司の腰に回されていた手を引き離し、彼に気づかれないように息を潜めて動いた。

鈴音は司が目を覚ましたときに目が合うのは避けたかった。彼が起きる前に服を着て、さっさとここを抜け出したかったのだ。

そう考え、彼女はバッグから持っていた現金を全部取り出してテーブルに置き、そそくさとその場を離れた。

鈴音が部屋を出てからわずか10分も経たないうちに、ベッドの上の男は目を覚ました。

彼は隣に鈴音がいないことを予想していたようで、淡々とベッドから起きて服を身に着け、ベッドサイドのテーブルに何かが置いてあるのに気づき、近づいて確認した。

そこには現金の束と一枚の紙切れが置かれていた。

「叔父さん、昨夜は楽しかったですね。二万円のキャッシュ、ほんの気持ちですが、これで運気アップ!後はもう会わないかも!」

「後はもう会わないかも?」司はその言葉に目を走らせ、皮肉な笑みを浮かべた。

紙切れをゴミ箱に投げ捨てると、現金をそのまま懐にしまい込んだ。

ちょうどその時、特別アシスタントの佐藤から電話が入り、フライトの予約が完了したと伝えられた。そして、更に言葉を足した。

「副社長様、もしご都合が悪いようでしたら、フライトを明日に変更することも可能ですが?」

「必要ない。今すぐ行く」

一瞬の間をおいて、司は佐藤に指示を与えた。

「それから、ホテルに頼んで昨夜の女の情報を調べさせろ」

「かしこまりました、副社長様」

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